第10話:事実は小説よりも奇なり




 茫然とシャーロットを眺めていたフレドリックの肩が急に引かれた。

 その力のあまりの強さにフレドリックは体勢を崩したが、辛うじて足を踏ん張り、無様に倒れる事は無かった。

 焦りを怒りに変えて睨みを利かせながら振り返ったフレドリックだったが、肩を掴んだ相手を確認して表情を緩めた。


「父上……」

 フレドリックの視線の先に居たのは、フレドリックの父である前ヘイゼル公爵だった。

 その横にはフレドリックと5才しか違わない前公爵夫人がいる。

「私の母を追い出して後妻に収まった恥知らずを連れて公の場に……」

 侮蔑の視線を向けるフレドリックに、前公爵が冷たい視線を返す。


「話がある。付いて来い」

 有無を言わせぬ父親の態度に、フレドリックは大人しく従う。

 会場を出る前に、幸せに笑うシャーロットを目に焼き付けた。




「お前の子供には、ヘイゼル公爵家は継がせない」

 夜会会場脇に用意された公爵家専用の休憩室で、席に座るやいなや前公爵が話を始める。

 いきなりの宣言に、フレドリックは戸惑いを隠せない。

 それはそうだろう。

「では、誰が公爵家を継ぐのですか?」

 震える声でフレドリックが問い掛けると、待っていたとばかりに前ヘイゼル公爵はわらう。


「高貴な血を持つお前の異母弟おとうとだ!」

 ハッハッハッと声を上げながら、隣に座る妻の腰を抱く前公爵の目は笑っていない。

「その後妻が産んだ子を後継者に?え?高貴な血?」

 フレドリックの母親は、フレドリックが物心がつく前に儚くなっていた。そしていつの間にか、この後妻が公爵家に入り込んでいたのだ。

 高貴な血どころか、年の離れた男に侍る阿婆擦れアバズレとして軽蔑の対象ですらあった。


「何を勘違いしているか知らんが、このメイベルは最初から正妻だ」

 まるで劇俳優のように、前公爵が大袈裟に身振り手振りを混じえて説明をする。

「は?」

 口を開けて呆けるフレドリックを気にせず、前公爵は話を続ける。


「メイベルは隣国の王女だ。生まれた時から私の婚約者で、わずか3才で妻になったのだ。まあ、実際に夫婦関係になったのは、メイベルが16になってからだがな」

 フレドリックの顔色が徐々に悪くなっていく。

「では、私の母は……?」

「お前の母などたかが子爵家出の第二夫人でしかない」

 侮蔑を隠しもしない父親の姿に、自分の姿が重なる。


「お前の第二夫人だった女の父は、私の学友でな。姉の嫁ぎ先の行き遅れ小姑が邪魔だと言うから、第二夫人に迎えてやったのだ。まさかお前を産んだら正妻の座を狙って、メイベルに毒を盛る程のとは思わなかった」

 フレドリックの実母は行き遅れの子爵令嬢で、わずか5才の正妻を亡き者にしようと毒を使い、人知れず処理されたのだろう。

 その大きな借りがあったから、マンロー子爵はダーシーを第二夫人に差し出したと思われる。



「毒の影響でずっと子供が出来なかったのだが、お前の結婚後1年位で妊娠してな。今年2才になる」

「だから私に公爵を譲り……」

 フレドリックの声はかすれ、唇は震えている。

「エッジワース公爵令嬢が子を産んでいれば、まだ状況は違ったのだがな」

 暗にダーシーの産んだ子では爵位を継がせられない無いと言っている。いや、先に宣言されていたか。


「お前も良かっただろう?いやしき血が2代も続いたら、高貴なる公爵家の血が薄まってしまう」


 フレドリックは、何も言えずに、表情を動かす事も出来ずに、微動だにせず、豪華で座り心地の良いソファに、夜会が終わるまでただ静かに座っていた。




 終

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

シリアスな文面だけどコメディを目指していたのですが……

あれ?ざまぁパートが思ったより酷いな。

ダークコメディならOK?


前公爵と正妻の年の差は18

前公爵21正妻3毒婦23(結婚年齢)

前公爵46正妻28フレ23異母弟2(現在)

フレ・シャ・ダは全員同い年です


次作は、ガッツリざまぁです。

むしろざまぁが主です。

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後悔は、役に立たない 仲村 嘉高 @y_nakamura

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