07 兄は義妹に敵わない!?

 酷いありさまだった。

 部屋中に撒き散らされたゴミの山。悪臭が立ち込め、息をするのもやっとだ。


「っ!」


 そんなゴミの山に、1人の女の子がうずくまっていた。痩せ細った体には所々傷があり、見ていて痛々しいものがあった。


 俺はゴミの中をゆっくり歩きながら、女の子の近くに寄った。


「?」


 女の子は体育座りをしてうつむいていたが、俺に気がついたのか顔を上げた。その目は虚だけど、俺のことをはっきり見ていた。


「……誰?」

「俺はキミのいとこのリツっていうんだ」

「リツ、さん?」

「ねぇ、京ちゃん。ここから出ようよ」

「でも……」

「大丈夫だよ、俺たちがそばにいるから。だから、ねっ」


 俺は女の子に手を伸ばすと、安心させてあげられるように優しく微笑んだ。


「俺と一緒に、こんなとこから抜け出そう」



「ふがっ!?」


 自分のイビキに驚いて、俺は机に伏せていた顔を慌てて起こした。


「(何か懐かしい夢を見ていた気がするが、気のせいか?)」


 不思議に思いながら、俺はうーんっと腕を伸ばす。そしてイスから立ち上がり、チラリと時間を確認した。


 時間を見ると朝の5時30分だった。どうやら早く起きすぎてしまったようだ。


「……顔でも洗いに行くか」


 起きて何もすることがなかった俺は、そのまま1階へと降りていった。1階へと降りていくと、香ばしい匂いがしてくる。

 くぅっと静かにお腹がなった。匂いにつられるまま、俺はそのまま台所へと向かう。


「ふんふんふーん♪」


 台所には京がいて、トントンっとリズミカルに包丁で野菜を切りながら、鼻歌を歌っていた。

 そして切り終わった野菜を鍋に入れ、煮立ったら味噌を溶いている。どうやら今日の朝ごはんは、和食みたいだ。


「あれ?」

「っ!」

「お、おにいちゃん!? もう起きたんですか!?」


 京が振り向いた時、パチリと目が合った。京は驚いているのか、口をパクパクさせている。


「あぁ、早く目が覚めちゃってな」

「うっ」

「京?」


 不思議に思って京の顔を見てみると、京はショボーンとした顔をしていた。


「うぅ、これじゃあ朝の日課ができないじゃないですかぁ」


 床にしゃがみこみながら、指でのの字を書いている。


「(朝の日課って、俺を起こすこと……じゃないよな、多分。聞いちゃいけない気がする!)」

「はぁ、おにいちゃんの部屋に入りたかったです。クンクンしたかったです。ぐすん」

「(やっぱり!)」

「まぁ、入れなかったなら仕方ないです! その代わり別のことをやればいいんですからね!」

「別のこと?」

「それ!」

「わっ!?」


 不思議に思っていると、京が勢いよく俺にしがみついてきた。その勢いで俺は床に倒れこんでしまう。

 気がつけば俺は京に押し倒される形になり、京は俺を押し倒しながら満足そうに笑った。


「えへへっ、これでおにいちゃんの匂いをたっぷり嗅げます!」

「きょ、京?」

「ふんふん」


 まるで犬が尻尾をブンブン振り回しているように、京は俺の首筋に顔を埋めてクンクンし始めた。


「はぁ〜、やっぱりおにいちゃんの匂いは落ち着きます」

「ちょっ! くすぐったいんだけど!?」

「うは〜〜っ」


 離そうにも、まったく離れない京。あまりのくすぐったさに、プルプル震えてしまう。


「? おにいちゃん、どうしてプルプル震えてるんですか?」

「京に首筋をクンクン嗅がれているからだけど!?」

「そうなんですか? もしかして、おにいちゃんは首筋が弱いんですか?」

「ち、違うからな!?」


 良いこと聞きました! みたいな顔をする京。手を口に当て、ニンマリと笑っている。


「これはいい情報を入手できました。いざという時におにいちゃんの首筋を攻撃しましょう」

「丸聞こえなんだけど……」

「ち、ちがくて、これはですね」

「(めっちゃ目が泳いでるんだけど!?)」

 

 俺は良からぬことを考える京に、仕返しとして腕を頬へ伸ばした。そして、両手でむにゅっと柔らかな頬を掴む。


「お、おにいふぁん?」

「うりゃっ!」

「ひゃっ! いたいれす! ごめんなふぁい!」


 少し強めにやったが、痛かったのか京はそうそうに降参した。

 手を離すと京は「う〜」っと言いながら、自分の頬をさすった。


「おにいちゃん、痛かったですよ」

「京が良からぬことを考えているからだ」

「か、考えてませんって!」

「本当か?」

「は、はい」


 互いに顔を見合わせる。


「ぷっ」

「あはは」


 が、すぐにおかしくて笑ってしまった。2人して何やってるんだろうって。京もおかしかったのか「あはは」っと笑っている。


「(楽しいな)」


 こういった何気ない日々が、俺は幸せだと思った。それに、今笑い合っている俺たちは兄妹らしく見えるだろう。


「(俺たち、"兄妹らしく"なれたんだな)」


 なんて思っていたが、


「やっぱりわたしたち、恋人らしくみえますかね?」


 やっぱり京は、俺とは違う意見のようだ。


「どう見ても、兄妹に見えると思うぞ?」

「そうでしょうか? 今は歳の差恋愛だってありますし」

「さすがに小学生と付き合ったら、俺白い目で見られるんだけど!?」

「つまり、大人になったらってことですね?」

「違うから!!」


 相変わらずの京に、俺はツッコミを入れた。しかし、京には俺のツッコミが意味ないらしく。


「ふふ、おにいちゃんは恥ずかしがり屋さんですね。でも、大丈夫ですよ、おにいちゃん。わたしはおにいちゃんの側をずっと離れませんから! ずーっと一生一緒ですよ、おにいちゃん」


 京はそれはもう、満面の笑みで笑っていた。


 俺はそんな妹の笑みをみながら、決意した。


「(やっぱり何とかしないと!!)」


 これからも、京との生活は苦労が絶えなそうだ。


 


おしまい。



ー----ーー----ーー----ーー


ここまで、読んでいただきありがとうございます!


みなさまからの☆や♡、フォローとても嬉しいです!(*´Д`*)


《小学生の義妹が、何故か俺を支配しようとしてくるんだけど!?》の本編はここで終了させていただきますが、不定期でSSを上げていこうと考えています。


本当に読んでいただき、ありがとうございます!! 大変嬉しいです!!


風松 丸。




 

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小学生の義妹が、何故か俺を支配しようとしてくるんだけど!? 天春 丸。 @amaharu01

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