04おにいちゃんに甘えたくなりました♡


「なぁ、京」

「はい、なんでしょうか?」

「これは一体なんなんだ?」


 ぎゅーっと俺の腕にしがみついてくる京。俺の腕に頭をスリスリさせ、それはもう幸せそうな顔をしている。まるで小動物が甘えてきてるような、庇護欲をかきたてられるような可愛らしさがあった。


「ふふ、今日はおにいちゃんにたくさん甘える日なんです!」


 今日は休日。学校も無ければ、家事を全て終えたのでやることもない。

 暇だから2人でなんとなくテレビを見ていたのだが、いつのまにか1人分空いていた距離がつめられていた。

 ギューっと抱きつかれれば、逃げることもできない。本当だったらそのまま抱きつかせてあげたいが。


「(このまま京を受け入れたんじゃよくないよな、よしっ!)」


 俺は覚悟を決めると、隣にいる京に話しかけた。


「あのさ、京」

「はい!」

「そろそろ離れないか?」

「? なんでですか?」

「えっ?」

「何でですか?」


 京はニコッと笑いかけてくれたが、目はまったく笑ってなかった。


「いや、あまり世間の妹は兄に抱きつかないと思うんだ」

「……」


 ジッと俺の様子をうかがう京。俺はさらに畳みかけた。


「ほらっ、他の兄妹を見習って適度な距離を持ったほうがいいんじゃないか? 京も変な目で見られたくないだろ?」

「……」


 こういえば京も、「たしかにおにいちゃんの言う通りですね」って言ってくれるかもしれない! 


「兄妹が仲良いのはいいが、そろそろ兄妹離れするべきだと思うんだよな。互いに友人付き合いを楽しもうじゃないか」

「……」

「なっ?」


 俺は頭の中で必死に考えながら、京を説得する言葉を紡いだ。


 紡いでいたのだが……


「おにいちゃん」


京はジッと俺の瞳を見つめ、そして優しい顔で笑ってきた。それはまるで子どもを微笑ましく思う母親のような顔だった。


「……おにいちゃんは、臆病ですね」

「えっ?」


 京は俺の手のひらに、自分の手のひらを重ねた。


「大丈夫ですよ、そんなの気にならなくなりますから」


 そう言うと京はソファーの上に座っている俺の上にまたがり、俺の頬に手をそえた。

 そして自分の顔を近づけると、俺の首筋にキスをした。

 柔らかな感触が離れていき、そこで俺は自分が何をされたのか気がついた。


「きょ、きょきょ京?!」

「ふふ、安心してくださいおにいちゃん」


 驚いている俺に対して、京は嬉しそうに笑いながら言った。


「おにいちゃんが不安に思うことはないんですよ? だっておにいちゃんは、私のことで一杯になって、周りのことなんて気にならなくなっていくきますから」

「……」

「現に今だって、わたしで一杯だったでしょ?」


 京は小さな胸を張って満足した顔で言っているが、俺は京の思考に頭を抱えたくなった。


「(ヤバい! 完全に京の思考がやばい方向に向かってるんだが!?)」


 まぁ、兄の写真を部屋中に貼るくらい元々やばかったけど。


「おにいちゃんどうかしましたか?」

「京、お兄ちゃん離れしよう」

「嫌です☆」

「お兄ちゃん、京のことが心配なんだ!」

「ということは、両想いですね!」

「違うぅぅぅ!!?」


 俺はツッコミ疲れで、ゼーゼーと息を吐いた。


「おにいちゃん、大丈夫ですか?」

「お兄ちゃんは、京の思考の方が心配だよ」

「?」


 どうやら京は自分がヤバいことを言ってることを、理解していないようだ。


 んーっと小さな指を唇に当てながら、考え込んでいる。


「おにいちゃんが、何を言いたいのか分かりません。世間一般だとか兄離れろだとか、別に本当の兄妹じゃないんだから付き合ったっていいと思うんですよ。わたし、おにいちゃんが大好きですからね!」

「きょ」

「好きなんです。わたし、おにいちゃんのことが。好きで好きで堪らないんです! おにいちゃんを閉じ込めたいくらいに!」


 京は俺の胸に顔を埋めてきた。


「ねぇ、おにいちゃん。おにいちゃんもいつか同じ気持ちになってくれますよね?」

「……」

「ふふ、今はいいです。わたしまだ結婚できる歳じゃないですからね。でも、ぜったいにおにいちゃんを離しませんから!」

「京」


 俺は抱きついてきた京を抱きしめ返すことはしなかった。抱きしめ返してしまったら、京の想いを受け止めることと同じだと思ったからだ。


「(やっぱり京の思考は、おかしくなってる。さて、どうするべきか)」


 京をこのまま突き離せば、俺がどっかに逃げれば京とのことは解決するかもしれない。でも、それでは"根本的な解決"にならないと思った。


「(俺がどうにかしないと、だって俺は京の兄になったんだから!)」

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