第12話 それぞれの葛藤

 霊力と霊感。

 字面こそ似ているが、その本質は違う。

 それぞれ解釈が数多あまたあるが、玻璃はりの所属する全国霊能者連合ぜんこくれいのうしゃれんごうにおいての定義はこうだ。


 ――霊力とは、ことわりから外れた者と繋がる力である。


 玻璃はりはその力こそ弱いが、霊感……つまりへの共感力は高い。

 だからこそ、河川敷での怨霊達の念にてられたのだ。


 入浴を終え、自室に戻った玻璃はりはお気に入りのピンクのパジャマを着て、ベッドに横たわる。

 身体の震えは治まったものの、眠気が全くこない。

 自分の無力さを改めて思い知らされた玻璃はりの目には、涙が浮かんでいた。


(悔しい……! 悔しい、悔しい!!)


 あらゆる感情が渦巻く。

 胸に秘めておくには大きすぎて、ただただ泣く事しか出来ない。

 そんな彼女を見つめる視線に気づく事なく――ひたすら泣き続けた。

 

 ****


 同時刻。

 書哉ふみやは珍しく、自室で椅子に座りながら酒を吞んでいた。

 そこまで度数の高くない、安価で量も少ない日本酒をゆっくりと飲む。

 別に味わいたいからではない。

 酒が入りすぎると、仕事に支障をきたしかねないからだ。


「ふぅ……」


 血流が速くなるのを感じながら、息を深く吐く。

 その時だった。


「お前が酒とは珍しいな? ……どうした?」


 若い男性の声が室内に響く。書哉ふみやは視線そのままに、静かに口を開いた。


万年青おもとですか。貴方こそ、珍しいですね? こんな時間に出てくるなんて」


 声をかければ、万年青おもとは少しだけ書哉ふみやの近くに寄ってきた。

 無表情ではあるがはっきりとした意志を持って、万年青おもと書哉ふみやに語りかける。


「……もう少し、あの子を見てやったらどうだ」


「それは……」


「怖いか。まぁ……それもあり方だろうが、女が泣いているのに手を差し出さないのは、納得いかない」


 万年青おもとは、書哉ふみや玻璃はりへの対応に怒っている。

 

「中々痛い所を突きますね……。自分でも自覚していますが……」


 そこで言葉を区切ると、書哉ふみやは手にしていたグラスを口につけ、一口酒を含む。


「……そうまでして、遠ざける意味があるのか?」


「あるから、そうしているのですよ……。彼女は、純粋すぎる」


「……そこから成長するものではないか。俺達と違って、生きているのだから」


 万年青おもとの主張は正論だ。

 だからこそ、書哉ふみやはそれ以上言葉が出てこなかった。


「……言っとくが、お前もだからな? ……生きている限り人は成長できる」


 言いたい事を言えたからなのか、万年青おもとは姿を隠してしまった。

 一人になった書哉ふみやはもう一度酒を口に含もうとして……その手を止める。

 そして、静かに遠くを見つめる。


(僕は……)


 言葉に出せない葛藤を胸にしまい込み、残りの酒を消費するためだけに呑みこむのだった。

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