二百六十六話 一枚岩ならず

江東の孫策も豫章の呂布も交州の劉備も中原の情報に疎く、曹昂が許昌の軍を招集してからその知らせを受けた


中原の情報が遅れて伝わるのに理由もある

一つは長江が隔ているため、もう一つは金銭的な問題である

この時代では北の方が南の方より裕福で諜報員や斥候を養うのにお金が大量に必要


長江の南に位置する諸侯たちは曹操と比べれば貧乏としか言えない

孫策はまだ少しマシだが呂布に至っては一郡しか持っていない、一郡の地で兵馬を養うだけでも精一杯だった


しかし中原の情報に疎いと言っても長江の上での出来事はすぐにわかる


曹操が十九万の水軍を夏口に駐屯させた情報はすぐ伝わり

先に情報を受けた孫策はすぐに呂布と劉備に遣いを出した


本来ならこのような同盟が出兵する時はその前に議論が必要だが三勢力がそれぞれ遠く離れており、状況も緊急なので赤壁で集合してから議論をする事にした


同盟に賛同した呂布は曹性、宋憲と共に一万五千の兵を連れて赤壁に向かった


しかし劉備の出方は孫策と呂布の予想の斜め上を行った

劉備軍から出されたのは諸葛亮一人のみ


赤壁の軍営、本陣の中央軍帳内

三勢力会談を取り仕切るのは孫策、その隣には周瑜と碧眼紫髭の孫権

左側に座るのは呂布、その隣には宋憲と曹性

右側に座るのは諸葛亮、その隣にはただの書童とただの書童


程普、黄蓋、韓当等の江東虎将は列に並んでいる


「諸君、曹操の水軍が夏口で集結した!戦いはいつ起きてもおかしくない!今日から我々は力を合わせ、光栄も屈辱も共にし、心を一つにしなければ曹操に抵抗できない!ここでは昔の因縁を捨て協力しよう!」


孫策は覇主の風格を持ち、先の発言は全員に言ったように聞こえたが実は呂布に向けて話した物

もちろんこれも主権を誇示した物である


ここ数年間に彼らの間は数々の戦をして、お互い数多くの血を流した

このような因縁は同盟の一言で簡単に片付けられる物では無い


なので呂布は孫策を見向きもせずに泰然と前を見ていた


呂布の力は三勢力の中で最弱、それでも彼は孫策を盟主として認めなかった


俺が虎牢関で奮戦していた時お前の親父すら首を引っこめていたのに今は俺を顎で使えると思うなよ!


呂布がそう思っていると諸葛亮が先にこの気まずい空気を打破した

「呉侯ご安心を!今日ここで集まった我々はきっと力を合わせて曹操に立ち向かうでしょう!」


黙っていれば無難にやり過ごせた諸葛亮が口を開けば恰好の的になった

先まで呂布を睨んでいた江東の虎将たちが一気に彼を注目した


古株である程普が前に出て口を開いた

「主公、疑問が一つあります」


「どうぞ」


叔父に当たる程普に対して孫策は敬意を表した


「今日は三勢力の同盟だと聞いたが、我々江東の水軍五万が集結し、各郡も節約して十数万の兵糧を何とか捻り出した。温侯も一郡の地ながらも一万余りの兵と三万の兵糧を総数提供した。しかし劉皇叔は自ら来ず、兵も出さず、兵糧も提供しない。若輩の臥龍先生だけを差し向けた、これはどういうつもりですかね?」


「俺も同じ疑問を持ってる」

程普の後ろに立つ黄蓋も鼻で笑い諸葛亮を見た

「噂によれば劉皇叔は蒼梧に居る呉巨から兵を借りたと聞いてる、今の呉巨は交州四郡を統一したので数万の兵を出せるはずだ。なのにお前一人で来たのはどういうつもりだ?まさか同盟と言っても実際に戦うのは孫呂両家だけで劉備が漁夫の利を得るという事か?」


孫策の口角がピクっとして諸葛亮の味方をするつもりもなかった

劉備のやり方に孫策も少なからず不快に思った


曹操の水軍が動いた後江東の氏族たちが皆怯え、投降するように孫策に進言したが孫策はそれらを逐一押さえ付け、やっと兵糧を掻き集められた

劉備が来ないのを見て孫策は誠意がないと受け取るしかない


この一幕を予知した諸葛亮は慌てずゆっくり羽扇を振った

「この度の戦いは水軍が決め手、交州には歩兵しか居ませんので使い所がない。我が主は再三の考慮を経て平楽に兵を駐屯させた。平楽から零陵を牽制し、状況に応じて灕水を渡り荊州を叩く、首尾から挟み撃ちに遭えば曹操も混乱するでしょう!」


「へぇ〜なるほどね」

程普は依然と蔑んだ顔で諸葛亮を見ていた

「温侯の部曲も歩兵と騎兵だ、臥龍先生の言い分だと彼もここに来る必要がないだろ?」


諸葛亮の舌戦も優秀なので当然余裕そうにしている

「否、先程も言ったが水戦では江東の水軍を頼りにする。しかし荊州水軍を突破してからは追撃が必要です。その時には温侯の騎兵が頼りです。当然その時には我々も平楽から零陵に入り、曹操の西への逃げ道を封鎖します!山に虎を逃すのは危険ですので!」


程普と黄蓋は口下手なので何も言い返せない、二人ともムカついて顔を真っ赤にした


孫策の隣に立つ周瑜は諸葛亮を一目見て鼻で笑った

周瑜の諸葛亮に対する印象は、二つ名の聞こえが良くてもその実力は大した事がない


盟主の孫策も諸葛亮を少し軽蔑した


諸葛亮も空気を読んで補足した

「確かに徳謀将軍の言う通り兵馬と兵糧を用意してませんが我々も身一つだけでは無い」


「何を持って来た?」

孫策は少し不思議そうに聞いた

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