第6話 罪を贖う旅
「私は勇者アイクを殺そうとした暗殺者でした」
「ある貴族に育てられ、様々な人を殺しました。
隷属の首輪を着けられていましたが、私が殺人を起こしたことに
間違いはありません。もしかしたらこの中の皆様のご身内にも
手をかけたかもしれません」
レイの発言に対して騒然とする王座の間。
中にはレイの事を睨みつけ、今にも駆け寄ろうとしている所を周りの貴族に止められている者もいる。
「...そなたが仕えていたのはデズモンド子爵か」
「...はい。隷属が解けてから私が殺しました」
レイは自分を買ったデズモンド子爵当主を殺し、魔族と繋がっていた証拠を王城に送り付けていた。それによりデズモンド子爵は取り潰しとなった。
「勇者アイクの暗殺に失敗し、隷属を解いていただきました。
魔王討伐に際し、3人を助けるように同行し、手助けをさせていただきました。
ただそれで私の罪が消えるわけではございません」
レイは頭を深く下げて言葉を紡ぐ。
「私の罪を贖う旅はここでおしまいです
どのような沙汰でもお受けいたします」
「...黙っていることも出来たのではないか?」
暫しの静寂のあと、レイに対してコーレルが問いかける。
レイは頭を下げ続けて動かない。
「...確かにこの事を話さなければ私は報酬を頂き、何不自由のない幸せな生活
を今後送ることが出来たと思います。
ですが私の命はもう自分のものではありません。
勇者アイクに救われて、この世界の人々の為に捧げると誓いました。
魔王が討たれ、私の役目は終わったのです」
「...そうか。
ではレイ。西にあるゴルドー帝国に赴き、その北西にある辺境の地の魔物の調査に
当たれ。そして情報を定期的に我が国に提供せよ」
「それは!!」
カトリーヌが驚きの声を上げる。
何故ならコーレルは遠回しにレイに死ねと告げたからである。
ゴルドー帝国はテレシア王国の西に位置している。
そして、北西にある地は瘴気が異常に強い未開の土地だ。
南東とは比べ物にならない瘴気の量。浄化できる限界を超えているのだ。
北西からの魔物の進軍はないものの、魔物の強さ=瘴気の強さのため、調査が全く
進んでないのが実態であった。
何より強い瘴気は身体に毒である。
北西の地で過ごせば、体を蝕まれ1年ともたないであろう。
「ゴルドー帝国からテレシア王国に対して調査協力の打診が勇者にあった。
だが北東には魔物が残っている状態。それに万が一勇者に何かあってはいけない。
勇者が赴くにしても、調査がもっと進んだ状態でないといけない。
其方は索敵に優れているとカトリーヌが言っていた
その命、後の未来のために使わせてもらう」
「かしこまりました。謹んでお受けします。
陛下の温情に感謝致します」
レイは立ち上がると、コーレルに対して一礼すると、そのまま玉座の間を立ち去るために入口の扉に向かって歩き出す。
「レイ!!!」
カトリーヌがレイの前に両手を広げて立ちはだかる。
「貴女、死ぬわよ!それも瘴気で苦しみがら!嫌よ私そんなの!!!」
「カトリーヌ様...」
悲痛な表情で引き留めようとするカトリーヌをレイが正面から抱きしめる。
「たくさんの優しさをありがとうございました。 お元気で」
一言だけ耳元で囁くと、その脇を通り過ぎた。
「ガルツ様、奥方とお幸せに」
「...」
「アイク様、私を救っていただきありがとうございました。
貴方は私にとっても勇者様でした」
「...元気で」
レイはアイクとガルツの間を抜けると、入口の扉を通り外に出た。
レイが外に出ると、扉は静かに閉まった。
愛され暗殺者 ~幸せに至る後日談~ @linne5key
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