第25話 久しぶりに揃った家族

 俊吾らに会えない寂しさから皇居を抜け出して城西学園へとやってきた天皇陛下の美菜。

 宮内庁と政府に対して"家族が皇居に気軽に来れないなら天皇を辞める"という我儘な圧力をかけた美菜に、俊吾達は美菜を責めてしまった。

 それにより堪えていた感情が爆発してしまった美菜は心に溜め込んできた"家族に会えない寂しさ"を俊吾達に分かって欲しい……と、涙ながらに訴え、大泣きする。

 美菜がどんな思いで皇居を抜け出してまで俊吾達に会いに来たのかを考えずに責めてしまったことを後悔し、俊吾達は美菜に謝る。

 だがそれでも美菜は泣き止まなかった……いや、寧ろ更に悪化してしまう。

 それだけ美菜が溜め込んできた"家族に気軽に会いたい"という思いが強すぎた、という現れでもあった。

 だからこそ俊吾達に責められた美菜は深いショックを受け、泣き出してしまったのである。


 そんな母の泣く姿をこれ以上見ていられなくなった俊吾は、強く…強く美菜を抱きしめながら言う。


「……申し訳ありません……母上……。

 私は何も分かっていませんでした。

 天皇として僕ら子供達と離され、皇居で1人寂しく孤独に暮らさねばならない母上の気持ちに…。

 心の奥底に溜め込んできたその思いに…。

 母上がどんな気持ちで皇居を抜け出してまで僕ら子供達に会いに来たのかも考えず……私は母上を傷つけてしまったのですね…。

 いえ……この場にいる私達全員が、ですね。


 母上を責め、泣かせてしまったことに……私は今更後悔しています。

 心の底から謝ります……本当にごめんなさい!!


 ……そしてこれだけは母上にも分かっていて欲しいです。

 私や兄上、朱璃だって本当は一緒に母上と共に暮らしていたいんですよ!!

 母上が寂しいように、私達だって寂しいと思っていることを!!


 だから本当に…本当に……ごべんなざい…母上……」


 言っている途中から後悔の念が押し寄せてきて泣きそうになりながらもなんとか堪え、母上に僕がいま思っている気持ちをありのままに伝えた。

 だけど最後にもう一度だけ謝る時になって、僕はもう目から涙が止まらない状態で泣き声になっていた。

 だがそんな状態の僕を…母上は目に涙を溜めながらも優しく微笑みながらそっと抱き締め返してきた。

 そして涙でぐちゃぐちゃになってしまっているであろう僕の顔を見ながら言う。


「もう十分よ、俊吾。

 あなたが今思っている正直な気持ち、私を傷つけ泣かせてしまったことに対して後悔しているその気持ちは……ちゃんと私に届いているから。


 私だけでなく俊吾達も会えない寂しさを抱いている、ということが痛いほどに伝わってきたわ。


 天皇として家族と離れ離れで暮らさなねばならない、1人寂しい孤独な皇居生活に私は耐えきれなかった…。

 大人として、天皇として耐え抜かなければならない筈なのに…。

 夫を亡くした寂しさもあったのかもしれない…。


 それも相まって、私は宮内庁と政府に圧力をかけてまでも俊吾達に会いたかった……という気持ちを抑えられなかったのよ。

 そしてその感情をコントロールすることが出来なくなってしまっていたの。


 だから私も謝らせてね…。

 俊吾、俊介、それから朱璃ちゃん……私の方こそ今まで寂しい思いをさせてしまってごめんなさい。

 こんな我儘な母を……どうか許し下さい」


「母上…」「母さん…」「お母さん…」「美菜…」


 母上のその最後の言葉に、いつの間にかいた朱璃を含めた僕ら4人は母を優しく抱きしめていた。

 そして久しぶりに揃った家族全員で泣くのであった。



 そんな泣きながら抱きしめ合う俊吾達の姿を……天皇である美菜を連れ戻しに来ていた志田しだ 瑞希みずきは空気を読んで見守ることにした。


「説得役に朱璃様をお連れしましたが……この空気に割って入るわけにはいきませんね。

 家族全員が揃ったこの状況で美菜様を連れ戻すことなど……私には到底出来ません。

 それに美菜様の気持ちを聞いてしまった今となっては尚更、です」


 瑞希のこの独り言に対し、瑞希と同じく黙って見守っていた詩織が口を開く。


「正に瑞希さんの仰る通りかと思います」


 独り言を聞かれているとは思っていなかった瑞希は一瞬だけビックリするが、直ぐに返答する。


「お久しぶりです、詩織様。

 私の独り言が聞こえていたとは思いませんでしたので、一瞬だけビックリしてしまいました」


「こちらこそお久しぶりです、瑞希さん。

 聞こえてきたので、つい反応してしまいました」


「小声で言っていたつもりでしたが……聞こえてしまっていたようですね」


「はい、ハッキリと聞こえていましたね。

 地獄耳ですので、バッチリと聞こえましたね」


「……それは迂闊なことは言えませんね」


 そんな短いやり取りをした後、詩織と瑞希は再び口を閉ざして俊吾達を見守り始める。

 そして瑞希のことを知らない沙苗は「詩織と親しげに話していたこの人は誰?」という疑問を抱きながらも、黙って俊吾達を見守り続けるのであった───



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【再連載】大財閥会長兼現役高校生の俺、家出した学年一美少女クラスメイトと同棲生活を始めました! ~俺の心臓が持たないので場所問わずに抱きつくのは勘弁して下さい!~ 刹那の紫苑 @setunanoshion

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