06▼義妹は疑ってるようだ?
「……」
「……」
俺は京に腕を引かれながら、家の近くを歩いていた。ホームセンターを出てからというもの、京は一言も喋らないのだ。チラッと京をうかがう。京はずっと頬を膨らませて、怒ってる様だった。
「京」
「……」
「京さん?」
「……」
話しかけても、話そうとはしない。これは、なんだかまずいことになりそうな予感がした。
でも、逃げたところで京に捕まりそうだし……諦めて着いて行った方がいいだろう。
そのまま京に腕を引かれながら考えていると、気がつけば家の前にいた。
京は一旦俺から離れると、ドアの鍵を開け、また俺の腕を引いた。
玄関で靴を脱いで家の中に入った時、京が「おにいちゃん」っといって手招きしてきた。
「ちょっとそこの壁に寄りかかって、しゃがんでくれませんか?」
「こ、こうか」
「ありがとうございます♪ 」
「っ!?」
京はお礼を言ったかと思えば、ドンっと壁に片手をついた。いわゆる壁ドンというやつを俺はされていたのだ。まさか壁ドンをされるとは思ってもみなくて、俺は驚いてしまった。
「きょ、京?」
「おにいちゃん、あの女はクラスメイトの名雪さんですよね? どうして2人で一緒にいたんですか?」
「それはたまたま会っただけで」
「ふーん、ならなんですごく嬉しそうな顔をしていたんですか? まさかあの女が好きなんですか?」
「っ!」
核心をついた質問に、俺は口ごもってしまう。
それを京は「YES」ととらえたのだろう。みるみる顔から表情が抜けていき、冷めた表情をしていた。
「好きなんですか。ふーん好きなんですね」
「いや、でも好きといってもても付き合えるわけじゃないし、高嶺の花だし……うぅ」
「なんで泣くんですか、それってすごく好きってことじゃないですか」
「ひっ」
京は俺の返答にイライラを覚えたのか、片手でバンバンと壁を叩いてきた。しばらく叩いていたが疲れたのだろう。両手を壁について、息を整えている。
「はぁはぁ、ねぇおにいちゃん」
「な、なんだ?」
「わたしがどれだけおにいちゃんのことを好きなのか分かっているんですか?」
「えっ」
「分かりますか?」
「こ、こんくらい?」
両手でまるをつくって好き度合いをあらわしてみる。自分でやっていて恥ずかしいんだけどな。
「……違います」
壁に手をついていた京が、プルプルと震えだす。
「全然違います! そんなんじゃ、わたしの愛は足りません!!」
「へっ?」
「おにいちゃんがわからないなら、教えてあげます」
そういうと京は、天井に向かって指をさした。
「わたしのおにいちゃんへの愛は、宇宙規模……つまりは宇宙以上なんです!」
「そ、そんなに」
「だから、そこら辺の女になんて負けません。わたしの愛を受け入れてくださいね、おにいちゃん」
「わ!」
そのままギュッと京が俺の首元に抱きついてきた。が、次の瞬間また京がプルプルと震え出した。それと同時に顔に冷たい感触がした。
「わたし、不安なんです。いくらおにいちゃんがわたしに夢中になるってわかっていても、おにいちゃんが別の女にとられるんじゃないかって、うっ」
どうやら京は情緒不安定になっているのか、目に涙を溜めて泣き出してしまったようだ。
「どうやったらおにいちゃんを、別の女にとられなくて済むんでしょうか? やっぱり、おにいちゃんを部屋に閉じ込めておくべきでしょうか? そしたらおにいちゃんは誰の目にも入らないし、わたしだけをみてくれますよね。でも、わたしはまだ子ども。閉じ込めたら学校に通報がいってばれてしまうかもしれません。そしたら引き離されるかもしれない。やだ、そんなのヤダヤダヤダ、あぁどうしてわたしの年齢はまだ10歳なのでしょうか? 大人だったらおにいちゃんを閉じ込めて、わたしだけのものにできたのに」
泣きながら京は、とんでもないことを言い出す。京の発言に慣れつつあるとはいえ、とても小学三年生の女の子の考えることではないと思った。
「(しょうがないといえば、しょうがないけど)」
「ねぇおにいちゃんは、わたしから離れませんよね? ずっとわたしと一緒にいてくれますよね?」
俺から少し離れ、俺の顔をうかがう京。俺は京の頭に手を伸ばすと、京の頭を撫で回した。
「"家族"なんだから、当たり前だろ」
ここはあえて"家族"という言葉を俺は使った。なぜなら、ちゃんと家族という言葉を使わないと京が勘違いすると思ったからだ。
「家族ですか、今はそれでもいいです。でも……わたしの愛をわかっていて、逃す気なんてサラサラありませんから」
でも京は、俺のことを本気で好きになっているみたいだ。離れようとしても、離れてくれない。
「だとしても、俺は京の気持ちを受け入れることはできない」
「そんなの関係ありません、おにいちゃんは絶対に"わたしを好きになります"から」
果たして京の言う通りになるのか? それとも俺は京と離れられるのか?
この戦いは、まだまだ続きそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます