第5話 追憶

レイside



私は生まれもわからない孤児でした。


その日その日を生きるためにゴミ箱を漁り、時には盗みを働く日々。


いつ死ぬかわからない毎日を過ごしていました。


毎日お腹が空いて、時には腹いせに知らない人に殴られ、生きている意味なんてなくて、これ以上の地獄なんてないんじゃないかと思っていました。


...10歳になる頃、ある日人攫いにあって奴隷になりました。


やせ細っている私を買う人なんていないと思ってましたが、私はある貴族に買われました。


どんな酷いことをされて死ぬんだろうか。


でもなぜでしょうか。その貴族は私にご飯を与え、寝床を与えてくれました。


疑心暗鬼に陥りましたが、ご飯が本当に美味しくて私は毎日与えられるご飯を食べました。


そのうち、いい貴族もいるんだなって、都合よく思っていました。


本当に都合よく。







1カ月くらい経って、毎日ご飯を食べた私はガリガリだったのが肉が付き、健康的な体になっていました。


そしてここから地獄が始まりました。


その貴族は毎日私に鞭を打ち、殴り、蹴るの暴行を加えました。


健康的な体にして、精神的にも回復させてからたっぷり痛めつけるのがその貴族の

趣味でした。


私は豚みたいに肥えさせられ、食べごろで駆られる家畜でした。


最初は抵抗し、悲鳴をあげていた私。1週間が経つ頃には声も出なくなっていました。


必要最低限に生かされ、1カ月経つ頃にはボロ雑巾みたいになっていました。


ただ、何故か貴族は私をその後生かし、暗殺者として育て始めました。


本当なら2週間で私は殺されるはずだったのが1カ月経っても死ななかった。

体が常人より丈夫だったのが理由みたいです。






それから3年、暗殺者として育てられ、様々な人を殺しました。


隷属の首輪を着けられ、呪いが掛かっていたため自由がなく、抵抗することは出来ませんでした。


まるで勝手に動く自分を中から見ているような感じでした。


私が殺した貴族はきっと良い貴族が多かったと思います。


私を買った貴族は魔王の配下と繋がりあったみたいで、邪魔になる勢力を内側から崩す役目もしていたのだと思います。


そして、ついに勇者の暗殺が命じられたのです。






「あれが勇者アイク...」


勇者は人がよさそうな好青年。弱きを助ける理想の勇者。


寝ている時を襲うのが最適解。ただ殺すだけ。






暗殺は失敗した。

寝ている勇者アイクに振りかざした刃は防がれ、一撃の元に気絶させられた。


起きた時には勇者パーティの3人が揃っていった。


「アイクどうするのよ」


「隷属の首輪が付いている。これを外して話を聞き出したい」


「はあ!?何考えてんだよ!」


「何か事情があるはずだ。こんな小さい女の子がこんなこと」


「あなたお人好しも度が過ぎるわよ」


「責任は俺が取るよ」


勇者アイクの手が光る。


すると私の首に付いていた隷属の首輪が地面に落ちた。

頭の中がクリアになり、沈んでいた意識が浮上してくる。

今まで犯してきた罪が脳裏を駆け巡る。


「お願い!! 殺して!!!」


反射で出た言葉だった。


「殺して!!!!」


「殺さないよ」


「なんで!!!  殺してよ!!!!」


「どうして?」


「だって...私は罪のない人をたくさん...」


「話を聞かせてくれないかい?」


勇者アイクが私の背中をあやす様に優しく撫でながら聞いてくる。

酷く落ち着く。

私は自然と過去を話し始めた。


それを勇者アイクは静かに聞いていてくれた。


全てを聞き終えてから勇者アイクは立ち上がり、私に向かって手を伸ばす。


「世界を救ってみないか?」


「えっ?」


「今死んでも何にもならない。ならその命を世界の希望に繋げてみないか?

 俺は魔王を討伐する。人々の笑顔のために。もし自分の罪を後悔しているのなら

 一緒にこないか?そのあとどうするか考えればいい」


「わたしは...」


どうすればいいかわからない。

すぐ死んだほうがいい。

そう思う気持ちもある。

だけど...





私はその手をとった。

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