Chapter 2-7

 人形のようだった生徒たちに生気が戻る。文字通り生き返った生徒たちは、まどろみの中で霧に包まれ消えた。


「これ、直前の記憶なくなるんだよね?」

「まあ、幻術の一種だからな。そういうこともあるかもな」


 その様子を京太きょうたの隣で見ていた朔羅さくらが尋ねると、京太はなんてことのないように言った。

 朔羅は京太にジトッとした視線を向ける。その目元は赤く腫れていた。


「私、あの日のことあんまりよく覚えてないんだけど」

「はは、そいつぁ結構。ま、しっかり気張ってりゃそんなこともなくなるだろうさ」


 こちらを見ずに答える京太に頬を膨らませる朔羅だったが、やがてしぼんだように下を向く。


「……私のこと、聞かないの?」

「なんのことだか。別に、問い詰めやしねぇよ。言いたくなったら言やぁいい」

「若様、終わりました」


 作業を終えた紗悠里さゆりが振り返る。彼女の術で、生徒たちは向こう側・・・・へ戻っていったのだ。

 陣牙じんがとの戦いの後、どうやって『異界』から帰ったのかよく覚えていなかったが、こういうことだったのか。


「よし。ま、これで行方不明事件は一件落着ってわけだ」


 倒れた黄泉よみの身体から、ぼうぼうといくつもの閃光が沸き上がった。それは黄泉に喰われたばかりの女生徒や、朔羅が目覚めた物置部屋に向かって飛んでいった。

 死んだと思われていた女生徒が目を覚ましたのを見て、あれは黄泉が喰った生徒たちの魂だったのだと気付いたのだった。


「もしかしたら先生は、こうなることを見越してあいつらの身体を取っといたのかもな」


 それはもう、もしかしたらの話でしかない。

 魂を喰われた者たちは死んだも同然だ。ならばその身体を残しておくことに意味はない。

 それがこうしてここで保管されていた。


「先生……」

「戻るぜ。先生の遺体、せめて弔ってやらなきゃな」

「……うん」


 京太の言葉に頷き、朔羅たちは踵を返した。

 囲炉裏の間に戻り、残っていた朝町あさまちの遺体を京太が担ぐ。黄泉の遺体は既にこの場にはなかった。紗悠里との戦闘を切り上げた双刃そうはによって持ち去られたのだ。


 そして、朔羅たちは『天苗あまなえ』の屋敷を後にした。


     ※     ※     ※


 後日、朝町の葬儀が行われた。

 行方不明になった生徒たちには、朝町に攫われたという記憶は残っていなかった。そのため、彼が犯人であることや鬼であることが明るみにでることはなかった。


 これは、魔払いとして殉職した朝町苗木なえぎという人間のための葬儀だ。


 葬儀は火葬の段階まで進んでいた。朔羅は京太と並んでそれを見守っていた。


「……先生はお前が攫われたとき、自分がやったことを白状してきた。あれはもしかしたら、助けを求めてたのかもしれねぇな」


 京太の呟きに、彼の顔を見上げる。その目は真っ直ぐに火葬場へと向けられていた。


「……京太君」

「どうした」


 火葬場に視線を戻し、朔羅はポツリと呟く。


「私、決めたよ。この学校で一番の魔法使いになる」

「……そうか。そいつぁ結構」


 もう二度と、自分の前で誰かに死んでほしくない。


 雨粒が落ちるような音がした。その音は、朔羅の足元でしか鳴らなかった。

 火葬場に漂う熱と灰の匂いはきっと、頭の片隅に染み付いて忘れることはないだろう。








 Chapter2 魂の葬送 END

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【中編】あやかし通りの魔法学校~桜の夜、魔法少女は鬼と出会い秘密の恋をする~【連載中】 椰子カナタ @mahonotamago

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