05 甘い思いなんてさせません(^^)

 京の思考のヤバさを再確認した次の日、俺は隣町のホームセンターに買い物にきていた。というのも、事あるごとに京が俺の部屋に入ってくるので、それを阻止するためのドアチェーンを買いに来たのだ。


 ここまで来るのは大変だった。

 なぜなら、京が俺のそばを離れなかったからだ。

「どこにいくんですかお兄ちゃん? わたしを置いてくんですか?」っていいながら泣き始めてしまったが、グッとそこは心を鬼にして家から出てきた。(ティッシュを握らせて)

 なんとか1人の時間を手に入れた俺。


「えーっと、ドアチェーンはっと」


 ホームセンターの中をキョロキョロ探しながら歩き回る。隣町のホームセンターはとにかく大きくて、お目当てのものを探すのは一苦労だった。


「うーん、見当たらないな」


 なかなかドアチェーンが見つからないので、入り口にあったマップに戻ってきた。

 マップにはたくさん商品売り場が書かれていて、お目当ての場所をなんとか見つけた俺は売り場に向かって足を向けた。


「あれ? 宮田くん」


 その時だった。

 誰かに声をかけられた。とても綺麗で可憐な声。


 ゆっくりと振り返ると、そこには名雪さんがいた。


「やっぱり宮田くんだ! こんにちは」


 いつもはシュシュで髪の横を縛っている名雪さんだけど、今日は肩を編み込んで髪を流している。藍色のブラウスを着て、腰あたりまである長いチェックのスカートを履いている。


「な、なな名雪さん?」

「そうだよ、名雪だよ」

「……」


 私服の名雪さんを見たのは初めてだった。いや、ほとんどの男子が見たことないと思う。

 一言で表すなら"美しい"。とにかく私服の名雪さんは美しかった。


「名雪さん、美し過ぎないか」

「えっ?」

「な、なんでもない。あはは、名雪さん奇遇だね」


 なんとか誤魔化し、俺は話を変えた。名雪さんはキョトンとした後に、ふふっと笑った。


「宮田くんと外で会うのって初めてだよね? なんか、宮田くんの私服新鮮だね」

「はっ!?」


 ヤバい、適当な服を着て来てしまった。俺の格好はTシャツにジーンズといった格好だった。


「へ、変じゃないかな」

「ううん、変じゃないよ。宮田くんにとっても合っていると思うよ?」

「うっ!」


 あまりの天使さに、キラキラと眩しい光に包まれて見える名雪さん。


「(名雪さん、天使過ぎないか? 好き!)」

「宮田くん、また唇から血が出てるよ? 大丈夫?」

「大丈夫です! いつものやつですから!」


 持っていたティッシュで俺は唇の血を拭くと、大丈夫という意味を込めて笑いかけた。


「ふふ、やっぱり宮田くんって面白いね」

「そ、そうですかね?」

「うん、面白いよ。ねぇ、宮田くん今暇かな?」

「えっ?」

「そこにあるカフェで、一緒に話さない?」


 名雪さんが指をさしたそこには、ホームセンターに併設されたカフェがあった。


「(名雪さんと2人っきり!! なんだこの夢のような展開!?)」


「どうかな?」


 こてんと顔を横にしながら、俺の様子を伺う名雪さん。

 ドキドキと心臓が高鳴っていく。そんなのもちろん決まっている!


「いき!」

「おにいちゃん、探しましたよ!!」

「えっ?」

「京!?」

「もう、どこにいってたんですか」


 どこからから現れたのだろうか。いつの間にかとなりに京がいた。

 京はベレー帽を深く被り、黒いワンピースを着ている。

 京は俺の腕にしがみつくと、ギロリと名雪さんを睨みつけた。


「いつも兄がお世話になっております。おにい

ちゃんの"最愛"の妹の京です」

「噂は聞いてるよ。かわいい妹さんだね」


 名雪さんは京の目線に合わせてしゃがみ込むと、京に優しく微笑みかけた。


「私は名雪 奈々っていうんだ。よろしくね」

「うー!」

「京、ほらあいさつ」

「おにいちゃんに近づく悪い虫とは仲良くなれないです!」

「京!?」


 京はプイッと顔を横に向けると、俺の手を引っ張って連れて行こうとする。


「ほらほら、おにいちゃん! 早く行きましょう!!」

「いや、その」

「は・や・く行きますよ!!」

「いててててっ」


 京は思いっきり俺の腕をつねってきた。あまりの痛さに涙が出てしまう。


「(うぅ、本当は名雪さんとカフェに行きたかったけど、諦めるしかないな)」


 俺は泣く泣く名雪さんの誘いを断ることにした。


「名雪さんごめん。せっかく誘ってくれたけど、妹と来てるから。また今度誘ってほしいな」

「そっか、残念だけどしょうがないね。うん、また機会があったら話そう」

「おにいちゃん、早く!」

「わ、わかったって」


 俺は名雪さんに向かって頭を下げると、京に引かれるまま歩いた。

 名雪さんはニコッと笑ったまま、ヒラヒラと手を振ってくれた。


「うぅ」



「あーあ、せっかく2人っきりになれたのにな」


 彼女は2人を見送りながらクスッと笑う。


「まっ、その方が燃えるけどね」

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