突入を敢行

 夕暮れ時。緑の木々が、黒い影になる。

 俺は、遠くに聳える岩山に向かって、翼を広げた。


 結局、選択肢は他になかった。自分の正体を隠すなら、そしてお嬢様を救うなら、今夜中に行動を起こすしかない。どうするか悩んだが、ここまで来た以上、最後までやり通すと決めた。

 では、具体的にはどうするか。あの砦は、古ぼけてはいるが、かなり厄介だ。壊れかけた門の前には、常に見張りがいる。身体強化魔術を使えば一瞬で倒せるが、それで気付かれる可能性もある。騒ぎを聞きつけて、親分が駆けつけてきたら。一人ずつならまだしも、トゥダとギムが同時に姿を現したら、もうお手上げだ。

 というわけで、正面突破は不可能。ならば、絡め手から攻めるしかない。鳥になって、窓から飛び込む? それも考えたが、今度こそ飼い主に発見されてしまう。ましてや、その後人間に戻らなければいけないのだ。鳥が着替えを持ち込んだりすれば、間違いなく変に思われる。

 ならば、付け入る余地はないのか。いや。一つだけ、侵入手段があったのだ。


 屋上の小さな出入り口。これだ。

 俺はあの後、空から詳細に検分してみた。古い石造りのものだが、一部は土砂や、崩れた石積みなどのせいで埋まっている。もともと、金属の扉が嵌っていたようだが、それは朽ちてひしゃげて錆びており、出入り口を狭める役割しか果たしていなかった。

 要するに、子供一人分程度の幅しかなかったのだ。これは、変身したこの鳥の姿か、元の体であれば、なんとか割り込める。だが、武装した大人達には不可能だ。時間をかけて、障害物を撤去するなどすれば別だが、そうでもなければ、屋上へは出られない。


 まあ、普通に考えて、こんな場所を警戒する理由がない。

 そもそも、この岩山の上というのは、かなりの高さがある。俺は以前、身体強化魔術を駆使して、ピュリスの街を駆け回った。だが、その時にも、あまりの高所からの落下は避けた。五階建てのビルからいきなり飛び降りたら、さすがに足が折れると思ったのだ。そしてこの岩山の上は、すぐ下の地面から見て、そこより高い位置にある。

 ということで、普通に登るのは難しいのだ。まず、砦の城壁あたりから梯子でもかけて、慎重に足場を探っていくとかでもしなければ……そんな手間をかけるくらいなら、単に門から力押しでいくか、こっそりよじ登るにしても、せいぜい窓までにしたほうが簡単なはずだ。

 但し、それは侵入者が普通の人間であれば、の話だ。


 今のうちに、衣服と身体強化薬、それに打ち身に効く薬草、血止めの葉っぱを持って、岩山の上に待機しておく。腹ごしらえはもう、先に済ませた。森の中では、夜になると、周囲に虫が湧く。だが、そのためにまた、匂いのつく虫除けを体に塗るわけにはいかない。だから、本体を万全の状態にしたまま、鳥の姿で夜まで待つ。誘拐犯の連中も、夕飯が済めば、あとは寝るだけだろう。見張りは残しても、それ以外の連中は、自室に戻って休むはずだ。さっきの騎士だって、まさか一晩中、レディの部屋に居座ったりはすまい。

 唯一、恐ろしいのは、あのクズルとかいう怪鳥だ。今、こうしている間にも発見されたら……だから、少々落ち着かないが、屋上の出入り口の窪みに身を潜めている。だが、頭上に影が差すことはなかった。


 橙色の空が藍色に、藍色がだんだんと黒へと移り変わっていく。

 奥のほうで、金属音がする。重量を感じさせるその音は、きっとギムが歩く時のものだろう。俺は耳で、ここからお嬢様のいる部屋までの距離を測ろうとする。

 きっとまだ、無人ではないだろう。ほどなく、階下からかすかにゆっくりとした足音が聞こえてくる。お嬢様に夕食を運んでいるのだ。と同時に、誘拐犯達も食事を摂っているのだろう。

 もう少しで寝静まる。


 そう思っていたら、突然、かなり下のほうから、軋むような音が聞こえてきた。かなり大きな、不愉快な音だ。まるで鉄板同士を力任せにこすりあわせているような。原因が気になったので、俺はそっと屋上に戻った。

 砦の門が、少しだけ広く開けられていた。そして、その前に五人ほどが立っている。手には松明だ。その中心に、相変わらず鎧を着込んだままのギムがいた。


「見回りに出発する! 全員、周囲を警戒せよ!」


 遠くからでも、彼の声はよく響いた。


 これは好都合だ。

 この砦の中で、強敵といえばまずギム、そしてトゥダだ。そのうち一人がここを出る。今なら、多少強引に動いても。危険な戦闘に挑まなくても、お嬢様を連れて逃げられるかもしれない。

 しかも、ギムが立ち去った後、門の前には人がいなくなった。見張りまで休んでしまったのか。


 俺は、再び屋上の出入口に戻る。さっきから、胸の鼓動が止まらない。とりあえず深呼吸して、人間の姿に戻る。床に散らばる衣類を身につけ、身体強化薬のぶら下がった紐を、首に結わえる。あとは葉っぱを拾って、懐に入れるだけ。

 音をたてないよう、慎重に歩く。廊下は真っ暗だ。少しずつ、目を慣らしながら先に進む。

 左に曲がったところで下りの階段がある。少し離れたところ、右側の壁から、僅かな光が漏れている。恐らく、あそこが昼間に見た、お嬢様の居場所だ。よく見ると、扉にはつっかえ棒がかけられている。

 なるほど。いくつもの目的があって、誘拐犯は扉を用意したのだ。まず、お嬢様の健康を維持するため。開けっ放しでは、雨も風も防げない。虫や、ひょっとすると蛇なんかも入ってくるだろう。それから、プライバシーを守るためでもある。最後に、見張りなしで確実に彼女を監禁するため。

 つっかえ棒があるということは、中に人がいないということだ。灯りが点されている以上、きっと誰かが消灯に戻ってくるのだろうが……どうする?


 なら、少し先まで進んでから判断しよう。じりじりと進みながら、通路を右に曲がる。その向こうには、一切の光がなかった。

 それはそうか。これも、理由は一つではない。

 まず、彼らは限られた装備をやりくりして、なんとか行動している。貴重な照明を無駄遣いできない。基本的に追われる立場なのだから、いつどこで補給ができなくなるとも限らない。節約は当然だ。

 それにまた、あまり盛大に灯りを点してしまうと、立地条件の関係から、遠くでもはっきり見えてしまう。これがお嬢様の部屋のように、窓がない場所ならいいが、それ以外では自分達の危険を増すばかりになる。


 耳を澄ます。何も聞こえない。寝静まっているのかもしれない。或いは、意識だけは覚醒しているのかもしれないが……これだけ静かなら、じっとしているはずで、異変に即応できるとも思えない。

 懸念はある。あまりに順調すぎるからだ。


 いや、辻褄は合っている。まず、ケッツとかいう魔獣使いが、異変に気付いた。自分が使役しているヤシルが戻ってこないからだ。それで探しに出たが、見つけられない。だから、ギムに相談した。実は隠れた追っ手がいるのでは……

 だが、魔獣とはいえ、所詮は動物だ。野生に帰ったのかもしれないし、或いはもっと危険な動物に捕食されたのかもしれない。だから、ギムはヤシルの行方不明について、原因を特定できない。だいたい、昼間に一度見かけているのだから、その時点では生きていたと認識している。それで、念のために見回りに出かけた。ここにクズルがいないことを考えると、もしかしたら、ケッツはギムと一緒に、ヤシルを探しに出たのだろうか。

 そうなると、今、砦の中には、五人程度の雑魚どもと、トゥダがいるだけだ。彼らは危険などないと決め付けて眠りこけているのか、それともギムと交替で見回りに出る予定なのか、とにかく早めに休憩をとることにした。ここまで追っ手がかからなかった状況にも、安心しているのかもしれない。


 つまり、もしうまくいっているのであればだが、これは千載一遇の大チャンスなのだ。見過ごしたら、次はないかもしれない。

 俺はそっと引き返した。


 音をたてないように、静かにつっかえ棒を外す。そして、少しだけ扉を引いてみる。中に人は……

 やはり、お嬢様しかいない。縛られてはいないようだ。粗末な木の寝台の上で、力なく横たわっている。


 俺が部屋に立ち入ると、そのままの姿勢で目を見開いた。


「……だれ?」

「シッ」


 イフロースをはじめとした家臣団総出で救出に駆けつけたのならいざ知らず、この場にいるのは俺一人。騒がれてはおしまいだ。

 俺は、なるべく静かに、ゆっくりと近付いていく。同時に彼女は、ゆっくりと身を起こして、座り直した。なんとか囁き声が届く距離になってから、やっと告げた。


「私はフェイです。お忘れですか」

「フェイ……?」


 思い出そうとしているが、あまり印象に残っていないようだ。

 ちょっと、さすがにそれはひどい。俺は彼女をロリコンから救った挙句に、全身滅多打ちにされたのだから。


「あの、変わった貯金箱の」

「……ああ!」


 やっと思い至った彼女は、少し大きな声を出した。慌ててまた、指を手の前にもってくると、彼女は少し済まなさそうな顔をした。


「お助けにあがりました。ただ、しばらくはなるべくお静かに、ご辛抱願います」

「はい、わかりました」


 俺の言葉に、彼女ははっきり返事した。少しだけ、内心で感心する。

 確か俺より一つだけ年下だから、まだ五歳だ。なのに、随分と自制心があるじゃないか。子爵の邸宅にきてから、馬鹿なガキばっかりみてきたから、新鮮な感じだ。


 ……いや、そうか。

 収容所の子供達と、もしかしたら同じなのかもしれない。ウィストにせよ、ディーにせよ、やけにしっかりしていた。あの頭の弱いコヴォルでさえ、人の気持ちを慮るという点においては、屋敷の連中とは比べ物になるまい。それは、人生経験がなさしめるのだ。

 彼らは幼くして親から引き離され、孤独に悲しみ、必死で這い上がらなければならなかった。それは強いられた、歪んだ成長かもしれない。だが、だからこそ明確な意識を持っていた。それに対して屋敷の子供は、はじめから安心と怠惰の中に生きている。なんといっても、彼らの親自身がそうなのだ。


 実際、前世でも、想像力のない奴は、大人になっても同じだった。テレビのニュースで、子供の虐待か何かが報道されると「ひどい」とかなんとか言うくせに、実際に虐待だらけの少年時代を生きた人が経験を語ると「親の恩を」と罵る。彼ら自身の問題でも、スタンスは同じだ。会社勤めをして、毎月給料をもらっているはずなのに、いつも金があればという。そいつらは、給料日にパーッと使い切ってしまって、あとはひたすら月末を楽しみにただ待つ。それなら自前でサイドビジネスでも始めればいいのに、どんな努力も続かない。親もそうで、自分もそう。そして子供ができると、「勉強しろ」とは言うが、我が子が学習に際して、どこに躓いているかには、まるで興味を示さない……


 屋敷にいた連中の大半も、そういう夢遊病者だった。だが、彼女、リリアーナは違ったのだ。

 必然だ。子爵令嬢という立場。物心ついた頃から、常に我慢を強いられた。父親は、娘には大きな期待をしていない。ただ、貴族の娘として、無難に育ってくれればいいと思っている。母親も、半分は公務のためだが、そこまで子供達の方を向いてはいられない。相手をしてくれるのは侍女達だが、彼らはいつでも身分の壁を感じさせる。

 自然、良くも悪くも、表と裏のある子供に育つわけだ。


「済みません、卑しい奴隷の身ではありますが」


 俺は片手を差し出した。


「この先は暗いので、お手を。灯りをつけては、気付かれます」


 その手を、彼女は迷わずとった。


 よし……あとは、どうしようか。理想を言えば、一番下の階まで下りてから、身体強化魔術を使って、お嬢様をお嬢様抱っこして突っ走る。そうすれば、一時間フルで距離を稼ぐのに使える。邪魔さえ入らなければ、直接ピュリスを目指すのもいいかもしれない。なにせ、迂闊に小さな集落に逃げ込んだら……まさかとは思うが、誘拐犯の連中が、村ごと皆殺しとか、やらないとは言い切れないし。もちろん、発見されなければいいだけなのだが。

 だが、さすがにそれは欲張りすぎだろう。途中で誰かに発見されたらおしまいだから、ここはちょっとだけ妥協する。この先の廊下を進むと、下り階段がある。昼間に鳥の姿で通ったところだ。そこから左側に、確か部屋があったはずだ。地上三階、身体強化しても、お嬢様を抱えた状態で飛び降りるとなると、かなりギリギリではあるが、なんとかなるかもしれない。着地した際に大きな音がするだろうから、追っ手がかかるのは間違いないが、どうせ強敵はトゥダだけだ。


 そっと部屋を出る。扉を静かに押す。そのまま、すり足で少しずつ前に進む。壁に手をつき、階段の位置を探りながら、慎重に。

 大した距離ではない。窓まで。窓の前まで辿り着ければ。一度も戦わずに済む。大成功だ。


 階段を下りきった。そのまま左の部屋に……


 ぼっ!

 と無数の松明が燃え上がった。俺を取り囲むように。


 俺がまさに、立ち入ろうとしていた部屋。その広めの入り口を囲むような形で、五人の男女が待ち構えていたのだ。その中心には、トゥダがいた。彼だけは松明の代わりに、自分の得物を構えている。


「……なんだ? ネズミがいるとは思ったが……子ネズミとはな」


 馬鹿な。

 待ち構えていた? なぜ?

 どうする? どうしたらいい?

 考えがまとまらない。


 俺が目を丸くして硬直していると、階下から重いものを引きずるような音が聞こえてきた。規則正しいその歩みは、間違いない。


「首尾はどうだ、トゥダ」


 ギムだ。

 後ろには、数人の配下がついてきている。


「見てくれよ。こんなガキ一匹だけだ」

「本当か? まだ上にいるんじゃないのか」


 そう言われて、トゥダは顎で指図した。松明を持った男が二人、小走りに駆けていく。そいつらは、俺なんか眼中に入らないとでもいうように、さっさと後ろに回って、階段の上へと向かう。


「で、おい、そこのガキ」


 トゥダは攻撃的な態度で俺に詰め寄る。

 昼間はあんなに優しく抱き上げてくれたのに、今度は随分じゃないか。


「お前、どうやってここに入った?」


 子供が一人きりで、こんなところに来るとは、誰も思わない。

 普通、救出に向かう人員には、強くたくましい兵士を選ぶだろう。それがこんな子供だ。となると、何か理由があるに違いない、と考える。例えば、侵入手段だ。どこか狭い抜け穴を通ったとか……


「どうもこうも、出入口から入りましたよ」

「ふざけるな」

「ふざけてません」


 そう、ふざけてなんかいない。誰が本当のことを言うものか。

 さっきから冷や汗が止まらないが、少しだけ頭は冷えてきた。怖いからといって、相手の要求に従ってはいけない。まだ、まだ大丈夫だ。いずれは俺を殺すつもりだとしても、それは今すぐじゃない。

 なぜそう言いきれるのか。俺という子供の背後にいるであろう、子爵家の救出部隊。その情報を引き出さなければいけないからだ。

 こいつらは、俺の正体も能力も知らない。いざとなれば、俺はヤシルになりすまして、逃げることができる。ケッツとやらが、俺にクズルを嗾けてきたら、その時は助からないかもしれないが……いや、それでも、俺はまだ、ピアシング・ハンドを使っていない。うん、大丈夫だ。最悪の場合でも、自分だけは逃げ切れる。


「おい、コーザ」

「は、はい?」

「お前、ちゃんと見張ってたんだろうな? まさか、こんな大事な時に、居眠りなんてのは」

「な、ないですよ! 本当です!」


 どうだかな。

 多分、さっきギムが、数人を連れて見回りに出たのは、罠だ。俺はそれに引っかかったわけだが、まさか本当に門の見張りをなくしたわけではなかったのだろう。だが、コーザとやらは、どうやら本当にたるみきっていたらしい。顔に浮き出た脂汗が、それを証明している。


「まあいい。じゃあ、別の質問だ。他の仲間はどこにいる? 人数はどれくらいだ? 教えろ」


 きた。彼らにとって、一番気になるところだろう。

 どう返事をすれば、一番有利だろうか。イフロース率いる襲撃部隊が、森の中に展開しているぞ、とでも言ってやろうか。その場合、彼らはどうするか? 半信半疑でも、とりあえず逃走の準備をするかもしれない。雑魚どもは、確実に浮き足立つだろう。

 だが、根本解決にはならない。そうなったらトゥダとギムは、下っ端どもを切り捨てて、自分達だけ、馬に乗って強行突破を図るだろう。そうなったら、人質としての価値のあるお嬢様はともかく、俺は殺される。少なくとも、殺そうとする。

 なら、正直に、一人で来た、と伝えようか。これも意味はないな。そうなると、最初の質問に逆戻りだ。子供のくせに、なぜここまで誘拐犯を追跡できたのか。理由が必要になるからだ。


「わかりません」

「なに?」

「僕は下っ端なので、詳しいことはわかりません」

「んだとぉ!?」


 トゥダが軽くキレかける。


「大した度胸だ」


 ギムの低い声が響き渡る。

 いや、度胸なんてない。自分だけならまだ死なない。そう思っているから、なんとか渡り合えるだけだ。


「トゥダ。子供の相手などしている場合ではない。とりあえずは縛って放り込んでおこう。追っ手が近くにいるかどうかは、我々が直接調べればいいことだ」

「確かに……」


 頭を冷やしたトゥダも、それに同意した。


「そういえば、ケッツは?」

「敵がいないか、探しに行くとか言っていたな」

「あの野郎!」


 また着火してしまったらしい。


「いっつも自分勝手に動き回りやがって!」

「だが、今回はいい判断だろう」

「デスホークがいれば、見張りは充分じゃなかったのかよ? こんなガキにまで入り込まれて!」


 確かに、二羽揃っている状態で、ここの監視にまわされていたら、こっそり忍び込むのは至難だったはずだ。しかし、頭上にクズルがいなかったのは、そういう理由だったか。きっとケッツが連れていったのだろう。


「仕方あるまい。それに今回にしても、ケッツがヤシルの行方不明に気付いたから、こうして待ち伏せできたのだ」

「ヤシルはいたぞ。昼間に。あいつがちゃんと管理できていなかっただけだろうが」

「だが、現に……こうして侵入者を捕らえることができた」


 そう言いながら、ギムはこちらを振り向いた。


「怒るのは後でいい。今は時間が惜しい。トゥダ、二人を部屋に戻せ。私は本当に見回りにいく」


 トゥダは憮然とした表情をしていたが、すぐに気持ちを切り替えた。


「コーザ」

「はい」

「子供を二人、部屋に。すぐに移動するかもしれないから、逃げられないように縛っておけ」

「はい」

「ああ、それと、槍は置いていけ。そっちの棒と交換しろ。そっちのガキはともかく、仮にも子爵令嬢を、手違いで殺しました、では、洒落にならない」


 彼は早口に指示を飛ばす。言われて大人達が近付いてくる。


 俺は後ろを振り返った。リリアーナは、不安げに俺を見つめてくる。


 大丈夫、まだ終わっていない……

 俺は一度だけ、彼女に頷いてみせた。

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