連帯

三鹿ショート

連帯

 呼び出された場所へと向かうと、彼女が制服姿の人間に囲まれていた。

 酔った彼女がその場を動こうとしないために、首に記された番号を頼りに私が呼び出されたのである。

 制服姿の人間たちに頭を下げる私を見ながら、彼女は笑みを浮かべていた。

 彼女の頭部を叩いてから背負うと、私は自宅へと向かって歩き始めた。

 呼び出されることには慣れたものの、気分が良くなることはない。


***


 犯罪の発生件数が激増したために、その対策として、連帯による責任というものが取り入れられた。

 無作為に選ばれた二人組に同じ番号を付与し、どちらかが罪を犯せば、罪を犯していない人間もまた、同罪とされるというものだった。

 当然ながら己が罪に問われてしまうことを避けるために、二人組は互いの生活に口を出すようになり、その結果、これまでよりも犯罪の発生件数が減ったことは事実である。

 だが、中には自分が問題を起こせば相手が困るという立場を利用し、相手に生活を支えさせるという人間も現われていた。

 不慮の事故などで相手がこの世を去った場合は、新たな人間が連帯人として選ばれるが、相手が憎いからといってその生命を奪い、別の人間を連帯人とするような選択をする人間は、稀だった。

 相手を殺めるということは、己がその罪で逮捕されるからである。

 だからこそ、ほとんどの人間は、相手の言いなりと化していた。

 私もまた、その中の一人である。


***


「良い人間が損をするということは、何も変わっていないのです」

 笑みを浮かべながら酒を飲む彼女に、私は苛立ちを覚えた。

「それを分かっていながら、このようなことをしているのか。改めるつもりはないのか」

「あなたには申し訳ないと思っていますが、己の欲望とあなたに対する申し訳なさを天秤にかけたとき、私は自分が幸福と化す道を選んでしまうのです。こればかりは、どうしようもありません」

 私は手近に置いてあった空き缶を彼女に向かって投げたが、彼女はそれをあっさりと避けた。


***


 無作為に選ばれた二人組が同じような悪意を抱いている可能性は低いだろうが、その存在を否定することはできない。

 現に、私の眼前では、一人の女性が二人組の男性に襲われている。

 双方が同じ願望を持ち、共にそれを実行しようという意志が存在していれば、それは二人組の悪人が誕生するということになる。

 単独よりも行為は激しくなり、証拠湮滅や逃亡をするための知恵もよく働くに違いない。

 他の人間からすれば、厄介以外の何物でもないが、当人たちがそのことを気に病むことはないだろう。

 いっそのこと、私もまた彼女のように堕落すれば良いのではないかとも考えるが、自身の性格上、それを実行することはできなかった。


***


 彼女は外で働こうとしなかったために、せめて家事だけでも行ってほしいと頼んでいたのだが、それが叶ったことはない。

 私が自宅を出たときに眠っていた場所で、今では酒を飲みながら本を読んでいる。

 私が使った食器は片付いていないどころか、彼女が使ったと思しき食器が増えている。

 洗濯物は干されることなく籠に入れられたままであり、塵箱に向かって投げた塵が周囲に散乱していた。

 立ち尽くしている私に対して、彼女が告げてきたことといえば、

「今日の夕飯は、何でしょうか」

 目の前が、赤く染まった。

 酒を飲もうとしていた彼女の首に腕を押しつけ、その腹部に拳を打ち込んでいく。

 堪らず、彼女は床に嘔吐するが、彼女の頭部を掴むと、私はその部分に彼女の顔を押しつけた。

 謝罪と泣き声が聞こえてくるが、今さら戻ることはできない。

 近くの酒瓶を叩き割り、その破片で彼女の肉体を傷つけていく。

 腹部を踏みつけ、臀部を蹴飛ばし、窓硝子に向かって突き飛ばしたために、彼女は硝子まみれと化し庭に倒れた。

 その場から逃亡しようとするが、私は彼女の髪の毛を掴むと、家の中へと引きずり戻した。

 夜は、まだまだ長い。


***


 割れた窓硝子を見て、近所の人間は何事かと問うてきたが、酔った彼女が割ってしまったと告げると、それ以上追及してくることはなかった。

 普段の行いほど大事なものはないと思いながら、家の中へと戻る。

 其処では、横になった傷だらけの彼女が涙を流しながら、謝罪の言葉を吐いていた。

 しかし、私の心が動くことはない。

 水分補給のために、彼女の頭部に飲料水をぶちまけた後、私は朝飯の準備を開始する。

 何を期待したのか、彼女は顔を上げたが、米粒一つ食べさせるつもりはない。

 だが、生命を奪うことを考えているわけではなかった。

 何故なら、彼女が死なない程度に苦しめていた中で私が捕らわれたとしても、彼女もまた、私と同罪と化すからだ。

 このときほど、連帯の素晴らしさを感じたことはない。

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連帯 三鹿ショート @mijikashort

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