二百六十一話 呆れた曹操

曹操は間男を探すのに全力を注ぐと決めた


天子の威厳が軽んじられた事は気にならないが

自分の威厳を貶される事は許せなかった


しかしこの不祥事自体が他の人に知られてはいけない、既に運悪く王越の巡回で二名の宮女が始末された


曹操劉協の寝宮から出ると典韋に命令を出した

「子盛、この事は他の人には任せられない。君と仲康で伏府を見張ってくれるか」


「はい」

典韋は既に車騎大将軍になっても曹操の命令があれば斥候の仕事も喜んで引き受ける


二十二将は既に各自の持ち場に戻った、許昌城内では曹操の最も信頼できる武将は虎賁双雄だった


「見張るのは夜だけで良い、昼間に密会できる度胸があるとは思えない」


「はい!」


その日の夜典韋は許褚を連れて伏府の外で見張りを始めた


二人は真冬の寒さに対抗するために干し肉と酒を準備し、冷たい冬風の中でじっと待ち続けた


やがて十日が過ぎても伏府は依然と反応無し

したし外に居るのは曹操の最も忠実な狩人、この二人は曹操の命令があればいつまでも待ち続けられる


伏府内、伏皇后は少し膨らんだお腹を摩り涙を浮かべた

彼女は自決する事も考えたが典黙がこの子の存在すら知らないと思うと涙が溢れそうになる


典黙はこの子の存在を知る権利がある!

覚悟を決めた伏皇后は立ち上がり、衣掛けに向かった


変装用の民服を見て鳳袍を脱ぎ去る前に典黙の言葉を思い出した


「最後になるかもしれないからその願いを聞き入れよう…」


最終的に伏皇后は鳳袍の上に民服を着て伏府を出て典府へ向かった


「おいっ、出て来たぞ」

二人は交代で睡眠を取っていたので、許褚は隣で寝ている典韋を足蹴して起こしたあと二人は伏皇后の跡をつけた


「あれっ、俺ん家の近くじゃねぇ?間男はこの近くに住んでるのか?」

典韋が不思議そうに思っているうちに伏皇后は典府の門を叩き、門が開いた後に中へ入って行った


「子盛、こりゃダメだよ」

許褚は首を横に振りながら腰の剣に肘を掛けてニヤニヤした

「ごめんね、魏王の命令もあるし、お前の凶器没収させてもらうぜ?」


「アホかっ!」

典韋は目を赤くして許褚を怒鳴った

「ここが俺ん家だ、俺じゃなければ残りは誰だ!」


「しっ、子寂か?」

許褚は大きく息を吸い込んで先までニヤけていた顔が一気に真っ青になった

「どっ…どうしよう…今回魏王は相当お怒りだぜ?」


「あぁ!しかも魏王を騙す真似はできねぇ…」


「なぁ、子寂は数々の武勲を建てたし俺らも許しを乞えば何とかなるじゃないか?」


「そうだな、いくらなんでも魏王が弟に手を出すとは考えられない!子龍も呼んで三人で行こう!」


「そうだな!」

二人は急いで趙府へ向かった


最初から事情を全て知っていた趙雲は少し自責の念を抱いたのですぐに二人に着いて行った


三人の心配は大袈裟ではなく必要な心配である


伏皇后が妊娠し、龍血ではなく典黙の子

これはかつてない程の大問題になってしまう


朝廷内の帝党派閥が一掃されたとは言え、天下の多くの人は依然と漢王朝に支配されているので多くの士族は未だ漢室の味方である


三人が曹操の前に並んで跪くと曹操もポカーンとしていた


「なんだって!伏寿の子は子寂の?」


「いやっ、わからない…皇后様が俺ん家に入った。弟以外に他の男は居ない」

典韋は素直に話した


子寂、あの小僧が…?

曹操は王府内で右左と練り歩いた

なんで?いつ?子寂が伏寿とどんな繋がりがある?いやっそんな事よりもこの後の尻拭いだ!


他の人なら曹操は迷いなく九族皆殺しにしていたが典黙ならそうもいかない


「小僧!あの小僧はなかなか…」

見込みがあるな!人妻は良いとは言ったがまさか君が伏寿を孕ませるとは思わなかったぞ!


「もう良い、三人とも立て!」

混乱した曹操は手を振り三人を立ち上がらせた

「お前ら以外にこの事を知ってる人は居るか?」


三人とも首を横に振った


「子龍、もう一度調べろ。知っている人がいるなら誰だろうと生かすな!」


「はい」

趙雲が拱手してすぐ外へ出た


典黙を庇う曹操の反応を見れば典韋と許褚もやっと安心した


三人とも安心したところで曹操は一瞬不安な念を抱いた

「典府へ行くぞ!」

曹操は鎧を身につけながら話した


「どっ、どうしたんですか魏王?」

典韋がすかさずに曹操の前に立ちはだかり、曹操に押し退けられた


「聞こえなかったか!典府へ行く!今!すぐにだ!王師、巡防営を連れて典府を囲め!誰の出入りも許すな!」


「はい!」

王越は命令を受けて外へ走った


先まで安心していた三人はもう一度緊張し始めたが曹操の勢いを止めることもできないので曹操のあとをついて行った


典府に着くと既に巡防営が典府を囲んでいた


曹操は腰に差す倚天剣の柄を肘掛け代わりに肘を掛けて顎で門を指すと王越が門を叩いた


門を開くために来た甄宓はその場で固まり少し怯えた


「お前らは外で待っていろ、余の命令がなければ出入りする奴は斬り捨てろ」

曹操はその言葉を吐き捨てると中へ入ろうとした


遂に典韋が我慢できずに前へ出て来た

「魏王、弟はまだ若いので事の重大さを知らなかった!罪を問うなら俺にして!」


「お前は引っ込んでろ」

曹操はため息をついてから典韋の耳元で何かを話したあとその肩を叩いた

「誰の出入りも許すな、良いか?」


「はい!俺らが居る限り誰も出入りできねぇ!」

典韋は同じように前に出た趙雲と許褚を引き止めてか返事をした


曹操は頷いてから一人で典府へ入った

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