第30話:調査開始
ひとまずはフレイナもパーティに加入し、グール討伐に乗り出す、という方針で決まったはいいものの。
「ところであなたたち、ここでいったいなにをしているの? こんな大量のスケルトンなんか使って」
「スケルトンじゃありません、ボーン・サーバントです。マ、マイロさんの高度な死霊術と、私なんかの黒魔術を一緒にしないでください」
「どっちでもいいわよそんなの。ダンジョンの中になにを建てるつもり?」
「い、家に決まってるじゃないですか。私たちは、ダンジョンの中で暮らしていくんです」
「はぁッ!?」
大丈夫かなあ、本当に。
「マイロ」
ギスギスと言い争うウリエラとフレイナを見ていると、そっとマズルカが耳元に口を寄せてくる。
「大前提としてなんだが、あのフレイナとやらの話を信じるのか? アタシもウリエラも、トレント狩りの中でグールなんぞ見かけていないが」
「そうだね。現物を見ていないから少し信じがたいけど……でも、上の階での言葉と矛盾はしないし、僕らを嫌ってても聖職者だからね。嘘はついてないと思うよ」
「なら、そのグールとやら、アタシたちが手を出す理由はあるのか?」
「うーん……」
正直に言えば、僕らが積極的に討伐に乗り出す必要はあるのか? と考えると微妙なところなのだが、理由はないでもない。
「問題の目は早いうちに潰しておきたい、ってところかなあ。いまはまだダンジョンの中も静かなものだけど、たぶんすぐに大騒ぎになる。僕らとしても、それは好ましくないでしょ?」
問題のグールの話が広がれば、当然冒険者たちも討伐に乗り出す。すると、この階層に大勢の冒険者が押し寄せることになる。必然的に、僕らの拠点が人の目に触れる確率も上がる。
この広場も階層の端のほうにあるから、普段ならなかなか人は近づかないが、ギルドが人海戦術に乗り出そうものならそうもいかない。できれば避けたい展開だ。余計な詮索はされたくない。
そんなわけで、僕らでさっさと手を打ってしまいたい、というところなのだが。
「ふむ……まあ、それもそうだな。聖騎士の態度は気に食わないが、グールを討つまでの間と思っておこう。で、どう動くんだ。さっそくそのグールを探すのか」
「ううん。まずは情報収集だね」
フレイナの話を聞く限り、グール討伐は無策で挑んでも痛い目を見る。
高い知能を持つグールに、無数のその手下たち。これに対処しようとするならば、こちらも相応に準備を整える必要がある。
凶悪なモンスターに挑むにあたって、情報は何よりの武器だ。どんな攻撃をしてきて、どんな攻撃なら通用するのか。知っていると知らないとでは、勝ち目は全く変わってくる。
それに、現時点ではフレイナの視点でしか話を聞けていない。他の人の目にはなにか違う様子が見えているかもしれないし、第一ダンジョンの階層を自由に移動できるのだとしたら、いまどこにいるかもわからないわけだ。
「どう探して、どう戦うのか。それを知るためにも、他の冒険者に探りをいれるところから、かなあ……」
「なんだ、言い出したわりにはずいぶん乗り気じゃなさそうじゃないか」
「乗り気じゃないに決まってるでしょ、他の冒険者に聞き込みしないといけないだなんて」
人に関わるのが嫌でダンジョンに引きこもってるっていうのに、どうしてそのダンジョンの中で人に話を聞きにいかなければいけないというのか。しかも聖騎士(のゾンビ)を引き連れて
面倒くさいことこの上ないに決まっている。
◆
フレイナの話を聞く限り、問題のグールはこの迷宮のルール範囲外にいる節がある。どこに現れるのかわからない以上、拠点に誰かを残しておくわけにもいかない。
なので僕らは、また全員で移動することになった。
「で、でも大丈夫でしょうか。ボーン・サーバントだけ残して建築させる、なんて。作りかけの杖も置いてきてますし」
「ダメでもともと、ってところだねえ。建材は揃ってるし、全部終わって戻ってきて、家が出来てたら万々歳。なにか邪魔が入ってたら、大人しくまたやり直そう。これで建築のために誰か残して、なにかあったら目も当てられないし」
杖は杖で、今度は表面処理のための霊薬に浸しているので、動かせないのだ。
「うう、わかりました……どうか何事もありませんように……」
「歪んだ魂で祈ったところで、『言葉』は聞き届けてくれたりしないわ」
「……別に、あなたたちの信仰に祈ってるわけではありませんから」
何事もないといいなあ。
移動の道中、フレイナのいちいち攻撃的な態度に、ウリエラは率先して言い返しに行ってしまう。死霊術師だった僕としては、そのくらいの嫌味や敵意は慣れたものなのだが、相手をしてしまうウリエラは、どんどんストレスを溜めてしまうだろう。あとでめいっぱい労ってあげよう。
険悪なフレイナ(と、主にウリエラ)にため息を堪えながら、僕らは樹海の来た道を戻る。目指すは第10階層の階段広場だ。
樹海ゾーンで出るグールというのは、強さを別にしても明らかな異常事態だ、というのは先刻も確認した通り。冒険者の心理として、異常事態に遭遇したら、基本的には上のゾーンに退避するものだ。
なので、第13階層に現れたグールの情報を集めるのであれば、第10階層の階段広場が適切ということになる。もちろん、途中でも誰か出会えれば話を聞く。
そんな方針で僕とウリエラ、マズルカ、トオボエ、鞄の中に隠れているポラッカ、それにフレイナは、獣道を進み、階段を上がり、第10階層まで戻ってきたわけなのだが。
「グールの姿どころか、噂話のひとつも聞かないね」
道中出会ったの冒険者や、階段広場にキャンプしている冒険者たちに聞いてみても、関わるなって追い払われた相手以外は、誰もそんな話は知らないという。
これは、どういうことか。
「本当にいるのか、グールの群れなんて」
「私が自分の死因で嘘ついてるって言うの!? 『言葉』に誓って、私たちはグールに殺されたのよ!」
「だとしたら、可能性は二つだね。フレイナたち以外は誰も襲われていないか」
「……お、襲われたパーティは、誰一人戻ってきていないか、ですね」
階段広場に、ごくりと生唾を飲み込む音が響く。
「だが、教会が聖騎士団を派遣したのだろう? 教会はどこでその存在を知ったんだ?」
「冒険者としてダンジョンに潜っていた修道士から、報告を受けたのよ。本来いるはずのない階層で、グールの群れに襲われた、って」
つまり、報告したのも教会の関係者か。
「うーん……もしかすると、なんだけど」
広場がにわかに騒がしくなったのは、脳裏に過った可能性を話そうとした、ちょうどそのときだった。
「もうっ、どうなってるのさ! 聞いてた話と違うじゃんかっ!」
「俺に言われたって、わかるわけないだろ……」
「でも、アンデッドが出るのはもっと下の階だ、って言ったのはあなたですからね」
「……よせ」
「そうですよ、いまはこうして、わたくしたちが無事に戻れたことを喜びませんと」
どやどやと階下から駆け込んできたのは、男の戦士が二人、猫のような獣人の女に、白魔術師、修道士と見える女が二人という、バラエティに富んだ賑やかなパーティだった。
「げ」
思わず顔を歪めてしまう。パーティの中の、剣と盾を持った戦士の男は、不本意ながら知っている相手だったからだ。
「あれ? なんだ、マイロじゃないか、久しぶりだな」
「……もうこんなところまで下りて来てたとはね、クルト」
地上で出会った戦士、クルトとその御一行様だった。
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