東の彼方からの客人

 夕暮れ時。真夏のピュリスは湿度も高く、風もないと気温も下がらない。この時間になっても、暑さは相変わらずだった。

 だからこそ、人々は涼を求める。それはしばしば、一杯の酒、という形に行き着く。


「フェイ! こっち、エール三つな!」

「はい、ただいま!」


 最近は忙しく、用事に追われてばかりで、あまり手伝いができていなかったのだが、今日は酒場のアルバイトだ。

 少し早い時間に出てきて、魚の塩釜焼きを大量に作っておいた。魚を、卵と混ぜ合わせた塩で囲うので、一見するとやたらと塩辛そうに見えるが、塩分は魚の内側にはほとんど入っていかない。外側の塩釜を崩しながら食べていくことになる。

 真夏のこの時期だ。誰もが汗を流して、塩分不足に陥っているはずだ。だから、この際、ここできっちり塩分補給もして欲しい。

 ……店長からすれば、少しでも塩辛いものを食べて、酒をガンガン飲んでもらいたいのだろうが。


 入り口の扉が軋み、ぶら下げられたベルが鳴る。


「おー! フェイか! よっしゃ、今日はツイてるぜ!」


 ガッシュだ。しかも今日は大所帯。ドロルに、ハリに、ウィー。更に、その後ろにマオ・フーがいるのも珍しいのだが……

 そのまた後ろにいる、黒髪の女。誰だ? 上半身は、くすんだ茶色のマントに覆われていて、下半身は、同じ色のダボダボのズボンを穿いている。


「おっちゃん、六人な! 席、どこだ?」

「おう」


 いつもの窓際には、六人が座れるスペースがない。カウンター近くのテーブルを二つくっつけて、腰を落ち着けた。


「おっちゃん」

「んー?」

「こっち。この人。今日から、世話になるから」


 ガッシュが、彼女を店長に紹介している。

 一見して、フォレス人でないのは明らかだ。腰まで伸びる長さの黒髪を後ろで束ねている。目鼻立ちはくっきりしていて美しいが、どう見ても東洋人のそれだ。ハンファン人かとも思ったが、確か、髪の毛を後ろで束ねる習慣は……


「ユミ・カクア、いいます、ワノノマ、から、きました」


 たどたどしい言葉遣いだ。しかし、その視線はしっかりと相手に向けられている。

 身なりからすると、どうも冒険者らしい。女性としてはやや高めの身長。細身だが、よく鍛えられたしなやかな筋肉がついているのがわかる。マントを脱いだのでわかったのだが、この辺りでは見かけない、薄い甲冑のようなものを身につけている。

 武器は、と見ると、まず腰に刀を下げている。フォレス人やルイン人が使う直剣でもなく、一部のサハリア人やシュライ人が使う曲刀でもない。刀身の反りは僅かで、ちょうど前世で見かけた日本刀を思わせる。

 それと、矢筒だ。名前がユミだからって、弓を使ってるとか。

 それから……腰の右側に結わえ付けてある、あれはなんだ? 見たこともない、奇妙な形状の道具だ。まず、片手分の取っ手があり、その左右に、それぞれ三叉の鉤爪がついている。材質は金属らしく、銀色の光を放っている。


「ふぅん、で、ウチに泊まるのか?」

「部屋、あるか?」

「個室なら、最近、空いたところだ。もちろん、問題ないぞ」


 そんな会話を横目で見ながら、俺はユミの能力を確認する。


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 カクア・ユミ (17)


・マテリアル ヒューマン・フォーム

 (ランク6、女性、17歳)

・スキル ワノノマ語  5レベル

・スキル ハンファン語 2レベル

・スキル フォレス語  1レベル

・スキル サハリア語  1レベル

・スキル シュライ語  2レベル

・スキル 薬調合    2レベル

・スキル 医術     2レベル

・スキル 刀術     4レベル

・スキル 弓術     5レベル

・スキル 水魔術    4レベル

・スキル 隠密     2レベル

・スキル 軽業     2レベル

・スキル 水泳     3レベル

・スキル 操船     3レベル

・スキル 料理     2レベル

・スキル 裁縫     2レベル


 空き(1)

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 うわっ……この若さで、なんとも多芸なことで。

 ただ、どれもレベルは高くない。刀と弓、それに水魔術にはそれなりに熟達しているが、あとはまだまだ素人芸だ。一応、島国出身ということもあって、水泳とか操船の技能は伸びているようだが、他はどうということもない。

 今まで、規格外の化け物ばかり見てきたから、パッとしないように見えてしまうのだろうが、ユミもこの世界の常識に照らしてみれば、かなり優秀な部類ではある。あと五年も修行すれば、戦闘技術については一人前といえる水準以上に達するだろう。


「この子はな」


 マオ・フーが話し始める。


「ワノノマの武人の家に生まれて、十五の年から、武者修行のために、旅を続けておるそうじゃ」


 ふむ……

 でも、いいのか?


 この世界、文明の水準が現代日本とは大きく異なる。その分、文化や風習が、何百年か前の雰囲気だったりする。例えば、世界を産んだのが女神であるにもかかわらず、少なからず男尊女卑の考え方があるし、平均結婚年齢も若い。

 その辺の事情は、ワノノマでも変わらないはずだ。となると、ユミは今が適齢期ということになる。いつまで武者修行を続けるつもりかわからないが、ここからまた、ワノノマに帰るとなると。それも修行の後とすれば、最低でもここまで来るのにかかった時間、つまり二年はかかりそうだ。

 つまり、人生設計的には、結構、綱渡りな感じに見えるのだ。二十歳までに故郷に戻れないと。最悪でも、二十二か、三くらいまでには結婚しないと、相手を見つけるのに苦労することになる。それとも、アレか? そういう人生の縛りがイヤで出てきたとか?


「既にアクアマリンの冒険者じゃ。腕は確かなようじゃな」

「おそれ、いります」


 やや恥らうような表情を浮かべて、彼女は座ったままお辞儀した。

 そこへドロルが一言。


「おい、ユミちゃんさ、もっと楽にしてていいぜ」


 更に、ハリも言い足す。


「そうですよ。ここは普通の庶民の酒場ですし、誰も作法なんて気にかけません。のびのびなさってください」


 すっかり社交的になったウィーも、気遣うような態度を見せる。


「そうだ! ねぇ、ユミ……さん? ここは、料理がおいしいんですよ」


 その視線が、俺に向けられる。


「フェイ君、今日の料理は何かな?」

「あ、はい! 魚の塩釜焼きです」

「……さかな?」


 魚、という単語に、ユミが反応する。


「はい。塩と卵を混ぜ合わせたもので魚を包んで、じっくり焼くんです。おいしいですよ」


 今の説明がどれくらい理解できたかはわからないが、彼女は目をキラキラさせている。魚が大好物らしい。


「うまそうだな!」

「一つ、くれよ。いや、どうせだし全員分な」

「かしこまりました」


 一人一皿。ピュリスは海に面しているし、塩の産地も近い。だからこういう料理を供することもできるのだが、庶民向けの酒場としては、かなり贅沢な一品だ。


「外の包みを崩しながら食べてみてください」

「おーっ、いいねぇ」


 全員が、フォークを手に、魚を覆う塩釜を崩しにかかる。だが、一人ユミだけがまごついている。

 ウィーがその様子に気付いて、声を掛けた。


「どうしたの?」

「はい、あの」


 ユミは、自分の腰に結わえ付けたポーチから、二本の細い棒を取り出した。あれは。


「しつれいします」


 箸か!

 なるほど、ナイフとフォークでは食べにくかったか。


「へぇ、そんな道具があるのか」

「器用ですね」


 ドロルとハリが感心しながら見ているのを、少し恥ずかしそうにしながら、ユミは見事な箸捌きで、魚をきれいに食べていった。


「いかがでしょうか」

「おいしい、です」

「ありがとうございます」

「おい、フェイ! お前もちょっと、ここ座れよ!」


 ガッシュが、自分の横の空席をバンバン叩きながら、怒鳴ってくる。こいつ、暑いからって、最初の酒を一気飲みしたな。

 店長が周囲を見回す。


「あー……しょうがねぇな。フェイ、ちょっとだけ相手してこい」


 許しを得て、俺はガッシュの横に座った。向かい側には、マオ・フーとユミがいる。


「ユミちゃんさ、ここに泊まるんだったら、こいつは覚えておいたほうがいいぜ。フェイっつうんだ」


 ガッシュは、親指で俺を指しながら、話し続けた。


「ご紹介に預かりましたフェイと申します」

「よ、よろしく」


 紹介されて、ユミは少し怪訝そうな顔をした。それもそうか。彼女は何も知らない。俺が重要人物たり得る理由がわからないのだから。


「この料理作ってるのも、フェイなんだぜ?」


 まるで自分のことのように、ガッシュは自慢する。

 体が大きくて筋肉もしっかりあるのだが、実は案外、酒に呑まれやすいのだ。まぁ、酔っ払ったところで、普段の大雑把さがより強調されるだけで、あまり性格に変化がないので、気にするほどでもない。


「……っ! そう、なんですか」


 口元を覆いながら、ユミは叫ぶ。

 よっぽどこの料理が気に入ったらしい。その一言で、俺を見る目が変わったのがわかった。


「それだけじゃない。俺達が仕事で使う薬、いろいろあるだろ? それも、こいつ、フェイの店で買ってるんだ」


 遠慮なくベラベラと話されても、ユミには少し難しかったようだ。だが、そこは隣にいたマオ・フーが、小声で耳打ちした。理解が追いついた彼女は、大きく頷きながら、言葉を搾り出した。


「フェイ、君、は……薬屋の、家の子、ですか」


 なるほど、そういう解釈になるか。

 そりゃそうだよな。


「違う違う。こいつが薬剤師なんだぜ? あー、つまり。こいつが、薬を、自分で、作ってるんだ!」

「えっ!?」


 薬剤師、という単語は難しくても「彼が薬を作っている」という文章なら、理解できたらしい。ユミの顔に、驚きが浮かんだ。

 ガッシュの横に座るウィーが、口を挟んだ。


「エンバイオ薬品店というんだ。ここ、ピュリスの総督の、ええと、だから、ここを治めている貴族のね、お店。フェイは、ここの貴族の召使なんだよ」


 ウィーの丁寧な説明に続いて、マオ・フーの翻訳と補足を聞いて、ユミは目を見開く。そして、見る間に表情が強張った。


「しかも、腕も立つのですよ」


 ハリが必要以上の追加情報まで口にした。


「そうなんだよな! もう、ドロルより強いんじゃね?」

「ほっとけよ、畜生」


 このやり取りに、ユミは左右を見比べた。


「あの、あんまり」


 あまり誉められすぎても、居心地が悪くなる。


「フェイの剣術、すごいんだよ。この前、ちょっとした事件があったんだけど、大人の男を何人も倒して」

「海賊相手に戦ったりもしていましたね」

「ちょ、ちょっと、大袈裟だよ。ほとんどアイビィがやったんだから」


 本当は、俺に斬られて数人が手足を失って戦闘力を喪失していたのだが、それはなるべく伏せておきたい。だいたい七歳児がそこまでやれるとか、いくらなんでもおかしすぎる。俺のことを詳しく知っている人間からすると、もう今更の話なのだが。


「っていうか、マオさん、この前のあれは、無茶だったんじゃないですか」


 俺とアイビィを囮にする件だ。あれは、本当に危なかった。

 エウームを倒したところまではよかったが。クローマーみたいな強敵が出てくるとは。


「ふむ、あんな大物が出てくるとは、予想外だったからのう、すまんかった」

「予想外って、それで済む話ですか」

「済まんのう」

「済まんって言われたってですね」

「じゃから、少しだけ調べてきたぞい?」


 ほう? 何をだ? ちょっと興味がある。


「あのシュライ人の女、少々特殊な人間のようじゃな」

「そりゃ、普通の人は、あんな仕事しないでしょうに」

「そうではない。つまりな……いわゆる『秘密結社』の人間のようなのじゃよ」


 話が大きくなった。

 ウィーが首を傾げる。


「秘密……結社、ですか?」

「うむ」


 ゆったりとした仕草で腕組みをすると、マオは大仰に頷いた。


「サハリア南部から、南方大陸にまたがる地域に、昔から存在すると言われている組織、それが『パッシャ』じゃ」

「なんなんですか、それ?」

「知らんのも無理はないのう。だが、歴史は古いぞ? もともと、奴らは魔王イーヴォ・ルーに仕える闇の戦士どもだったという」


 なんと。そんな物騒な連中だったのか。


「でも、なんでそうだとわかったんですか」

「うむ。あの女、いくつもの神通力を使いこなしておったじゃろ? 知っての通り、神通力の使い手は、南方大陸に多い。じゃが、余程の幸運に恵まれない限り、そういくつも力に覚醒したりはしないものじゃ……」


 それを言ったら、マオ・フーも複数の神通力を行使できるわけで。

 その辺の事情はどうなんだ。


「じゃが、能力の覚醒には、コツがあっての」

「コツ?」

「そうじゃ。特定の資質をもった人間に、特定の刺激を与えることで覚醒する。その知識は、いまや多くが失われてしまったのじゃがな。奴らパッシャの連中は、それを伝承しているという」


 なるほど。でも、それだけでは説明が不十分だ。

 俺が怪訝そうな顔をしていると、彼は言葉を継ぎ足した。


「それで、な。可能性があると思って、各地の支部に調査を頼んでおいたのじゃ。すると、今から二十年ほど前に、記録が見つかっての」

「記録?」

「クー・クローマーが、奴隷として、南方大陸で買い取られたという記録じゃ。買い取った商人は、その三年後、犯罪組織との関わりを疑われて、当局に捕縛された。翌日、自殺したそうじゃが、その後、なんと自宅から、パッシャの連中が持つ印章が見つかったらしくてな」


 なるほど。

 クローマーは、その後、闇の戦士としての訓練を受けて育ったわけだ。


「ほえぇ~……ぶったまげたな」


 ガッシュが率直な思いを口にする。


「フェイ、お前、よく生きてたな?」

「そ、そう! そうですよ! それ」


 話がそらされるところだった。


「それはそれとして、女子供が、二十人からの男の相手をできるとか、どう考えたら、そうなるんですか」

「今更の話じゃな。あの時、訊いたじゃろ? 戦える腕前はあるとわかっておったからのう」

「どうして僕とアイビィが戦えるとわかったんでしょうね?」

「さぁてのう、なぜかのう」


 そうなのだ。

 このジジィ、俺とアイビィなら、チンピラ相手にはまず不覚を取らないと見抜いていた。二人とも熟練の戦士並みの能力があるのだから、できるはずだと言われた。自分の実力をバラされそうになったアイビィは慌てていたが、俺がとっくに知っていたとわかって、二度びっくり。それであの日は、ふてくされていたのだ。

 恐らく、識別眼の能力のおかげなのだろうが、いったいどこまでの情報が見えているのだろうか。他人のことを言える立場でもないが、少し気味が悪い。


 ただ、今日は新入りのユミさんの歓迎会だ。

 これ以上、自分の話題ばかりを、それも彼女には聞き取れないフォレス語で続けるのは、好ましくないだろう。


「でも、ユミさんも、わざわざ遠くから修業の旅にいらっしゃるくらいですから、かなりの腕前なのでしょうね」

「そうじゃのう」


 自分のことが話題にされているとわかっても、複雑な文章を早口で喋っているので、理解が追いつかない。所在なさげに、彼女はこちらを見る。

 早いところ、俺の話題から離れたかったので、ここは酒の肴になってもらおう。


「ユミさんは、どこで武術を教わったのですか?」


 質問の内容を理解した彼女は、ややあって、返事をした。


「私は、はじめは、一族の人に。その後は……」


 言葉が見つからず、必死で考えているようだ。ややあって、続きを口にした。


「王様」

「王様!? 王様に直接!?」


 この一言に、みんな驚いて、腰を浮かせかけた。


「ああ、ええと、そうじゃない、です。その、ヒジリ様」


 名前を出されても、何のことかわからない。

 それで窮したユミは、コソコソとマオ・フーに説明する。話を聞き取った彼は、代わって説明をしてくれた。


「ヒジリというのは、ワノノマの皇族の一人じゃ。国王ではないが、その一族じゃな」


 ユミの話は、遠いワノノマの事情、それこそ本にも書いていないような知識をもたらしてくれた。


 ワノノマは、無数の島と小国家の集まりだが、その中でもっとも権威ある立場にある人物が、『オオキミ』と呼ばれ、実質的にワノノマの王として扱われている。その血族は、ギシアン・チーレムの子孫でもあるそうだ。ただ、皇族そのものは、それ以前からずっと存続してきたものであるらしい。

 ワノノマ皇族からは、代々『姫巫女』と呼ばれる女性が選ばれる。世俗の権力の頂点がオオキミなら、宗教上の頂点にあるのが姫巫女なのだそうだ。その実態は謎に包まれていて、ワノノマ人でさえ、ほとんど詳しいことは知らない。

 姫巫女がいつ選ばれ、いつ代替わりしたかもわからない。オオキミの即位式と違って、姫巫女の地位の継承は、秘密裡に行われる。人々の前に姿を見せることはあるが、たいていの場合、半透明の薄い布で全身を覆っているので、その顔を知っている人もほとんどいない。

 噂によると、姫巫女は年をとらないのだとか。何かの折に、子供時代、姫巫女候補を見たことのある人が、年をとってから、もう一度、姫巫女と対面する機会があったらしい。その人はもう、老年期に差し掛かっていたのに、目の前の彼女は、いまだに若い頃と変わりがなかったという。

 結局のところ、姫巫女が何者なのか、知っている人はほとんどいない。一般人には、接触する機会がほとんどないためだ。

 ただ、姫巫女の使命であれば、誰もが認識している。彼女は龍神モゥハと意思を通じ、魔王をはじめとした、この世界の秩序を乱そうとする脅威と戦わなければならない。そして、その責務は姫巫女自身だけでなく、その後継者候補にも課せられる。

 先ほど名前の出たヒジリというのは、そうした姫巫女の後継者候補の一人であるらしい。


「へぇ……」


 これは興味深い情報だ。

 俺は不老不死を求めている。もしその可能性がワノノマにあるのなら。これはいい話を聞けた。


 マオ・フーが口を開いた。


「まぁ、これから、しばらくはピュリスにいるそうじゃからな。ガッシュ達に任せることにした」

「おう! いろいろ案内するぜ!」


 すっかり酒が入って、態度がいろいろとおかしくなり始めている。マオ・フーは、そんなガッシュに、軽く溜息をついた。怒ってはいない。ただ、苦笑いが浮かんでいる。彼はハンファン系シュライ人だ。人生経験から柔軟さを身につけているとはいえ、本来、礼儀作法には厳しいのだ。


「フェイ君も、彼女のことをよろしく頼むよ」

「はい」


 俺は、折り目正しく頭を下げた。その様子に、今度は毒のない笑顔を浮かべる。


 厨房のほうから、声が飛んできた。


「おい、フェイ! そろそろこっち、手伝ってくれ!」

「あ、はい、ただいま!」


 店長がくれた休憩時間も、ここで終了だ。本来の仕事をしなくては。

 みんなに一礼すると、俺は厨房へと駆け戻った。

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