第54話:理解できない人
「じゃあなに。君、あのあともずっとケインに付き合ってたの?」
「そだよ」
助けろ助けろあんたのせいだ。なんて喚いて仕方がないサーリャを、渋々ログハウスに通し、テーブルを囲んで事の次第を聞くと、ケインの腕を治すために、ゴルトログ商会から金を盗んだのが発覚し、追われる羽目になっていたらしい。
なんだそりゃ。
その経緯を僕のせいだと誹られても、知ったこっちゃないのだが、それはそれとして僕は、このサーリャという少女にいくらか感心もしていた。
「すごいね。てっきり君は、あのまま逃げだして、もう戻らないかと思ってたのに」
サーリャがパーティに加わったのは、ケインのミスリル級冒険者の称号に惹かれてのものだと思っていた。両腕とパーティメンバーを同時に失ったケインに、まさかそのまま付き従っているとは。
するとサーリャは、テーブルの反対側で唇を曲げる。
「やっぱ死霊術師って陰険。だってなんか可哀相じゃん、あのまま放っておいたら」
「あれにそんな感想抱けるだけ、すごいと思うよ」
隣でウリエラも、こくこくと頷いている。面識のないマズルカとポラッカは、首を傾げているが。
「そんなにひどい男なのか、そのケインというのは」
「街にいくらでもいる程度の、性格が悪いやつだよ。周囲の人間は全部、自分の都合で動くものだって思ってる、ある意味めちゃめちゃ分かりやすいタイプ」
「うー、そんな人、仲良くなりたくないなあ」
ポラッカの感想で正解である。
本人は優男を気取っていたようだが、地金が透けて見えているから、まともな人間は近づかない。決まって寄ってくるのは、おこぼれに与ろうとする同程度の人間か、僕みたいに他に選択肢のない人間だ。
僕としては、腹は立つけど、あしらうのも楽な相手だったが。
「でも顔はよかったじゃん」
やっぱり呆れる。そんな理由でパーティ組んでたのか。
「せっかく私のこともパーティに入れてくれたのにさ。結構かわいがってもらって、いい感じに冒険者できそうだったのに、あんたのせいで、みんな死んじゃって……最悪だよ」
「あれ、ドラムも死んだの?」
彼は下半身を失っていたけど、まだ再生の余地もあったと思ったのだが。
「死んだよ。腰から下がなくなって、食事もろくに取れなくなって、一週間かけてどんどん弱っていった。最期は枯れ枝みたいになってた」
あの筋肉の塊みたいだったドラムがねえ。
「そしたらケインさん、もうひとりぼっちじゃん。だから私がついててあげたの。私が必要って言ってくれたしい。なのに、お金のことがバレたら、出ていけって……ほんっと最低! しかも原因になったあんたは、こんないい感じのおうちで、女の子とペットと一緒に暮らしてるし! 絶対許せないじゃんそんなの!」
献身的なんだかわがままなんだか、よくわからない子だなあ。そして、ひとつ盛大に間違えている。
「トオボエもペットじゃなくて、僕の仲間だよ」
「どっちでもいいよ! それもこれも、全部あんたのせいなんだから! ほとぼりが冷めるまで、匿ってよ私のこと!」
なにもかもよくない。
「え、やだ。だいたい、君は僕のこと毛嫌いしてたじゃないか。なんでそんな相手のところに逃げ込もうとするの」
「だって、他に頼れる相手いないし……死霊術師は気持ち悪いけど、ここはなんかいい感じじゃん? 森の中のログハウスで、ゾンビもいないしー」
僕もウリエラも、マズルカもポラッカも、みんなして顔を見合わせる。嘘でしょ、魔術師なら大抵みんな気付くのに。
「いるけど、ゾンビ」
「え、どこどこ!?」
「ウリエラもマズルカもポラッカも、外にいるトオボエも、僕以外みんなゾンビだからね? あとこの家も、トレントのゾンビで出来てるから」
「嘘ぉ!?」
慌てて立ち上がるものだから、椅子を倒して大きな音を立て、何事かと外からトオボエが覗き込んでくる。大丈夫だよ、なんでもないから。
「わかったでしょ。ここには君の嫌いなものしかないの。だからさっさと出てって」
「~~~~~っ! ぅぅぅぅう、やだ!」
「やだじゃない。ダメ」
「出てったら私、殺されちゃうよお!」
知らないし、僕がサーリャを匿わなければいけない理由が、なにひとつない。
死霊術を理解せずに頼ってたのも、僕を追い出したのもケインたちが自分で決めたことだし、僕は選択肢を与えた。だからウリエラはここにいる。ましてやその後お金を盗んだことなんて、これっぽっちも僕のあずかり知るところじゃない。
それに彼女は、得体が知れない。
ケインにべったり媚を売って、僕を嫌悪していたって言うのに、そのケインに見捨てられた途端に、僕のところに転がり込んで来るなんて。僕にぶつかったのは偶然かもしれないが、やっぱり生きてる人間がなにを考えているのか、さっぱりだ。
「ゾンビちゃんたちのことは我慢するからあ!」
「しなくていいよ! っていうか匿ってもらおうって言うのに、なんでちょっと上から目線なんだよ!」
「そんなことより、ひとついいか」
地団太を踏んで駄々をこねるサーリャを宥めるように、マズルカが口を挟む。
「サーリャ、だったか。お前、ゴルトログ商会の金なんて、どうやって盗んだんだ? アタシとポラッカは死ぬ前、バルバラ商会の奴隷だった。金を収めた倉庫は、かなり厳重に管理されていたぞ」
「絶対近づくな、って言われてたもんね。そっちだと違ったのかな?」
そう言われてみれば、確かに。
サーリャはケインに言われたからと、さも当たり前のようにゴルトログ商会から金を盗み出している。盗賊でもない、白魔術師の、それもウリエラたちがゾンビだと見抜くことも出来ないようなサーリャが。いったいどうやって?
「え? だってあそこ、私ん家だもん。ちょっとパパの部屋、っていうか会長室に行って、必要な分だけ貰っただけだよ」
「は?」
サーリャが、ゴルトログ商会の、会長の娘?
「嘘でしょ」
「嘘じゃないもん!」
この子、なにもわからなさすぎる。
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