第15話 別れた後の異変

「さて、俺の話したい事のは終わったわけなんだけども……」


 そう言いながら、恭史郎きょうしろうが紅茶を味わうように一口飲み込む。

 静かな時間だが、それがより書哉ふみやの不安を煽る。


「……残りの五割は、なんなのです?」


「お前自身についてだ」


 紅茶の入ったカップを優しく置くと、恭史郎きょうしろうが真剣な眼差しで書哉ふみやを見つめる。


「僕の、事? ですか?」


「そうだ。お前……ぶっちゃけ訊くが、最近裁く罪人についてどう思う?」


烏衣うい、ここで話す内容では……」


「大丈夫だ。人避けはしてあるさ」


 そう告げられ周りを見れば、確かに人が他にいない。店員達は会話が聞こえない位置にいるようだった。


(これに気づかないとは……僕も相当キていますね)


「で、話を戻すが……最近裁く罪人達……。いや、あえて言おう。このご時世に裏で処刑を行う事についてどう思う?」


「……それ、は……」


 言いよどむ書哉ふみやに対し、恭史郎きょうしろうがはっきりと告げた。


「俺は時代錯誤だと思っている。仕事を持ってきておいてなんだけどさ?」


「……本当にそうですよ」


「ま、俺の戯言ざれごとだけど……いい加減身の振り方くらいは、自分で決めていいんじゃないか? 血筋も、伝統も大事にすべきもんとそうじゃないもんは選り分けないとな?」


 恭史郎きょうしろうの言葉が書哉ふみやの心をえぐる。


「……考えてみますよ……」


「うん。あの子との事も含めて、な?」

 

 恭史郎きょうしろうからのトドメの一言を受けて、書哉ふみやは静かに頷く事しか出来なかった。


 ****


 ようやく事務所に戻った書哉ふみやは、異変にすぐに気が付いた。


石神いしがみさんがいませんね……?)


 時刻を見れば、昼過ぎだった。彼女はあまり外食をするタイプではないという事だけは、さすがの書哉ふみやも把握していた。

 だからこその違和感。


(何が……起こっているのでしょう)


 言いようのない嫌な感覚……不快な感覚が事務所に痕跡として残っている。

 書哉ふみやは死霊達全員を呼び出した。


万年青おもと八仙花はっせんか紫苑しおん雪中花せっちゅうか。お願いします」


 四体の死霊達は無言で頷くと、それぞれ建物全体から玻璃はりの気配、痕跡を探し始めた。

 数分で彼女へのてがかりを見つけたのは……八仙花はっせんかだった。

 彼はいつも以上の神妙な表情で書哉ふみやに伝える。


あるじ様。あの子は……連れていかれたようです。我々と同じ……に」


 その言葉を聞いて、書哉の額に冷や汗が滲む。

 なにせ……今まで、死霊が攻撃してきた事がなかったからだ――。


(誰が、なんの狙いで……? いや、とにかく……彼女を見つけなければ!)


 焦る気持ちを抑えつけ、書哉ふみやは自分が保有する車のエンジンを久々に着ける。

 黒いワゴンが街を走る。

 少女を探して――。

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