二百六十三話 事態の終息
伏皇后の怯えた表情は典黙に自責の気持ちを強くさせた
初めて彼女と会って以来伏皇后の印象はずっと芯が強い女性だった
しかしその芯の強い女性も今日はまるで怯えた子羊のようになっている
これら全てが自分に関係している、典黙は慰めの言葉すら見つからず、ただ単に伏皇后を抱き締めて背中を摩った
この無言な慰めが不安な心を安定させた
伏皇后は典黙の肩で泣き出し典黙も心を痛めた
劉協の誤解も暴力も伏皇后を泣かす事はできなかった
妊娠が発覚して、日々の恐怖も伏皇后を泣かす事ができなかった
しかし典黙の優しさが彼女を泣かせた
しばらくして泣き止んだ伏皇后に典黙は優しく語りかけた
「もう皇宮に戻らなくても良い、伏府に戻るか典府に残るか。僕らの子が産まれる前に母親と怯えるのは嫌だからな」
曹操の典黙に対する態度を見た伏皇后は内心の暗闇を照らされ安心したのか、自ら進んで典黙の口角に口付けした
簡単な接触でも鼓動を速めるのに充分だった
「皇后様?お身体に悪いよ?」
先まで泣いていた伏皇后はプッと笑い、典黙の胸倉を叩いた
「医官に止められてるでしょ?」
伏皇后は顔を少し赤く染めた
「医官に止められたわけじゃないが、あまり頻繁に行わないようにと注意された」
典黙はドキッとして伏皇后をお姫様抱っこしてニヤニヤした
「頻繁って何回でしょうね?」
「早く降ろしてよ」
伏皇后は典黙の腕から降りて帯を解き、鳳袍内の風景が典黙の気血を熱くした
薄暗い蝋燭に照らされ、見えそうで見えない高嶺が典黙の心をくすぐった
コスプレではない!本当の制服誘惑だ!
「いつ、一度だけだよ」
伏皇后は下唇を噛み、顔が鳳袍よりも赤くなった
「ご褒美ありがとうございます!」
典黙は拱手して伏皇后を抱き上げて寝台に向かった
金鳳玉露一相逢、便勝却人間無数
完全に安心したからか、細い道は洪水氾濫し、小舟でなければ先へ進められない
劉協は朝議にも顔を出さずに数日が経った、彼は曹操の情報を待ち侘びている
そしてこの日に曹操が典韋を連れて劉協に会いに向かった
「陛下」
曹操と典韋は一応宮廷の礼をした
「無用だ、結果を教えてくれ」
劉協は急いで二人を起こした
ここ数日伏皇后に対する憎しみが曹操に対する憎しみを超えた
「陛下、皇后様と通奸する間男を既に捕らえました。伏家の下男です、昨夜に車裂きの刑に処しました」
曹操は淡々と適当な事を口にした
「下男だと?」
曹操の話は確かに信憑性に欠けた
「伏寿の目は節穴か?下男になど惚れる訳が無いだろう!」
長年の夫婦関係で劉協もある程度伏皇后を理解していた
普通の下男が伏皇后を口説ける訳もない、口説ける人が居るとすればその男は間違いなく天下無双
「恋愛に関して余もよくわからない、皇后様も盲目になったかもしれません」
曹操は依然と適当にはぐらかした
曹操の態度を見れば真犯人を見つけ出す事が出来ないと理解した劉協は再び矛先を伏皇后に向けた
「あの下賎な女はどうした?生かしているのか?」
「陛下、皇后様は国母であり、殺すにはそれ相応な罪状が必要です。しかしこの事を天下に知られてはいけません。もう少し様子を見よう」
劉協は曹操の対応を見て混乱した
どういう事だ?いつも人を殺すのに瞬きもしない曹操が道徳を守らない伏寿を庇う?
内乱の時に董貴妃を朕の目の前で絞殺したのに!
董貴妃を思い出して更に不満を強くした劉協は拳を握り締め曹操を睨みつけた
「愛卿は人に罪名を押し付けるのは得意だろう?朕はあの女を殺したい、できないのか?」
「陛下がどうしてか弱い皇后をそこまで憎いのかがわからない、殺すまでする必要ないかと」
「どこぞのクズの子を孕んだんだ!殺すのに充分な理由だろう!」
劉協が叫び、曹操は鼻で笑う
しかし隣に居る典韋が"何処ぞのクズ"と聞いてイラッとした
いつも口より先に手が出る典韋は珍しく口を開いた
「陛下、誰の子とか、そんな事どうで良いじゃねぇか」
劉協は驚きのあまりに目を見開き、信じられない顔をした
どうでも良くないだろ!何言ってんだコイツ!
隣の曹操も思わず典韋を一目見た
子盛よ、何を言い出すんだ?
二人に見られて少し気まずくなった典韋は拱手して身を引いた
劉協は頭がクラクラして崩れ落ちた
「陛下、典将軍の言葉も一理ある。お身体をお大事になさってください」
曹操も劉協を起こさずに淡々と話して外へ出た
外へ出ると曹操は典韋の言い分が気になった
「子盛、先の屁理屈は子寂に教わったのか?」
「いやっ、前に街中をフラフラ歩いてると一人の少婦が旦那さんに追われて笮融の所に着いてよ、笮融はその言葉で男を慰めた」
「大鴻臚の考える事は理解に苦しむなぁ…」
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