03 \好き! 大好き! 付き合いたい!/

 学校に着いた。ようやく、京と離れることができる。


 離れられることへの安心で、胸が少し落ち着いた。


「ほら、学校に着いたぞ」

「……」

「京?」


 校門の前で京の手を離して話しかけたのだが、京は俯いて顔を上げない。どうしたのかと思いしゃがんで顔を近づけると、京は俺の首元にギュッと抱きついてきた。甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐった。


「きょ、京?」

「うわぁぁん、おにいちゃんと離れたくないですぅ」

「ちょっ!?」


 周りがギョッとした顔をしたけど、すぐに「いつものか」っと呆れた顔で見ている。

 慣れた光景といえば、慣れた光景なのかもしれない。


 時々あるのだが、京の情緒は不安定でこうやって泣かれることがあった。今までのことを思うとしょうがないと思って甘く接していたが……

京のために俺は厳しく行動しようと思った。


「京、ワガママ言うんじゃない」

「うぅ、おにいちゃん」

「もう三年生だろ? しっかりしないと」


 そういうと京はキョトンとした顔をした後、ジワリとさらに目を潤ませた。


「おにいちゃんは、京がキライですか?」

「ちがっ!? そんなわけないだろ」

「じゃあ、京が好きですか」

「あぁ、好きに決まってるだろ!!」

「ふふっおにいちゃん、だーいすきです!」


 ギュッとまたさらに抱きついてくる京。


「(なんか、言わされた感が強いんだが。いや、言わされたよね!?)」


 俺はどうやら京の手のひらで、踊らされているようだ。

 京は「好き」を聞けて満足したのか、それはもう幸せそうだった。


「おにいちゃん、図書室で待っているので迎えに来てくださいね!」

「わ、わかった」

「またあとで、おにいちゃん! 浮気したらメッですよ!」


 京は俺の頭を軽く撫でると、ヒラヒラと手を振って俺から離れていった。


「き、厳しく接するつもりが、京に流されてしまった!?」


 くそっ俺の馬鹿!! これじゃあ、京に支配されるぞ!?


 地面に四つん這いになりながら突っ伏していると、ズシンと重みが増した。


「えっ?」

 

 なんだこの重みは? 誰かが座ったのか?


 不思議に思って顔を上げてみると、そこには長い髪をポニーテールにし、冷めた青い瞳で俺を見つめる少女がいた。

 腕には「風紀委員」の文字が入っている。

 四つん這いになった俺を椅子代わりにしながら、少女は足を組んでいた。(可愛らしいウサギ柄のパンツが見えたが、あえて見なかったことにする)


「今日は早く登校してきたかと思えば、朝から気持ち悪いですね。ロリコンの宮田くん。小学生に好きって告白するなんて」

「ロリコンじゃないから!? あれは妹だから!!」

「妹っていっても、1年前にできた妹でしょ? それにあの子の目……ブツブツ」

「(なにをブツブツ言ってるんだ!?)」


 ギリッと爪をかみながら俺の上に乗ってる少女、隣のクラスの音瀬 泉(おとせ いずみ)さん。風紀委員の1人で、遅刻魔だった俺を幼稚園のころから目の敵にしている……所謂幼馴染だった。

 凛としていて、真面目で綺麗な美少女で、学園ナンバー2に入るくらいの美人だった。


「宮田くん、あんな気持ち悪い告白、金輪際やめてくださいね。見ていて不愉快極まりないです」

「わ、わかってるって。金輪際やめるよ」

「おやっ、あなたが従うなんて珍しいですね。いつもは、「仕方ないだろ!」って小学生に溺愛だったのに」

「うっ、まっまぁ、そろそろ妹離れしないといけないなって思ったんだよ」

「……ふーん、そうですか」


 音瀬さんはそれだけ言うと、俺から立ち上がった。俺はゆっくり立ち上がると、膝についた砂を叩いた。


 チラリと音瀬さんをみると、音瀬さんの口角が不自然に上がっていた。この時の顔を見た周りは、「音瀬どうかしたのか?」って心配するけど、幼馴染だからわかる。これは音瀬さんが本当に嬉しい時の顔だった。


「妹離れ……うふふ、これでようやく」

「音瀬さん?」

「じゅるり……いえっ、なんでもありません」


 顔を赤らめながらヨダレを垂らし始めた音瀬さんは、無言でヨダレをハンカチで拭き、ポケットにしまった。


「とにかく金輪際、小学生への告白はやめてくださいね」

「はい」

「それでは行ってよし」


 途中の音瀬さんの態度は分からなかったが、とりあえず教室へ行って良いと言われたので俺は教室へ向かうことにした。このまま居たら、またなにか言われかねないからな。



 教室へ行くと、いつも通り騒がしかった。俺のいるクラスはパワフルな連中が多いのだ。中でもとびきりパワフルな奴わ……


「よぅ! リツはよう!」

「おはよう、朝日」

「なぁ、聞いてくれよ。高橋がさ〜」


 涙を流しながら俺に近づいてきた大男。友人の朝日だ。とにかく明るくて、


「高橋が俺のことバカっていうんだよ」

「……」

「テスト15点もとったのにぃ〜」

「いや、バカだろ」


 とてつもないバカだ。


「うわーん、宮田まで酷い。15点だぞ! 俺にとっては特別な15点なんだぞ!」

「おまっそれじゃあ、来年進級できるか分からないぞ?」

「そ、そんなぁ」


 よほどこたえたのか、朝日はその場にうずくまった。

 朝日には申し訳ないけど、現実を突きつけないと朝日は本当にやばいからな。

 巨体を揺らしながらしくしく泣き出す朝日。

 なんだか可哀想になってきて、俺は朝日の肩を叩いた。


「また勉強みてやるから、そんなに落ち込むなって」

「うぅ」

「一緒に進級しよう、なっ?」

「みっ宮田ーー!! お前は本当にいい奴だな!!」

「ぐえっちょっ抱きつくなって……しまっる!?」


 朝日に抱きつかれながら、俺は必死にもがく。このままじゃ、気絶しそうなんだけど!?


 ギブの意味をこめて朝日の腕を叩いていると、「おはよう」っと可憐な声が聞こえてきた。

 俺はすぐに視線を向けた。


 サラッとした綺麗な髪をシュシュで横にまとめ、顔は色白く、鼻筋はスッとしている。紫色のおっとりした目でニコッと笑いかけてくれるだけで、胸を撃ち抜かれてしまう……


 彼女はこちらに近づいてくると、朝日に声をかけた。


「おはよう朝日くん、そろそろ宮田くんを話してあげないと宮田くん倒れちゃうよ?」

「はっ!? み、宮田!!」


 勢いよく手を離され、俺はそのまま前に倒れそうになった。そんな俺を名雪 奈々(なゆき なな)さんは優しく抱き止めてくれた。柔らかな体、そしてフローラルな優しい香りが鼻をくすぐる。

 当たった胸の感触は弾力がある。


「(このまま抱きついていた……って俺は何を考えてるんだ!!)」


 俺は慌てて名雪さんから離れた。


「な、名雪さんありがとう。その助けてくれて」

「ううん、別に気にしなくていいよ」


 にこーっと笑みを浮かべながら、優しく笑いかけてくれる名雪さん。


「(名雪さん、めちゃくちゃかわいいんだけど!?)」


 俺の胸はもうキュンキュンときめきまくっていた。


 綺麗で美人な名雪さん。

 名雪さんは高校1年からうちの学校に入学してきて、音瀬さんが学園ナンバー2の美少女だとすると、名雪さんは学園ナンバー1の美少女だった。


 そして名雪さんは俺にとって特別な女の子で、俺は名雪さんに恋をしていた。


「どうしたの、宮田くん。顔が赤いよ? 熱でもあるの?」

「大丈夫か!? 宮田」

「大丈夫だよ、ただ……」

「ただ?」


 こてんと頭を横にして、不思議そうな顔をする名雪さん。


「(名雪さんが、可愛すぎるせいだから!!)」


 って叫びまくりたい。

 校庭のど真ん中から名雪さんに思いっきり告白をしたい。でもそんなことをしたら、京がやばそうなのでグッと我慢する。


「いや、なんでもない」

「宮田! 唇から血が出てるぞ!?」


 「(はぁ、名雪さんと付き合いたいな。まっ学園ナンバー1が俺になんか見向きもしないよなー)」


 でも、名雪さんと話せただけで幸せです!!



 今日も名雪さんと話せた。

 ほくほくとした気持ちで、図書館に向かう。俺の通う学園の図書館は大きく、校舎横にあった。


 図書館の大きな扉を開け、窓際の席に向かうとそこには京がいた。

 京は静かに本を読むのに集中してるのか、俺の……


「あっおにいちゃん」


 ことに気がついてるようだった。よく、俺だって気がついたな。


「それはもちろん、おにいちゃんの匂いで分かります!」

「なんで分かるの!?」


 つい驚いて大きな声を出すと、近くにいた図書委員の子に怒られてしまった。


 慌てて京と図書室から出ると、俺たちは手を繋ぎながら通学を歩いた。


「(はぁ、びっくりした)」


 途中、誰もいない曲がり道を曲がった時、京がピタリと足を止めた。


「おにいちゃん、しゃがんでくれませんか?」

「えっ?」

「早くしゃがんでください!!」


 京の気迫に押されて、俺は慌ててその場にしゃがみこんだ。すると、京は俺の服をくんくんっと嗅いだ。


「おにいちゃんから、女の人の香りがします……しかも、2人も。一体どういうことですか、おにいちゃん」

「(どうして分かるの?!)」


 ニコニコ笑っているのに、後ろから黒いオーラが見える京。


「い、いや別に、たまたま触れただけで……」

「ふふ、そうですか。ならお仕置きですね」

「なんで!?」

「えいっ」


 京はそういうと、力一杯俺に抱きついてきた。


「匂いが消えるまで、離れませんからね」


 その後1時間、京に抱きしめられ続けたのだった。

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