第4話 罪の自覚が無い者には

 深夜零時を回った頃。

 コンビニ帰り、鼻歌まじりにスキップをする彼女の表情は、実に晴れ晴れとしていた。

 飛縄泣得とびなわなえ、三十四歳。

 独身である彼女の趣味は……だ。

 まことに悪趣味な泣得なえは、この間横領罪で逮捕された。

 だが、企業にとって話されたら困る情報を沢山握っていた彼女は、それらを口外しないかわりに釈放された。


 罪を逃れられた彼女の足取りは軽い。皺ひとつない、白いブラウスと濃紺のスカートを身に纏うその姿は、一見するとそんな悪行を繰り返してきた人間とは思えないほど、街に馴染んでいた。

 

「あ~……やっぱ、勝ち組だわ~わたし!」


 人のいない公園に入り、ベンチに座ると買ってきた缶チューハイを開ける。

 大きな一口を呑みこみ、つまみの燻製チーズを数個口へ放り込む。


「ん~! 幸せ~!」


 至福の時間。

 だが、それをゆるされるほど……この世の中は甘くない。


 人の気配を感じて、思わず泣得なえは声をあげた。


「驚かせてしまいましたね。飛縄泣得とびなわなえ、貴女の罪をここで裁きましょう」


「はぁ? アンタ誰~? いきなりなに~?」


 酔いの勢いも相まって喧嘩腰になる泣得なえを見ても、突然現れた人物……書哉ふみやの態度は変わらない。

 冷静に、書哉ふみやは再度告げる。


「貴女の事は把握済みです。数多の罪を……その重さに相応しい裁きを今、ここでくだします」


「あ? わたしの罪~? なんの事かしら~?」


 高笑いを浮かべる泣得なえは、書哉ふみやを睨みつける。

 暗がりの中、街灯に照らされた彼の瞳からは、なにも感じ取れなかった。

 その事実に不気味さこそ感じられたが、それでも彼女の酔いに任せた言動は止まらない。


「あのね~? わたしよりもバカで! 愚かで! 下民だからね! あはは!」


「なるほど、情報通りでしたね。ですが、お酒を飲まれているのはなので……貴女には恐怖と共に罰をくだします」


 静かに宣告すると、書哉ふみやは死霊を二体呼び出した。

 一体は白髪の肩までの髪に薄紫色の瞳に、眼帯を左目にした、黒い喪服のスーツを着た三十代後半くらいの男性。

 もう一体は、襟首までの黒髪で両目を髪で隠した、リボンも黒いセーラー服を着た十代後半くらいの少女。

 二体とも、共通して生気なく足元が透けている。


 その二体から発せられる得体の知れないを感じ取り、初めて泣得なえが動揺を見せた。


「な、なによ~!? なんなの!!」


八仙花はっせんか雪中花せっちゅうか。お願いします」


 男性の方、八仙花はっせんかがお辞儀をし、少女の方、雪中花せっちゅうかが静かに頷いた。

 二体は、気づけば泣得なえそばに来ており、怯えを見せた彼女に囁くように口を開いた。


 八仙花はっせんかが優しい声色で囁く。

 

「貴女に罪の数だけの」


 続いて雪中花せっちゅうかが静かに告げる。

 

「……悪夢をあげる」


 二人が泣得なえを囲むように、浮遊し……そして両腕を広げ泣得なえを完全に包囲したと同時に、彼女の意識が遠のいた。

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