第25話:ハウス・オブ・ザ・リビングデッド計画
ダンジョンに暮らす拠点を作るうえで、ネックになる問題があった。
ひとつがモンスターの再配置。
ダンジョン内で倒されたモンスターたちは、人のいないどこか別の場所に再び出現するようになっている。もちろん拠点を作っていようがお構いなしなので、戻った拠点がモンスターのねぐらになっていた、なんてことを避けるために、どうしても留守番を置いておく必要が出てくる。
もうひとつが、建材だ。
転移魔術という超便利移動手段がない現状、個人で運搬できる資材にはどうしても限りがある。さらには、ダンジョン内部の構築物は破壊することが出来ないので、いくら周りに木々が生い茂る樹海ゾーンでも、結局用意できる拠点は持ち運びできるテントが精々になってしまう。
せっかく街から離れ、快適に暮らす環境を整えようというなら、安心して暮らせる家が欲しい。どうやって拠点を作ったものか悩んでいたのだが。
「でもトレントのゾンビを使えば、この二つの問題が一挙に解決できるんだ」
「あ、な、なるほど……!」
建材については言わずもがな。倒してもいくらでも再出現するトレントを、家を建てるための資材にするのだ。これならば、素材はいくらでも入手可能だ。
「しかもトレントゾンビは僕の仲間、パーティの一員だ。用事で拠点を空にしないといけなくなっても、常に誰かがいるって状態を維持できる。なんせ、拠点そのものがその誰かなんだからね」
いままではゴブリンゾンビを見張りに立たせたりもしたが、モンスターの出現は防げても、逆になにかあるのではと、冒険者を呼び寄せてしまう危険があった。
これも、建築物自体がゾンビならば防犯面もいろいろ応用が利くし、それ以前に、広場への道をトレントゾンビで塞いで偽装することも出来る。熟練の冒険者には見破られるだろうが、時間稼ぎにはなるだろう。
「待て、それはつまり、ゾンビの中に住む……ってことになるのだが」
画期的な計画に満悦していると、マズルカが躊躇いがちに声を上げた。
「え、うん、そうだけど、なにか問題ある? ちなみに正確には、無数のトレントゾンビの集合体ってことになるかな」
すべてつなぎ合わせて一個体とすることも出来るが、さすがにそこに意志のある魂を入れるつもりはない。となると、ひとつの傀儡ゾンビにできるのは単純な命令ひとつが精々なので、複数の傀儡ゾンビのままのほうが都合がいいのだ。
戦闘中のような、状況が目まぐるしく変わり、逐一命令を出さなければいけない場面で同時に操る数には限度があるが、命令して放置しておくだけの傀儡ゾンビならいくらだって作り出せる。
僕の死霊術師としての創造性の見せ所ってわけだ。
そんな、僕としては自信満々な計画なのだが、マズルカの表情はどうにも浮かない。不安げに眉根を寄せるマズルカの腕の中から、ポラッカが僕を見上げた。
「ねえマイロおにいちゃん、ゾンビの中って言っても、見た目は普通のおうちなんだよね?」
「うん? もちろんそうだよ。死体って言ってもトレントは木なんだから、見た目は普通のログハウスだ。もしかして、肉の塊みたいな中で暮らす想像してた? さすがにそんなの僕もやだよ」
「う、む……そうか。いや、お前は死体というものにやたらとこだわりを見せるから、つい、な」
僕をなんだと思ってるのさ。
「すまん、無礼な心配をしてしまったな、謝る。とにかく、建材については承知した。だが運搬にしろ建設にしろ、人手は必要だろう。そこはなにか考えがあるのか?」
「抜かりはないよ……なんて偉そうに言っても、これは僕じゃなくてウリエラにお願いする仕事になるんだけど」
「わ、私ですか……?」
「そう、これなんだけど、わかる?」
懐から手のひら大の麻袋を取り出し、ウリエラに渡す。じゃらじゃらと音のする袋を受け取ったウリエラは、不思議そうに首を傾げながら中を覗き、ぱっと目を見開いた。
「あ、これ、牙ですね。ゴブリンですか?」
「さすが、その通りだよ。これだけあれば労働力には十分だと思うんだけど、出来るかな?」
「ま、任せてください!」
「頼むから、そっちだけで完結しないでくれ。アタシたちは魔術師じゃないんだ」
置いてけぼりにされそうになったマズルカが、不満げに顔を突っ込んでくる。いけないいけない。話が通じる相手とは、ついとんとんと会話を進めてしまう。
「ゴブリンの牙だって? いったいそれをどうしようっていうんだ」
「これで、ゴーレムを生み出すんだ。
ドラゴン・トゥース・ウォーリアは、名前の通り竜の牙から屈強な骸骨兵士を生み出して戦わせる魔術だ。出来上がる骸骨兵士の姿から死霊術と勘違いされがちだが、牙を核として、術者の魔力で構築するゴーレムの一種なので、黒魔術の領分だったりする。
生み出されるゴーレムの強さは、牙の持ち主の強さに由来するため、ゴブリンの牙では大した戦力にはならない。だが運搬や建築のような作業で使うのであれば、十分な労働力になる。
「上の階層でこつこつ集めてたのが、十分溜まったからね。いつ引っ越しに踏み切ろうか悩んでたところに、ウリエラがトレントゾンビのアイデアをくれたんだ」
つまり、新拠点建設のためには、ウリエラの力が不可欠だったのだ。魔術面でも、アイデア面でも。
「頼りにしてるね、ウリエラ」
手を差し出すと、ウリエラは赤い瞳を潤ませながら、両手で握り返してくれた。
「あ、ありがとうございます、マイロさん……! 私、頑張りますから……!」
「ふふ、どうしてウリエラがお礼を言うのさ。それに僕たちの家なんだから、みんなで頑張ろうね」
「~~~~っ! はいっ!」
こうして、僕らの新たな家づくりが始まったのだった。
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