第17話 たどり着いた先には

 車を走らせる事、一時間。

 着いた先はうす暗い森の入り口だった。

 不気味な気配とそよ風が吹く。


「流石の俺にもわかるくらいには、嫌な感じがするね……」


 静かに呟く恭史郎きょうしろうに無言で書哉ふみやは頷くと、近くで待機している死霊達に声をかける。


「行きましょう……か?」


 死霊達は頷くと、先導を始めた。その後を書哉ふみや、そして恭史郎きょうしろうが続く。

 歩きながら、恭史郎きょうしろうが声をかける。


「そういや、お前最初は一人で探しに行ったんだろう? その時は死霊達に頼らなかったのか?」


 自分の車で街中を走り回った記憶を辿りながら、書哉ふみやは言葉を返す。そこには不安と……それ以外にもが含まれているようだった。


「その……死霊達の力を使うには、集中力が必要でして……車等、そういう集中が必要になるものを扱いながらでは……」


「なるほど? それで一旦戻って来て、泣き言を言っていたわけかい? しっかりしてくれよな?」


 どこか茶化しつつも、恭史郎きょうしろうの声色は優しく……そして心配そうだった。


(彼には心配をかけすぎですね……。申し訳ないかぎりです)

 

烏衣うい……」


 何かを感じ取ったのだろう、恭史郎きょうしろうが話を遮った。


「あ~辛気臭いのはそろそろやめないか? 巫女の子を探すのが最優先だろう?」


「そう、ですね……。ん? どうしました、紫苑しおん?」


 書哉ふみやの使役する死霊達の一体、紫苑しおんがゆっくりと困惑した様子で口を開いた。


「どうやら、お相手さんは相当厄介な……死霊、いや、怨霊のようさね。怨みの念が、段違いさ……」

 

「怨霊……ですか。僕への怨み……という所でしょう」


(心当たりしかありませんよ……。何せ僕も……罪人なのですから。人を裁く……悪。それが……久道書哉くどうふみやという人間の在り方ですから)


「おい、お前の死霊は何って? 俺には視えも、聞こえもしないんだ。いざという時、困るんだけれど?」


「そうでしたね……。どうやら相手は、怨霊……それも、相当な怨みを持っているんだそうです」


「お前にか……。だからって、なんで巫女の子を誘拐する必要があったんだ?」


「そこは訊いてみないとでしょう……もうすぐ、たどり着きます。烏衣うい、準備はいいですか?」


 問われた恭史郎きょうしろうは無言で頷く。彼は霊を観る事も、感じ取る事も出来ないが……とある特殊体質なのだ。

 ――それは、自分の意志で自分の身体に……霊を宿らせる事ができる能力。

 もっとも、この能力かつ体質はかなり恭史郎きょうしろうの身体に負担がかかる上、自分に害を及ばさないかつ、性別が同じでないと上手く宿らせる事が出来ない。

 そのため、彼がこの体質について話した事があるのは数人だけだ。

 おもむろに、恭史郎きょうしろうが口を開く。


「あぁ、準備は万端だから……万年青おもと八仙花はっせんか、どちらかを俺に宿らせてくれ。その方が、都合がいいだろう?」


「えぇ。では……万年青おもと、お願いします」


 万年青おもとは静かに頷くと、恭史郎きょうしろうの身体に触れる。静かに彼に宿ると万年青おもとの声が響く。


「進むぞ……。あの子を救え。いいな?」


「勿論です。では、いざ……」


 そうして、森の奥へとたどり着いた彼らの目の前に現れたのは、朽ちた廃神社の入り口で邪悪な気を纏った……玻璃はりだった。

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