3-27 夏の終わり
『すぐに戻る。待ってて』
短く告げて通話が途切れた。陽輝は十分もせずにアパートに到着した。階段の陰で彼を待っていると、見慣れたC-HRが滑り込んでくる。
「花緒!」
呼んでから、隣に立つ公星くんを見つけて目を丸くする。
「このひとを病院まで連れていってほしいの。ご家族が危篤で」
「わかった、後ろ乗って!」
少し困惑したような息遣いは見られたけど、陽輝はすぐに受け入れてくれた。わたしは後部座席に公星くんを押し込む。
「ごめん、後でちゃんと説明するから」
「大丈夫だから、花緒は早く部屋に戻って。風邪引くって」
振り返って公星くんに「シートベルト締めて」と告げる。
「お願いします!」
公星くんがシートベルトを締めたのを確認して、陽輝は車を出した。赤い車体が絶対に追いつけない速度で遠ざかっていく。わたしはどこまでも無力だ。
後になって、なぜ陽輝があんなに素早く駆け付けられたのか、その理由を聞いた。
わたしが二階に上がってすぐに足を止めた様子を彼は見ていたらしい。しかも直後に尋常でない様子の女性が飛び出してきたものだから、不審に思って近くで様子を伺っていてくれたそうだ。
陽輝のおかげで公星くんはおばあさんの最期に立ち会うことができたらしい。彼が到着して少しした頃に意識を失い、そのまま息を引き取ったと聞いた。その晩からしばらくの間彼は実家に帰っていた。
わたしはと言うと、しっかり体調を崩して丸一日寝込んだ。公星くんが何度か荷物を取りに帰っていた気配があったけど、意識が朦朧としていて、あまり覚えていない。
数日後の夕方、突然インターホンが鳴ったのでびくびくしながら出てみたら、公星一家が揃っていた。五十嵐さんにお礼を、と陽輝宛の菓子折りを預かり、ついでにいつも奏汰がお世話になっておりますとわたしまでいただいてしまった。ゼリーの中に紅葉を模した寒天が浮かんでいる。
夏が終わった。やがて嵐が来る。
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第三章まで読んでくださりありがとうございます。
奏汰のターンはここで終わり、物語も一区切りです。
第四章からは花緒の傷が描かれます。
結末に向けて加速する物語にお付き合いいただければ幸いです。
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(レビューリンク↓)
https://kakuyomu.jp/works/16817330664580804655/reviews
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