二百四十七話 突入

連絡係に任命された臧覇が主力部隊から戻った時連れて来たのは陥陣営だけではなかった

「軍師殿に報告したら虎賁営と龍驤営もくれた」


皆はこの結果には驚かなかった

彼らは数日の戦いを経て匈奴人の個々の戦力は低くないと理解した


しかし突撃と撤退しか知らない匈奴を陣形で叩くのは簡単な事だった

正直虎賁営と龍驤営がなくても陥陣営だけでこの八千人の部落を落とすのには充分だった


「子寂は敵の殲滅を期待しているからでしょうね…」

趙雲は頷いて話した


「人数が多ければ多いほど逃す敵も減るだろう!で、どこに居る?」

黄忠が話終わると臧覇を見た


「八里離れた場所で待機させている、近すぎると勘づかれるかもしれん」


張遼が少し頭を出して部落を見てみると多くの篝火は既に消されていた

「主力部隊を任されたなら最善を尽くそう!」


趙雲が頷いて木の枝で地面に丸を描いて話した

「子盛、儁義!二人は二千五百の虎賁営を率い西側から突入して。仲康、祐維!残りの二千五百虎賁営を率いて東から突入だ!」


そしてそのまま描いた丸をなぞるように話を続けた

「漢昇、仲業は龍驤営を広げ外部で逃げ出す匈奴を一人残さず射殺だ!残りは僕と正面から陥陣営と共に突入し、陥陣営を五人一組で展開させよう!不明な点はあるか?」


「問題ない!」


「では始めよう!」


大草原の夜は中原と比べられないほど静か、偶に梟の鳴き声や虫の羽音、風の音以外に何も聞こえない


しかし暴風の前の静かさも長くは持たなかった


「殺!」


趙雲の一声を合図に背後の十五将と共に陥陣営も全力で駆け出した


当直の匈奴守衛が馬蹄の喧騒に気づいて、弱い月の光を頼りにこの騎兵隊の輪廓が薄ら見えた


河套平原では匈奴人同士の争いもあるため彼らはこの騎兵隊を漢人だと思わなかった


戦闘を備える角笛が鳴らされた直後、一番先頭に立つ趙雲が竜胆亮銀槍で入口付近に居る匈奴守衛二名の喉元を貫いた


騎兵たちが雪崩のように部落へ流れ込み、角笛を聞いた匈奴人が続々と曲剣を手に営帳から出て来た

しかし彼らの多くは自分の馬を見つける前に張遼に首を切られた


やがて部落の奥から戦いの準備を整えた匈奴人が集り、抵抗し始めた


しかし陥陣営の集団戦法の前ではこの匈奴の部隊は列単位で命を落としていった

陥陣営のような精鋭部隊を前にすれば訓練された軍すらも太刀打ちできないのに集団戦法を知らない匈奴が抵抗できるはずもない


「人数はそんなに多くない!数で…」

話が終わる前に一本の鳳翼金戟が真っ直ぐ彼の胸元に風穴を空けた


典韋と張郃、許褚と張繍も両翼から戦闘に入った


陥陣営を包囲するつもりでいる匈奴がたちまち混乱して包囲された


匈奴の騎術だけで言うなら虎賁営と肩を並べるのものだが集団戦法を知らないので大した戦力を持たない

日々の調練や数々の修羅場を潜り抜けた虎賁営は既に陥陣営のように集団戦法を極め、五人一組で攻守一体


陥陣営の集団戦法と二十二騎の武勇を前にした匈奴兵たちは一方的に屠られ、偶には二三百で突撃を仕掛けても有効な手段とは言えずどうしても陥陣営と虎賁営の包囲網を突破できない


そして接近戦に持ち込まれた彼らは得意の弓を使うこともできない


「魔鬼だ!コイツらは魔鬼だ!逃げよう!」

わずかな時間で混乱した匈奴兵は散らばり逃げ出した

しかし柵を飛び越えた彼らを待っているのは逃げ道ではなく龍驤営の矢の雨、かろうじて逃げ出した匈奴兵は見たハリネズミのように矢を浴びて落馬した


乱戦の中で最も気合い入ったのは張遼、返り血でずぶ濡れの彼は疲れを知らないように目の前の敵をただ切り伏せ、老若男女問わず断末魔を上げて倒れていった


匈奴の断末魔を聞いた張遼は更に興奮し狂ったように笑い声を上げながら攻撃の手を緩まない

「殺せ!一人残らずだ!アッハッハッハッ!」


「魔鬼だ!長生天の怒りだ!長生天の罰だ!もう逃げられない…」

外に行けば龍驤営の弓矢、中に残れば虎賁営と陥陣営の刃

匈奴兵は八千人居ても一方的な殺戮に対処できない、鮮血が緑の大地を赤く染め上げた


約二時間後、掛け声が収まり哀号も完全に消えた


「趙将軍!営帳の裏に柵に囲まれた場所があります!中には我々の百姓が居ます!」

虎賁営の兵士に呼ばれた二十二騎がその後に着いて行った


柵の中には六七十名の漢人女性が閉じ込められ、十数歳から三十前後年齢はバラバラ

彼女たちは皆怯えて声を出さなかったが顔立ちを見れば漢人であると分かる


どんな目に遭えば味方を見ても声を出せないだろうか…

二十二騎は皆目の前の光景に震撼させられた


「遅くなってごめん、故郷へ帰ろ!」

趙雲が柵を開けて彼女たちに優しく声をかけた


懐かしい言葉を聞いた彼女たちはしばらく趙雲を見てから号泣した

泣き声に起こされた男の子は血まみれの二十二騎を見て酷く怯えたが母親は泣きながら笑顔を浮かべた

「虎、怖がらないの!もう帰れるよ!お父の仲間が助けに来たよ!」


母子の会話を聞いた趙雲はやっと張遼の憎しみを理解できた

「彼女たちに食べ物と服を用意して」


指示をした後趙雲は竜胆亮銀槍を手に先の戦場へ向かって匈奴兵の死体を一体ずつ刺した


「やめろ子龍!何してんだ!」

典韋が後ろから趙雲を羽交い締めして止めたが趙雲の目は血走っていた

「虎賁営!死体を調べろ!死んだフリを許すな!」


「はい!」

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