第二幕

第7話 珍しい時間

 飛縄泣得とびなわなえしてから二週間が経った。

 その間、恭史郎きょうしろうが訪れることはなく、平穏な時間が過ぎて行った。

 書哉ふみやは花をで、玻璃はりは事務処理をこなしては自身のプライベートを楽しむ。

 穏やかで平和な時間。

 

 だが恭史郎きょうしろうが言っていた通り、

 法で裁かれる者もいれば、裁かれない者もいるのがこの世の中だ。


 ****


「やぁ、俺だよ」


「あら? 昼過ぎにいつも来て、……今日は珍しく遅い時間ね?」


「そこはドライブと言ってもらいたいところだね? それで、久道くどうは? もう夜ならさすがに花の手入れはしていないだろう?」


 時刻を確認すれば二十一時を過ぎている。確かに恭史郎きょうしろうの言う通り、花の手入れをするような時間ではない。

 かれた玻璃はりは、恭史郎きょうしろうで自室から出て来たためか、不機嫌だ。

 

「そんな顔になるくらいなら、受付嬢ごっこなんてやめればいいのに。どうせ、来る客は俺くらいなもんだろう?」


「……受付と簡単な事務処理くらいしか、ここでやる事がないのよ」


 彼女とて、受付嬢もどきの行為に意味などないとわかっている。だが、それくらいはやらないと、自分がここにいていい理由が記録を残す事……それしかない。


(ただの記録係で終わるのなんて、ごめんだわ)


 玻璃はり書哉ふみやの元へ派遣されているのは、彼女の修行というのが名目だが……実際はただの厄介払いだ。

 彼女は、巫女として末席まっせきであり……その上でのだ。

 ――成長の見込みがない。

 そう判断された時、久道書哉くどうふみやについて全国霊能者連合ぜんこくれいのうしゃれんごう内で議論が出た。


『死霊を使役しての処刑は果たして良いのか?』


 その議論の果てが、記録係という名目の監視をつけ、彼の行動を把握するというものだった。

 そうして、役目を与えられたのが玻璃はりだ。


「……それで? 久道くどうはどこなんだっけ?」


 恭史郎きょうしろうの声で我に返る。玻璃はりは彼に視線をやる事なく、静かに呟いた。

 

「自室じゃないかしらね。気配はわかっているでしょうから、適当なところで待ってたらいいんじゃないの?」


 無礼なのは承知だが、彼に気遣われたことが悔しかったのだ。

 それすらも見越したのだろう。

 恭史郎きょうしろうは少し困った顔をして、頬をかく。


「けっこう急ぎなんだけど……アイツがマイペースなのは、今に始まったことじゃないか」


 諦めたようにいつも通りソファーに座り、本を読み始める恭史郎きょうしろう

 その様子を確認して、自分の事務処理用の席に座った玻璃はりは思う。


書哉ふみや様と付き合いが長そうだけれど、未だにどういう関係なのかわからないわね……)


 くのは自分のプライドが許さなかったため、玻璃はりも静かに雑務をしつつ、書哉ふみやが来るのを待つことにした。

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