第三幕

第13話 翌日、二人の過ごし方は?

 翌日。

 起床した玻璃はりは、ベッドから起き上がり一番に鏡を見る。

 泣き腫らしたのがすぐわかる、顔がはっきりとうつる。


(うわぁ……。我ながら酷いわね……)


 自分が情けなくて仕方なくなり、また涙が溢れてくる。

 それを堪えると、顔を洗うため部屋着に着替えてから自室を出た。


 ****


 朝食も、全てを別々にする事。

 それが、書哉ふみや玻璃はりを傍に置く事へ提示した条件だった。

 故に……二人が仕事以外で関わる事は、ない。

 もっとも、居住スペースには限りがある……のだが、玻璃はりがここに来てから書哉ふみやのプライベートは一切見えないままだ。


(あの人は、どこで食事やお風呂等済ませているのかしら?)


 ふと気になった玻璃だが、考えても無駄と判断し自分の分だけ朝食を用意する事にした。

 小さなキッチンに入ると、食欲の無さもあって、軽く食パンにバターを塗って、トーストにした。

 

 このキッチンも、そして風呂やトイレ、リビングすら玻璃はりに全て自由に使ってよいと書哉ふみやは言い切った。

 初めて来た時から、モデルルームかと思うほどに綺麗であったため、そもそも使用していなかったのだろうと玻璃はりは思っている。


 丸椅子に腰かけ、静かに一人での朝食を摂る。

 昨日のダメージもあってか、食事が楽しくない。

 思考を切り替えようとしても、思い出してしまう。


(……どうして私は、こんなに弱いのかしら……)


 気落ちしながら、無理矢理トーストを食べて行く。

 そうして、食事をなんとか終えた玻璃はりは、自分の部屋に戻り、巫女服へ着替えるのだった。

 

 ****


 その頃。

 既に起きて、身支度を終えていた書哉ふみやは……外に出ていた。

 閑散とした商店街の中で、数少ない開店している一つ、こじんまりとした喫茶店に書哉ふみやはいた。


「今日は元気がないご様子ですわね?」


 声をかけてきたのは、ここの店主だ。

 穏やかな老婦人は、書哉ふみや好みのコーヒーをブレンドしてくれていて、訪れる度に出してくれるのだ。

 それを口に含みながら、書哉ふみやは静かに息を吐き、答える。


「元気がない……というよりも……悩んでいます」

 

「あら? もしかして、それは下宿しているという女の子についてかしら?」


 あっさりと見抜かれて、書哉ふみやは目をまたたかせる。


「ふふ。お年頃の女の子の扱いは難しいものよ。向き合うのも一苦労でしょう。でもね……だからって、目を逸らしてはダメよ?」


「……と、言いますと?」


 穏やかに微笑みながら、店主がさとすように口を開いた。


「見てあげるの。お年頃の子はね? 誰かに認めてもらえる。それだけで、嬉しいものなのよ?」


「……なるほど」


(見る……ですか。確かに僕は……)


 そこまで考えてから、書哉ふみやはコーヒーを飲みつつ、注文していたフレンチトーストをゆっくりと口に運ぶのだった。

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