ぬいぐるみ事件の真相
「ふわぁ、今日は疲れたねー」
簡素な夕食の後、サフィスとエレイアラは、夜会に出かけてしまった。イフロースは同行していないが、別のところに用事があるらしい。明日以降の面会予定を調整するため、あちこちに前もって顔を出さねばならない。
ということで、今夜の別邸はリリアーナの思うがままだ。俺もナギアも、本当はいけないのだが、なんと子爵一家が寝起きする部屋に招かれている。大きなベッドの上に、三人がそれぞれ腰を下ろして、のんびりしていた。
「もう……」
心底疲れた、という顔で、ナギアは溜息をつく。
「どうなるかと思いましたよ。あんなのは、もうやめにしてください」
「えー」
「えー、じゃありません。寿命が縮まりましたよ」
まったくだ。俺もあれには面食らった。
にしても、王族どものひん曲がり方は、並大抵じゃなかった。グラーブの高慢さ。リシュニアの偽成熟。ティミデッサの臆病さ。だが、なんといっても、あのアナーニアのクソ意地の悪さ。
だけど、またなんであんな、喧嘩を売るような態度をとったんだ、リリアーナは。
「お嬢様」
「なぁに、ファルス?」
「どうしてあのような」
「えー、だって」
天真爛漫な笑みを浮かべたまま、彼女はアッサリと言い切った。
「大嫌いだから!」
おおう。
シンプルこの上ない、しかし納得できる回答だ。
「それは、みんな、ですか?」
「ううん、リシュニアちゃんはまだいいの。でも、グラーブもアナーニアも嫌い」
そこへナギアが口を挟む。
「お嬢様、そのようなこと。誰にも聞かれていないから、いいようなものの」
「だって、嫌なものは嫌なんだもん。ね?」
一応、理由を聞いておこうか。
「でも、ではなぜ嫌いなんですか?」
「んー」
少し考えるようにしてから、リリアーナは説明してくれた。
「だってー、グラーブは、私のこと、お妾さんだって言うんだよ」
「はっ?」
「なんか、前にパパが、王子様のお嫁さんにするから、とかって言ってて。前に会った時に、王家のソクショーになるなら、もっとちゃんとしろってうるさかったの」
側妾。
思いっきり日陰の女じゃないか。あの、サフィスのクソ野郎……
今日のティーパーティーにも、出てきたのは正妃のソルニオーネだけだった。側妾達が産んだ娘達は、顔を見せたのに。
次期国王の側妾なら、あまり身分の低い女性は選ばれない。基本的に貴族からで、騎士階級出身者からとなると、既に例外的だ。庶民以下など、側妾になれもしない。もっとも、地位の高い貴族も、さすがに自分の娘を側妾として差し出すことはない。ちょうどサフィスくらい、子爵とか男爵とか、その辺の下級貴族の家柄から引っ張ってくるのが一般的だ。
そうして側妾として嫁いだ貴族の娘達の人生は、必ずしも明るいものとはいえない。正夫人の地位にないために、結婚式にしても控えめで済まされてしまうし、社交イベントの多くに参加できない。辛うじて人前に出る機会があるとすれば、それこそ貴族が勢揃いするような大きな夜会とか、或いは庶民相手のチャリティーイベントとか、そんな程度だ。
だが、何より悲惨なのは、自分の子供が、まず正夫人に対して「母への礼」をとることだ。彼女ら側妾にとって、自分の子供達は、まず我が子である以前に、王子なり国王なりの息子であり、娘なのだ。
ちなみに、下級貴族の娘達以下の身分の女性がお手付きとなると、これはもう、完全に愛人扱いだ。下手をすると、子供を産んでも、別の側妾が母親でした、なんて話になったりもするらしい。我が子を我が子と呼ぶことすらできないわけだ。
そしてそういう女性は、きっと大勢いる。でなければ、グルービーのビジネスが成り立つわけもない。
これが一般の貴族の家庭だと、もう少し緩やかになる。騎士階級出身の女性でも、側妾としてなら、正式に迎え入れてもらえる。場合によっては、自由民でもだ。ただ、正夫人となると、やはり貴族であるのが望ましい。まあ、最初の妻が病死するなどした場合に、繰り上がりでその地位を得るというケースなら、多々あるのだが。
とにかく、そういう事情があるから、娘を溺愛する父親なら、まず王族の側妾なんかにしようとは思わない。そこをあえて捻じ込もうとするのは、大抵、何かさもしい考えがあるからだ。
まず、婚礼にかかる費用を大幅に節約できる。また、王家とのパイプにもなり得る。娘が気に入られれば、自分の家が優遇されるかもしれないし、仮に王子でも産んでくれれば、運がよければ次期国王に選ばれるかもしれない。
だが、それは険しい道程だ。現に、今だって第一王子のフミールは、弟のタンディラールに追いつかれ、追い越されてしまった。こうなると、彼の将来は、せいぜい良くて年金公爵だ。要職を与えられることもなく、王家の要地に派遣されることもなく、ただ人生の終わりを待つだけだ。
要するに、側妾という選択は、まったくポジティブなものではあり得ない。
「……それ、どうなったんですか」
「なしになったよー?」
「なぜですか?」
「んー、じいやも、ママも、猛反対してたし。それに、ティン……なんだったっけ? どこかの伯爵様のお嫁さんにするからって」
「ああ……」
打算から打算じゃないか。まったく、サフィスのビチグソ野郎……
ティンティナブラム伯の息子は、確か今、二十歳だったはずだ。レジネスとかいったか。夜会で見たっけ。事前情報では、病弱な男だということだったが、そういう様子はまったくなかった。ただ、能力的には底辺も底辺、努力の形跡がまったくみられない奴だった。
そのレジネス、とっくに結婚適齢期に突入している。そろそろ妻を宛がわれてもいい頃だ。なのに、まだ七歳のリリアーナを予約とか、あり得ない。この話、まだ消えてなかったのか。
けど、これ、どうなんだろう。リリアーナが十七歳か十八歳で結婚するとして。すると奴は、三十過ぎだ。子供なしに死ねば家が断絶するから、当然、その前に側妾を娶って、子供も産ませたりするだろう。よって、リリアーナが嫁ぐ頃には、十歳前後の長男が待ち構えている。
十年間も大奥を仕切ってきた側妾達だ。そこへ今から正妻ですといって、若い女が一人、迷い込んでくる。今更、家中の権力を奪われるなんて我慢なるまい。ティンティナブリアでの彼女の生活は、きっと針の筵だ。
かつ、レジネスが噂通り病弱なら、もうその年齢で、まともに子作りもできなくなっているかもしれないし。やはり結果的に、正妻とはいえ、リリアーナは日陰の女になる。
「そういえば、ファルスはこの前、行ってきたんだよね、ティン……」
「ティンティナブリアです、お嬢様」
「ああ、うん、そう、それそれ! どうだった?」
一瞬、言葉に詰まる。
『そりゃもう、すっごいド田舎でしたよ。どこの村も寂れていて、みんな不親切で、宿を借りても出てくるのは、マズい芋のスープだけ。オマケに城下街はがらんどうで、少し離れたところにはスラムができてて、そこには乞食やら売春婦やらがウロウロ、更には乱暴者の兵士達がやりたい放題で、すぐ人も死ぬし』
言えない、な。これは。
「何もないところでしたよ」
「えー」
無難な回答しかできない。
すぐ隣で、ナギアも頷いている。彼女はティンティナブリアの惨状を目にはしていない。だが、想像ならつくのだろう。なんといっても、あの不潔きわまる伯爵に尻を触られそうになったのだから。
「お嬢様が暮らすには、不自由すぎるかと」
「んー」
ベッドの上でゴロンと転がって、不満そうな声をあげる。
「別にいいよー」
「いい、とは?」
「田舎でもいいの。なんかねー、いろいろ疲れちゃった。だから」
そこへナギアが口を挟んだ。
「いえ、ですが。これはためにならないかと。あの伯爵のところに嫁ぐのだけは、やめたほうがいいかと思います」
「決めるの、私じゃないよ」
「それはそうですが……」
すると、リリアーナはベッドに突っ伏した。そのまま、ベッドに腰掛ける俺とナギアとを掴んで、その間に顔を埋める。
「いいもん。今は楽しいし」
そう言いながら、俺とナギアの腿に頬擦りしつつ、膝から先をバタバタさせる。
「ナギアとファルスがいれば、いいもん」
グッと胸を押さえられるような気がした。
リリアーナには、選べる未来がない。結婚相手はサフィスが決める。どこであれ、放り込まれた家の中で、我慢に我慢を重ね、生きていくしかない。
ならば、幸せはどこにあるのか? 今、ここにしかない。ゆえに、それを全力で味わいつくす。その他の努力は、すべて無駄な手間で、余計な時間だ。勉強も、音楽のレッスンも。王家の子女に嫌われても、そんなのどうでもいい。ド田舎のティンティナブリアに嫁いだら、あの貧しい領地が再建されでもしない限り、きっと中央に出てくることもないだろう。
今。今がすべて。聡明な彼女だからこそ、それがはっきりわかる。だが、だからこそ、少しずつ確実に、リリアーナの心は蝕まれつつあるのだ。
どうすればいいのだろう?
だが、迷う俺を差し置いて、ナギアが提案した。カラッと明るい声で、だ。
「そういえば、お嬢様、今日の午前中、街に出た人に買い物を頼んでおいたんですよ」
「えっ、どんな?」
「なんでも、王都で今流行の、新作ボードゲームとか」
「えっ!」
ガバッと身を起こす。
「やるやる! どこにあるの?」
「私の部屋に……今、持ってきますね」
「うん!」
ナギアは、そっとベッドから降りる。
「あ、そうだ、ファルス」
「なんでしょう」
「細かい駒とかあるから、手伝って」
「はい」
それで俺も立ち上がり、ナギアについていく。
「あうー」
後ろでリリアーナが手足をバタバタさせている。早く戻ってこい、という意思表示だ。
すぐ隣の部屋に立ち入る。ランとナギア、サーシャの部屋だ。人気もなく、心なしか、空気もしん、と沈み込んでいるような感じがする。
ナギアはランタンを片手に、どんどん奥へと踏み込んでいく。すぐに目当てのものが見つかった。
「それよ。落とさないようにね」
なんだ、自分で持つつもりはないのか。まあ、ランタン持ってるし。この世界、電灯みたいな便利なものはない。光魔術でも使えるなら、両手を自由にできるが……触媒なしにそれをやろうとすると、俺の知人の中では、セリパス教会のリンか、神官長のザリナくらいしか、できるのがいない。
「よっ、と」
片手でボードを抱え、もう片方の手で、駒の入った箱を掴む。ボードが思った以上に重いので、両腕で抱え直す。
さて、部屋に戻ろう、と思ったところで、なぜかナギアが立ち止まっている。なんだ、どうした?
不意に彼女は、空いているほうの手で、石の壁をぶん殴った。
「……ファルス」
背中を向けたまま、暗い声で呟く。
なんだ? いつになく怖い雰囲気だ。
「は、はい?」
「助けて」
「は?」
「助けてよ。できるんでしょ? バケモノなんだから」
随分な言われようだ。だが、ナギアからすれば、それ以外、表現のしようもあるまいが。
その声には、ドス黒い憤りが滲んでいる。
「……お嬢様は、本当はあんなじゃない」
「ええ」
一呼吸おいてから、ナギアは静かに語りだした。
「知ってた? 私、昔はいじめられてたの」
「えっ?」
まさか? この、気が強いナギアが、か?
「ルードが乱暴ばかりするから、みんな、恨んでて。だから、代わりに私に仕返しをするようになったの」
「そうだったんですか」
しかし、説明されてみると、腑に落ちる。
出会った当初の、あのナギアのいやらしさはどこから来たのか? もっというと、あの汚い言葉遣いは誰が教えたのか? 年嵩の子供が、痛みとともに叩き込んだに違いない。
だが、いじめられていたなら、イジメっ子になるなんておかしい? いや、得てしてそういう体験のある人間の方が、復讐心が強い。何より、いじめる人間も、いじめられる人間も、どちらも本質的には弱者だ。
「それでね、私が初めて手作りしたぬいぐるみも、年上の女の子に取られちゃって」
……ん?
「バカだったわ。泣いてるところをお嬢様に見られて、話しちゃったのよ」
それって、まさか。
「誰に取られたかは言わなかったけど、どんなぬいぐるみだったかは、言っちゃったの。そのすぐ後だった。私から、そのぬいぐるみのお人形をね、横取りした子が、ひどく叱られてた。お嬢様が、それを取ったのを、取り返そうとしたんだって」
覚えている。誘拐事件の時だ。
リリアーナは、召使の子供が持っていたぬいぐるみを横取りしたことがあった、と告白していた。本当は返そうとしていたのに、その前に大人が出てきて、相手の子供を引っ叩いたのだと。以来、彼女の部屋には無数のぬいぐるみが持ち込まれた。心無い侍女達の拘束の中で、家出を繰り返しもした。
「それって、まさか」
「知ってるの?」
ナギアが一瞬、振り向く。
「いや、でも。ナギアのだったとは、言ってなかったけど」
「そう」
また前を向いてしまう。
「その続きがあるの。後でお嬢様に呼ばれてね。これ、ナギアの? って訊かれたわ」
「どう、したんですか?」
その質問に、彼女は俯いてしまった。ややあって、ようやく声を発した。
「違う、って」
「違う?」
「私のだったわ。でも、違うって言ったの」
「それは、どうして」
ナギアは、そこでくるっと振り返った。
「だってそうでしょ? そんな風にぬいぐるみを取り戻したら……どんな目に遭うと思う?」
お嬢様を使って、力ずくで取り戻した。ついでに仕返しもした。確かに、これで報復を予感しなかったら、ナギアは間抜けだ。
「私、怖かったの」
唇を青ざめさせながら、ナギアはいつになく低い声で、そう言った。
「だから、逃げたの。遊ぼう、って言われても、理由をつけて断った。なるべくお嬢様の部屋に近付かないようにした。それに、部屋付きの侍女達に睨まれたら、もっとひどいことになるから」
「そんな」
まったく初めて聞く話だ。
「お嬢様は、そんなこと、一言も」
「言わなかったんでしょうね。自分の悪い話しか」
見れば、ナギアは拳を固く握り締めている。
『私、一緒に遊んで欲しかったのに。みんな、顔も見てくれない』
あの誘拐事件の時の、リリアーナの一言。その中には、ナギアも含まれていた。
それにしても、ではなぜ、彼女はその人形を取ったのだろう? 奪い取って、ナギアに返すつもりだった? なら、最初からそう言えばいい。私知ってるわ、これ、ナギアのでしょ、いじめたら許さないから……こう言われたなら、当時のイジメっ子達だって、震え上がって言う通りにしたはずだ。
では、そうではなく、単にそのぬいぐるみを自分の物にしたかった? これも違う。リリアーナは、いったんは手にしたそれを、返そうとしていた。それも、ナギアにではなく、ナギアから奪った子にだ。
とすると。整合性のある答えはきっと、これだ。『誰も傷つけたくなかった』のだ。
事情を明らかにした上で、イジメっ子にぬいぐるみの返却を求めれば、その子が悪者になる。だから、理由をつけずにぬいぐるみを取った。或いは、それが本当にナギアの人形だったのか、確認しようとした可能性もある。恐らくすぐ後に、その子の目の前で、ナギアに人形を渡すつもりだったのではないか。できれば、それからみんなで仲良く遊ぼう、とか言いたかったのかもしれない。
だが、その子は、あくまで取り返そうとした。ここでリリアーナは迷った。手放せばナギアに返せない。でも、この子は人形が欲しい。奪い取ってでも自分の物にしたいくらいに。どうしよう? まだ、これがナギアから奪い取ったものとは、確認が取れていないなら。いったん、返したほうがいいのだろうか?
しかし、考える時間がなかった。横から出てきた侍女達が、その子を連れ去って、罰を与えた。結局、望まない形で、人形だけが手に残った。
仕方がない。でも、これをナギアに返すことならできる。ところが、当の本人は、イジメっ子の報復や、侍女の嫌がらせを恐れて、知らぬ顔で逃げ出してしまった。
リリアーナは、一人で泥をかぶったのだ。
追い討ちをかけるように、侍女達は次々とぬいぐるみを買ってきては、部屋に据えた。室内が賑やかになればなるほど、彼女はどんどん孤独の中へと落ちていった。
そして。
そんなにも苦しんでいたのに。
あの、誘拐先の古城の中でも、それだけは言わなかった。ぬいぐるみを奪われて罰を受けた子が実は加害者だったことも、ナギアが逃げたことも。
「侍女がいなくなってから、私、お嬢様のお世話係に選ばれたわ。知ってるでしょ」
「……ええ」
唇を噛みながら、ナギアは苦しそうに言った。
「気まずかったの。でも、大人に言うわけにはいかないし。こんな理由で断るなんて、できなくて、だけど」
端正な顔を歪めて。彼女は声を絞り出した。
「何も言われなかった。ただ、一緒に遊ぼうって。それだけ」
リリアーナは、ナギアを許した。いや、それ以上だ。
許すというのは、まず罪悪を認め、その後に赦免を与えることだ。だが、彼女は何も言わなかった。ただ、受け入れた。笑顔でナギアを大歓迎したのだ。
「だから……今度は、私が守ろうって、そう思ったのに……」
行き場のない怒りに、悔しさに。彼女の肩が震える。
「何もできないじゃない!」
そうだったのか。
彼女の、あのお嬢様への忠誠心。俺が一日だけ彼女に入れ替わった、あの日に見た姿。それに今日、俺とリリアーナの前で膝をついて盾になったこと。
俺にとってのナギアは、ただただ陰険で、ムカつく少女でしかなかった。だが、一皮剥いてみれば、そこに素顔が見える。家庭内はいつも子爵家内部の勢力争いに揺らされて。大好きな父は傍にいてくれない。兄の粗暴な振る舞いのせいで、いわれのない仕返しをされ。唯一誇りとする接遇担当の仕事では、奴隷の少年と一緒にさせられる。
これで歪まないほうがおかしい。人形の件にしたって、逃げるのが当たり前だ。だが、それでは自分で自分が許せない。
また、くるっと背を向けた。
「だから、助けて。あんたは反吐が出るくらい嫌いだけど」
人に物を頼む時の台詞じゃない。だが、これでも精一杯なのだろう。
嫌いで嫌いで仕方がない俺に、助けを求める。プライドを犠牲にしてでも、彼女には守らねばならないものがある。笑いながら苦しむリリアーナの姿に、ついに耐えられなくなったのだ。
「あんたも、私のことが嫌いだろうけど。お嬢様のことは、そうじゃないでしょう?」
だが、俺に何ができるだろう?
子爵家上層部の決定を、俺が覆すことなどできない。イフロースは? 頑張ってはいる。お嬢様がグラーブの側妾にならずに済んだのも、彼の尽力だろう。だが、その彼にしても、万能ではない。家宰という立場を与えられてはいるが、古くから家中に根付いた保守派勢力を沈黙させられるほど、強いわけではない。現に、誘拐事件のような不祥事がなければ、腐敗しきった部屋付き侍女達を一掃できなかったのだ。
ただ……時間が経ちすぎたようだ。
ナギアは、俺の回答を待たず、一歩を踏み出した。
「行きましょ。あんまり待たせられないから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます