第19話 解決と……

 書哉ふみやが手にしている数珠が大きくうねる――呪文と共に。

 これは、久道くどう家……いや、正確には処刑人ではない方の、祓い屋としての血筋に代々受け継がれている祓いの呪文だ。

 元々、久道くどう家は祓い屋と処刑人としての顔等持っていなかったという。姓も別であり、二つの血筋が交わり今の苗字を名乗るようになったとか。

 だからこそ、今のような状態になっているわけだが……。


『そう簡単にやれると思うてか!』


 怨霊の力が増大して行く。それ程までの強い怨みに対しても、書哉ふみやに畏れはなかった。

 ただ――。


「こちらも……退くわけには行かないのです」


 書哉ふみや玻璃はりを安全そうな位置に降ろし、静かに威圧感を出す。そこにあるのは、悲しみと自分への怒り。


石神いしがみさんをこんな目に合わせてしまった……僕は! その責任を取らなければならない!)


 怨霊の力と、書哉ふみやの呪文がぶつかり合う。黒いモヤと呪文により生み出された白い光が激しく、入り混じりながら互いを浸食し合って行く。時に黒が濃くなり、時に白が濃くなり……それを繰り返していく中で、遂に白が勝ち、黒いモヤが霧散し怨霊を白い光が包む。


『おのれ……処刑人めがぁぁぁぁ!』


 憎しみの声を残し、怨霊は消え去った。

 周囲を警戒しつつ、恭史郎きょうしろうから万年青おもとを抜けさせる。途端、恭史郎きょうしろうが膝から崩れ落ちる。それを書哉ふみやが支えると、彼は苦笑しながら口を開いた。


「はぁ……疲れた」


烏衣うい……無理をさせてすみません」


「たいした事はしてないさ……。それより、巫女の子の方へ行ってやれよ」


 恭史郎きょうしろうに促され玻璃はりの方へ視線を向ければ、彼女はまだ意識を失っている様子だ。ゆっくりと近づき、彼女をおもむろに抱きかかえると、書哉ふみや恭史郎きょうしろうを気にしつつ、この場を後にした。


 ****


「うぅ……?」


「目が覚めましたか……」


 書哉ふみやの安堵の声で玻璃はりは意識を覚醒させた。上半身を起こし、周囲を見渡す彼女に書哉ふみやが静かな口調で声をかけた。


「事務所です。僕の事がわかりますか?」


「はい……あの、申し訳……」


石神いしがみさん、今まで辛い思いをさせてすみませんでした」


「え……?」


 戸惑う玻璃はりに対し、書哉ふみやが続ける。その声色にはどこか後悔の念が含まれていた。


「僕は、今まで貴女と向き合って来ませんでした。それは、畏れからです。処刑人という……穢れた僕が、共に過ごしていいと思えなかった。いや、清い貴女に触れる事が怖かった。ごめんなさい」


 初めて……素直な書哉ふみやの言葉を聞いた玻璃はりは、気づけば涙を流していた。それは、悲しみではなく……ここにいてもいいのだと赦されたと思えたからだ。

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死霊使いの処刑人、久道書哉の備忘録 河内三比呂 @kawacimihiro

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