第9話 怨みの念

(この気配は、なんだってんだ!?)


 今までの怨みの気配とは違う、得たいの知れない感覚に身体を震わせ怯える次盗つぐとりは、懐から拳銃を取り出し、グリップを握りしめる。

 それでも……気配が消える事は


 その時だった。

 若い男の声が響いてきた。


「ふむ。なるほど……把握しました」


 気が付けば、近くに人が立っていた。突然現れたようにも見える、その立ち振る舞いにおのの次盗つぐとりに対し、彼は告げる。


「貴方の罪を裁きに来ました。しかし、僕の代では初めて出会いました。ここまでの怨みを背負い、その上で気配を感じているのに……罪を重ねているとは信じがたいです」


 彼――久道書哉くどうふみやは、怯えて拳銃を向けている次盗つぐとりに向かって静かに声をかける。


「――では、裁きをくだします。お願いします、紫苑しおん


 紫色のウェーブかかった長髪に両目を布で隠し、黒い長袖のフリルワンピースを着た二十代後半の娘が浮かぶように現れた。


「れ、霊!? とうとう視えちまった!? クソが!!」


 威嚇いかくこそすれど、その目は恐怖に染まり、視線は彷徨さまよっている。

 それを認識しながらも、書哉ふみやは冷静に呼び出した死霊……紫苑しおんに指示を出す。


「では……始めましょう」


 紫苑しおんは無言で頷くと、拳銃を向けている次盗つぐとりそばにあっという間に近寄って行く。


「ひぃぃぃっ! 来るなぁぁぁぁ!!」

 

 声を震わせながら叫び、がむしゃらに拳銃のトリガーを引く次盗つぐとり。だが、霊体である紫苑しおんに効くわけもなく、弾は無情に空へ消えていく。

 かたわらに寄った紫苑しおん物憂ものうげな声で囁いた。


「アンタの背負っている怨霊達そいつらの声、もっと聴いてごらんよ?」


 紫苑しおんの声が次盗つぐとりの脳に届いた頃には、彼の視界は暗転していた。


 ****


「うっ……クラクラするぜ……うげぇ……ってひぃぃぃぃ!!」


 悲鳴を上げる次盗つぐとりの周囲に、数多の顔が浮かんでいるからだ。

 霊感が強くなっている彼にとって、怨みの念は恐怖そのものに他ならない。

 次盗つぐとりは、大人げもなく涙を流し、身体を震わせかがめる。

 そうやって自分を守ろうとしないと、とてもではないが耐えられそうになかった。

 だからこそ、恐怖はより濃くなっていく――。


 ****


 紫苑しおんが創り出している空間を外から見つめつつ、書哉ふみやは警戒心を上げる。


「そろそろ……頃合いですかね?」


 書哉ふみやが警戒しているモノ……それは。

 怨霊達の念が溢れ、周囲に影響を及ぼす事だ。


「来ましたね。怨みの念が……空間から漏れ始めています」


 一人口に出しながら、現状を正しく認識し……行動を開始する。

 それは、処刑人としての顔ではなく――死霊を使役する者としての側面。


 怨みの念を――鎮めるのだ。

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