夜明けの逃走劇

 頭上に影がかかる。どうにかしなければ。だが、身がすくんで動けない。

 こんなにあっさり、終わってしまうのか。そうなのだろう。少なくとも、目の前のキースにとっては、人生とはそういうものだった。


 だが。


「わ、わああああ!」


 ガシャン、と割れる音が耳元に届く。キースの足元だ。

 我に返って顔をあげると、リリアーナが手元の油の壷を、投げつけたところだった。

 無論、キースが直撃を受けるはずもなく、陶器の瓶のうち、下半分だけがきれいに形を残して転がっている。投げつけられる時、壷が逆さまになったのだろう。そして上半分は、蓋も合わせて、その場で粉々になっている。

 そして油は、俺とキースの間にこぼれた。


「やああ!」


 そこでリリアーナは止まらなかった。多分、冷静な判断とか思考によるものではない。濃厚な死の気配に、耐え切れなくなったのだろう。彼女は、手にしたランタンで、キースに殴りかかった。

 馬鹿な。あんな化け物に、何ができるというのか。

 まさかそんなイカレた行動をとるとは予測できず、反応が一瞬、遅れる。


 しかし、対処に困ったのは、俺だけではなかった。


「ちょ、ちょっと待て!」


 キースは足元とリリアーナを見比べ、うろたえる。

 叩きつけられるランタンに目をやると、閃光のような動きで、取っ手と本体を切り離す。

 と同時に、俺は後ろから、彼女を抱きかかえ、後方に引っ張る。

 支えを失ったランタンは、床に広がる油の上に落下し、そこで盛大に炎を巻き上げた。


「うおっ、あちっ」


 今だ。

 俺はお嬢様を抱き上げたまま……背にしていた階段を駆け上がる。


 幸運だった。

 キースといえども、誰でも殺すわけではないらしい。今回の仕事は子爵令嬢の誘拐であって、殺害ではない。そして、貴婦人の卵に、醜い火傷の痕を残すわけにもいかない。だから、彼女の突発的な反応に対処が遅れたのだ。

 だが、だからといって、あの隙に攻撃するなんて、愚の骨頂だ。瞬時に頭を切り替えたキースに、すぐさま首を飛ばされてしまう。だから、ここは逃げる。


 最善の策が取れないなら、次善の策だ。

 正直、無事に着地できるか怪しいが、二階の窓から飛び降りよう。それで少しは距離が稼げる。あとは全力で森の中を突っ切るだけだ。クズルが出てきたら……二階に確か、放置してきた棒があったはずだ。


 階段を登りきったところで、その目論見は霧散した。

 自分の甘さのせいだ。


 ダメージから何とか立ち直ったトゥダが、棒を手に立っていたのだ。位置としては、窓に近い辺り。もう一人、オブリとかいう奴も、意識は取り戻している。顎から血を流しながら、大剣を杖に、立ち上がろうとしている。

 二人とも万全ではないだろう。だが、こっちも丸腰なのだ。こうなっては、窓から飛び降りるのは無理だ。十秒あれば二人を倒せるかもしれないが、その間にキースが追いつく。


 ならば、空いているほうを行くしかない。

 いまだに気絶したまま階段の下に横たわる男を飛び越えて、三階への階段を駆け上がる。それを後ろから、トゥダが、キースが、ギムが追いかけてくる。

 幸い、三階に上がったところにいた女は、ぐったりと横たわっていた。意識は取り戻していたものの、駆け抜ける俺に対応できる状態ではない。

 更に進むと、右側の部屋の中に男が二人。こいつらも気絶から立ち直っていたが、なんとのんびりと荷物の傍に座っていた。包帯を出して手当ての準備をしている。それに多分、逃げ出す準備もだ。なにしろ、お嬢様を連れ出されてしまったと思っていたのだろうから。

 彼らを置いてきぼりにして、俺は階段を駆け上がる。ここの三階から飛び降りるのは無理だ。


 窓のない岩山の中。細い通路を進むと、暗がりに人影が見えた。


「あっ!? お前ら!」


 邪魔だ!

 俺は頭から突っ込む。コーザは吹っ飛ばされて、通路に立てかけられた扉にぶつかる。大した時間稼ぎにはならないが、俺はコーザと扉を持ち上げて、階段のところに投げ込んだ。これで一瞬でも足が止まれば。

 もう、ここまで来たら、行き先は一つしかない。道なりに進むと、右に折れる。そこで階段を駆け上がると、崩れかけた出入り口に、ひしゃげた鉄板が見える。外からうっすらと光が差し込んできていて、そこだけが明るく見えた。


 俺はリリアーナを下ろすと、登るよう促した。言葉にせずとも、彼女も理解して、なんとか屋上へと這い上がる。俺も後に続いた。

 岩山の上から、周囲を眺めた。東のほうに、うっすらと、しかし眩い橙色の線が浮かび上がってきていた。早朝の澄み切った空気が、そよと凪ぐ。


 だが、状況は最悪だ。俺達はもう、袋のネズミなのだ。

 すぐ下の出入り口のところに、人が殺到している。とはいえ、すぐに通れるわけもない。


「見張りを残して迂回しろ!」


 トゥダの声だ。

 ということは。三階の窓あたりから、梯子か何かをかけて、ここまで登ってくるつもりなのだろう。なら、どうする? もう一度、通路に下りて正面突破を狙うか?

 いや。これは罠かもしれない。何より、奴らには急ぐ理由があまりない。トゥダとギムは、まだ増援の可能性を考えているだろうが、そうだとしても、せいぜい待ってあと三十分。時間が過ぎれば、俺の身体強化魔術は解ける。それから登ってくればいい。

 むしろ、今すぐ攻撃して欲しいくらいではある。不安定な足場からやってくる連中を、上から一方的に突き落とせば、数を減らせる……


「う……?」


 不意に眩暈がした。腰から力が抜けて、その場にへたり込む。


「フェイ!?」


 嘘だろう?

 今?


 思った以上に時間が過ぎていたのかもしれない。或いは、キースの魔術が効いてしまったせいか。何れにせよ、頼みの綱の身体強化魔術が、今、解けてしまった。


 もう、猶予はない。

 リリアーナの奪還にこだわっていては、俺が死ぬ。撤退だ。

 ヤシルの姿になれば、或いは……


「フェイ! フェイ! 大丈夫? 死なないで!」


 さっきの戦いで、トゥダの棒がかすった左腕。今は腫れ上がっている。身体強化のおかげで今まで意識しないで済んでいたが、着実にダメージは残っていた。

 懐から、消炎剤代わりになる薬草を取り出し、右手で握り潰そうとする。指に力が入らない。リリアーナにやってもらうか? だが、彼女はオロオロするばかりだ。


 階下で音がする。いくつかの場所から、梯子がかけられたようだ。だが、まだ登ってこない。こちらの状態が見えないのだから、当然か。とはいえ、それも時間の問題だ。

 逃げるなら、今だ。今しかない。

 なのに。


「……逃げて」


 震える声で、普通ならできるはずもないことをリリアーナが言う。


「フェイだけでも、逃げて! お願い!」


 ……くそっ。

 くそっくそっくそっ、この畜生が。


 大粒の涙が、次から次へと俺の顔に落ちてくる。朝日に照らされた金色の髪が、揺れて輝く。

 俺が。仮にも、一度でも俺を庇った人間を。見捨てて逃げるのか。俺が。

 前世で散々裏切られてきた、この俺が。


 馬鹿が。

 何をやっているんだ。

 自分の秘密を守りたいばっかりに。


 ドナの時もそうだった。あのいやらしいグルービーに買われていくのを、止めようともしなかった。おかげで奴には、秘密が知られかけているかもしれない。そんなの、俺の自業自得だ。

 今もそうだ。自分の利益と安全にこだわった結果、こうやって追い詰められている。最初からイフロースを呼べばよかったんだ。能力については、ごまかすなりなんなり、やりようはいくらでもあったはずなのに。


 まだ。まだだ。

 俺には最後の切り札がある。

 ピアシング・ハンドを使えば、一度きりだが、どんな強敵も倒せる。それだけでなく、肉体を乗っ取ることさえできるのだ。

 そしてこの場で、俺の安全を確実にする方法は……


 クソ野郎!

 自分で自分に反吐が出る。なんで思いつくんだ。

 ああ、確かにそうだ。リリアーナの肉体を奪えば。フェイは消え去る。追いかけてきた奴らは、不思議に思うだろう。だが、いないものは仕方がない。奴らは、リリアーナに成り代わった俺を回収して、目的地に向かうだろう。俺はタイミングを見て、ヤシルの体で逃げ出せばいい。状況を選べば、後ろからクズルを嗾けられたりもしないだろう。

 そんな情けない真似をしてまで……


 そんな俺の思考を遮るように、羽音が聞こえた。

 心の中から、すっと熱が引いていく。

 風切り音と共に、黒い影が俺めがけて舞い降りる。


「きゃあっ!」


 悲鳴をあげながら、リリアーナは俺に縋りつく。

 だが、クズルは賢い。目標以外に攻撃をするつもりがないのか、その鋭い爪を引っ込めて、さっと行き過ぎる。

 恐らく、キースが命令して、こちらに寄越したのだろう。


 脅威に目を丸くしたリリアーナは、一瞬硬直してから、がばっと俺の体の上に覆いかぶさった。クズルが自分を攻撃しないことに気付いた、というわけではないのだろう。こうしている今も、ガタガタと震えている。震えたまま、俺の体を覆い隠そうとしている。

 狙える場所が減ったクズルは、苛立っているようだった。空中でしばし戸惑うようにしていたが、ついに焦れて、急降下を始めた。

 これでは、リリアーナが……!


 一瞬の後、クズルはこの世界から消え去った。


「え……?」


 迫り来る危険に、その身を強張らせていたリリアーナは、呆然として空を見やる。


 やってしまった。

 最後の最後、俺の切り札を、こんな風に使ってしまうとは。

 確かにこれで、クズルに引き裂かれる危険はなくなった。だが、周囲にかけられた梯子は、どうすればいいのか。


 万策尽きた。もう、俺には戦う手段が残されていない。


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 (自分自身) (7)


・アルティメットアビリティ

 ピアシング・ハンド

・マテリアル ヒューマン・フォーム

 (ランク7、男性、6歳・アクティブ)

・マテリアル ラプター・フォーム

 (ランク7、オス、14歳)

・マテリアル ラプター・フォーム

 (ランク7、メス、13歳)

・スキル フォレス語  6レベル

・スキル 商取引    5レベル

・スキル 薬調合    5レベル

・スキル 身体操作魔術 5レベル


 空き(0)

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 咄嗟のこととはいえ、棒術を捨ててしまった。そして無駄に、鳥の体が二つある。

 自分だけなら、飛んで逃げることもできるが……


 いや、待てよ?


 俺はリリアーナに向けて、意識を集中した。


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 リリアーナ・エンバイオ・トヴィーティ (5)


・マテリアル ヒューマン・フォーム

 (ランク7、女性、5歳・アクティブ)

・マテリアル ラプター・フォーム

 (ランク7、メス、13歳)

・スキル フォレス語  3レベル


 空き(3)

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 マテリアルを受け渡すことはできる。

 あとは彼女が自分で空を飛べば……

 だが、できるのか?


 ……今まで、一度も成功したことはない。


 収容所での密かな実験の日々。奪取した肉体やスキルを、他の生き物に受け渡すことができるのは、確認済みだった。だが、どういうわけか、何度試しても、ヘビをカエルにするのは無理だった。複数のマテリアルを保有させても、どれをアクティブにするかを選ぶのはできなかったのだ。どうしても別の生物にしたいなら、一日待って、元のマテリアルを奪うしかなかった。

 しかし、人間相手ならば、どうか。やったことはない。うまくいく保証もない。それでも。


「お嬢様」


 俺は苦しい息を継ぎながら、なんとか言った。


「……お屋敷に帰りたいですか?」


 ややあって、彼女は頷いた。


「はい」

「危険があるかもしれません。何か大事なものをなくすかもしれません。それでもですか?」

「はい」


 動物になれば、精神が影響を受ける。変身に慣れた俺でさえ、犬になっただけであれだけ知能が低下した。ましてや、今回が初めての変身となる彼女だ。一度鳥になったら、理性など吹き飛んでしまうのではないか。


 だが。

 このまま誘拐犯に連れ去られた場合の人生が、どんなものになるか。

 幸せ、というのはちょっと考えにくい。数年後に発見されても、その頃にはもう、貴族の娘として大事な部分は、何も残っていない。実際には何もしていなくても、下賎の者どもに囚われていたとなれば、もう貞操など散ってしまったと受け取られる。まともな結婚もできないし、よくてせいぜい、一生部屋住みだろう。悪ければ、名誉のために存在自体を抹消されるかもしれない。なまじ身分があるばっかりに、グルービーに買われていったドナより、ずっと悲惨な未来しか残されていないのだ。


「では……今から言う注意を、よく聞いてください」


 話すうちにも、階下から物音が続いている。もう、あまり時間はない。


「お嬢様、あなたは今から、鳥になります」

「えっ?」

「僕が鳥になったら、お嬢様も気持ちを落ち着けて、黒い翼に緑の羽を持つ、美しい鳥になりましょう」


 何を言っているのか、わからないという顔をしている。構わず続ける。


「一つ。鳥になったら、僕から離れてはいけません。どんなことがあっても、後について飛び続けること」

「う……はい」

「二つ。僕が人間に戻ったら、お嬢様も人間に戻ります。絶対に戻る、と決めてください」

「は、はい」

「三つ。僕が鳥になったこと、お嬢様が鳥になったことを、他の誰かに話してはいけません。お父様、お母様、イフロースや侍女達にも。いいですね?」


 目には困惑が浮かんでいる。いくら五歳の少女でも、そんなのはあり得ないと理解している。それこそ、御伽噺に出てくるような大魔法使いならいざ知らず、どうやってただの少年少女が鳥になどなれるのか。


「では、見ていてください」


 そう言いながら、俺は起き上がる。よろよろと立ち上がり、南の空を見据える。

 一瞬の集中の後、俺の衣服は、ふわりと舞った。

 俺は振り返り、お嬢様に翼を広げてみせる。


 驚いたまま、動きを止める彼女。俺は翼を岩肌に叩きつけて、せきたてる。

 我に返った彼女は、どうしたら鳥になれるかわからず、身を縮めて、全身に力を込めている。ダメか? 自分だけでは変身できないのか?


 俺は、彼女の前に浮かんだ情報へと、意識を伸ばす。

 マテリアルを切り替える。これを、ここに……


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 リリアーナ・エンバイオ・トヴィーティ (5)


・マテリアル ヒューマン・フォーム

 (ランク7、女性、5歳)

・マテリアル ラプター・フォーム

 (ランク7、メス、13歳・アクティブ)

・スキル フォレス語  3レベル


 空き(3)

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 ……替わった!?


 彼女の衣類が岩肌に舞い落ち、キョトンとした顔のヤシルが、そこに座っていた。

 うまくいった。初めてだ。もしかして、と思っただけなのだが。


 たぶん、こういうことだ。確定はできないが、体を切り替えるには、この俺のピアシング・ハンドの能力と、体の所有者自身の意志が必要なのだろう。つまり、彼女だけでも、俺だけでもダメだ。動物実験でうまくいかなかったのは、その動物に変身しようという意志がなかったからに違いない。


 よし。

 あとは飛ぶだけだ。

 俺は翼をはためかせ、一気に舞い上がると、彼女の頭上を旋回する。

 それを見上げながら、彼女は何度か翼を広げ、ためらうような仕草で足踏みをしたが、突然にコツがわかったらしい。危なっかしいながらも、一気に上空へと飛び上がった。


 俺は、南を向いた。

 目指すはピュリスだ。


 翼を広げて風をはらんだところで、遥か下から、ばらばらと足音が聞こえた。岩山の上に、男達が立っている。


「クズル! ヤシル!?」


 キースは、大声で呼びかける。続いて、何か笛のようなものを取り出して、激しく吹く。だが、俺も彼女も、それには反応しない。悠々と南を目指して飛んでいく。

 トゥダは、足元に散らばる子供の服を見て、首を傾げている。手下どもが岩山の下のほうを見ようとして、足の踏み場を選んでいる。砦の下を、ギムと三人の男達が動き回り、誰かいないかを探している。

 そんな彼らの姿が遠くなる。

 俺は、後ろにつく彼女の様子を見ながら、速度を上げた。


 朝日が完全に空を青く染める。そして眼下に広がるピュリスは、今日も白かった。

 中でも一際大きな建物、街の西寄りにある総督官邸。そこに俺達は舞い降りる。

 朝の掃除の時間らしい。折りよく、お嬢様の部屋も、窓が開け放たれ、周囲には誰もいないようだった。部屋の主がいないのだから、侍女を張り付けておく意味がない。むしろ、そんな余裕があったら、捜索にまわしているだろう。

 俺は翼をすぼめて、部屋の中へと滑り込んだ。彼女も後についてきた。

 もういいだろう。


 俺は人間に戻る。

 しかし、全裸になるのは勘弁して欲しいところだが。どうにかならないものか。


 俺の姿を見て、鳥がじっとこちらを見る。

 そうだ、人間に戻るんだ。


 ややあって、鳥が消え、金髪の少女が現れる。当然、全裸だ。


「あ、ええと、服を」


 しかし、リリアーナは恥ずかしがる素振りを見せなかった。それどころか、俺に近付こうとする。

 これは、あれか。やっぱりというか、知能低下の影響だ。そういえば、ずっと俺についてこい、と言ったからな。それを今でも継続して実行しようとしているわけだ。

 けど、これはまずい。絵的にまずすぎる。これ、他の召使に見つかったら……


 トン、トン、トンという足音が、階下に響く。

 ヤバい。


「ちょっと、離れて」

「あー」


 ダメだ。言葉が通じてない。

 仕方ない。

 残り少ない力を振り絞って、彼女の手を振り切ると、俺は扉から外に出た。そして急いで閉じる。


「あー!」


 木の扉、というよりは壁を前にして、彼女はドンドンと叩いて抗議する。これはひどい。ドアノブの使い方すら思い出せないのか。

 まあ、俺も虫になった時には、散々だったし……時間経過で元通りになる、とは思うが。


 それより、近くの階段から足音がする。本当にこれはまずい。

 急いでまた、鳥の姿に成り代わる。


「きゃあ!」


 それとほぼ同時に、メイドが階段から顔を出した。

 悲鳴をあげるのも無理はない。屋敷の中に、こんな大きな鳥が紛れ込んでいるのだ。


 その物音を聞きつけて、階下で更に激しい足音が響く。


「どうした!」


 猛然と駆け上がってきたのはイフロースだった。手には抜き身の剣を持っている。冗談じゃない。

 俺は慌てて羽ばたき、彼とは逆方向に向かってただ飛んでいく。近くの窓から外に出て、ひたすら上空を目指す。


 危なかった、と一息ついて、屋敷を見下ろす。

 どうやら、お嬢様は、偶然、ドアノブをまわしたようだ。全裸のまま廊下に飛び出して、イフロースに取り押さえられている。あまりの事態に彼もメイドも混乱しているようだ。


 ……今回も危ないところだった。

 反省点は山ほどあるが……とりあえず、湾岸倉庫に戻って一休みしよう。すべてはそれからだ。

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