二百四十五話 二十二騎
典黙が許昌から連れて来た兵力三万の中、五千の虎賁営と三千の龍驤営以外は皆歩兵
今回の作戦は短時間で匈奴に最大の打撃を与え、呼廚泉を談話の席に引っ張り出す事
なので歩兵の活躍は期待できない
幸いな事に李傕と郭汜の旧部には一万四千の騎兵があり、それらも連れて行けば騎兵だけで総勢二万二千にものぼる
三日後、典黙は先頭に立ち、この二万二千の騎兵を連れて長安から河套平原へ向かった
「先生、此度は輜重営無しで各隊の携帯食料も三日分しか用意されていません。兵糧の補給に支障が出るのではないですか?」
唯一典黙の隣に残された曹昂が少し心配そうに聞いた
「輜重営を連れて来ても意味がない。今度の作戦は機動性が肝心だからね!河套平原の奥地へ着けば匈奴の部落が多くある、放牧している奴らから家畜を兵糧に充てれば問題ない」
「そんな戦い方は今まで聞いた事もありません!さすがです!」
騎兵のみで結成された討伐軍の行軍速度は恐ろしく速い
最北端の駅から出てから広大な草原が目に入った
ここに居れば今まで味わった事のない開放感を感じる、どんな悩みもちっぽけな物に変わる
良い場所だ、将来はここを大魏の牧場にしよう!
そして趙雲を筆頭にした二十二騎は常に主力部隊より四十里先を走り、索敵の役割も果たしている
二十二騎の武器は様々で、刀槍剣戟斧鉞鉤叉が広い河套平原で目立った風景になっていた
彼らは主力部隊とすぐ連絡が取れるように子寂灯を各自持っている、夜であればこの灯りは即座に方向性を示す事ができる、昼間なら篝火で狼煙を上げれば灯りを使う必要も無い
二日目の朝、方向感覚の強い張遼、文聘、黄忠が探索から戻って来た
「子龍、人影が見えた!前方七里、数百人の小さい部落だ」
「早速向かおう!」
趙雲が手を振ると二十二騎が張遼の案内で北西の方へ走った
小さい丘からその部落を見るとそこには数十の営帳が点在していた
大きめな営帳は数十人を収容できる居住者用、小さめな営帳は四五人を収容できる警備に当たる物と思われる
そして見るからにこの部落は単独の勢力ではなく親族の集まりだとわかる
「子龍、このような千名未満の部落なら作戦も必要ないだろ?俺らで突っ込めば一時間程度で片がつく!」
許褚は何も言わない趙雲を見て少し急かすように言った
趙雲は何も言わずに張遼を一目見た、この部隊の中で彼が一番匈奴の習慣に詳しいので意見を求めようとした
そして張遼も何も言わずに頷いて同意した
「では行こう!」
あっさりとした趙雲の言葉を合図に二十二騎がその部落へ全速力で向かった
営帳の外側に数名の匈奴人守衛が集まった雑談をしていたが、向かって来る二十二騎を発見した
「何でここに漢人が居る?」
「そんな事どうでもいい、奴ら良い馬乗ってる、殺して奪おう!」
「笛を鳴らせ!」
獣皮を見に纏った匈奴人が角笛を口に当てた瞬間、一本の金羽矢が真っ直ぐ彼の喉元を貫き更に後ろの身長が低い匈奴人の眉間を射抜いた
「漢昇神業!凄いな!」
いつの間にか一番前に走った典韋が高らかに笑った
両勢力がぶつかり、典韋は双戟を振り回し
彼の通った後は匈奴人が皆首を掻っ切られ、傷口を抑える手の指の隙間から鮮血が滝のように流れ出した
雑踏する馬蹄音と戦う音がやがて奥に居る匈奴の注意を引いて、営帳から人が続々と叫びながら出て来て角笛の音も聞こえて来た
しかし匈奴の増援も虚しく二十二騎に目を付けられた人から溶けていった
典韋の隣りで火雲刀を振り回す許褚は攻撃を繰り出す度に一つ二つの生首が跳ね飛ばされて、鮮血がその傷口から柱のように吹き出した
夏侯淵と夏侯惇の二本の槍が届く所も血煙が立ちのぼり、立ちはだかる匈奴人は皆藁人形のように抵抗もできずに倒れて行った
その中でも最も惨いのは徐晃、開山斧が振り下ろされる度頭蓋骨が砕かれた相手の身体だけが倒れて行く
「速くこの漢人たちを何とかしろ!」
遂に部落の奥地で百名程度の部隊が結成され、皆奇声を上げながら二十二騎へ向かって来た
文聘、魏延と李厳の三人が先にそれに気づき、互いに目を合わせるとその部隊へ向かって行った
自分の力を証明したくて焦っていた魏延が一番先頭に出て金背大刀を左右に薙ぎ払い、あっという間に匈奴部隊の真ん中に切り込んだ
無理やり二手に分けられた匈奴部隊はそれぞれ文聘の白蝋槍と李厳の雷霆殳に遭い、立て続けに落馬して行く
漢人の戦力に驚く暇もなく、楽進と于禁、李典の三人組はまた別の方角からその部隊に突入した
百名程度の匈奴部隊が六人の殺戮で残肢断臂が至る所に転がり、太刀打ちできない
匈奴の年長者が接近戦では勝てないと理解したか、営帳から弓を取り出し構えようとした。
しかし張郃、張繍、曹仁の三人がすぐ目の前に現れ匈奴の年長者は矢を取り出す前に始末された
「人じゃない!人じゃない!魔鬼だ!コイツらは魔鬼だ!」
立ち向かった匈奴は誰一人生き残れる人は居なかった、中には臆病な匈奴も居て腰を抜かして地べたに座り込み股の間を濡らしながら泣き叫んだ
匈奴も漢軍の戦闘力を知らない訳ではないがここまで戦力が桁外れの部隊は見た事がない
二十二騎がまるで人の形をした兵器のように匈奴人の中で一方的に殺戮を行った
許褚の言うように戦闘自体は二刻の間で終了した
二刻前までは静かだった匈奴の部落は今も静かになったが二刻前とは違って至る所に損傷した死体が転がっていて、血腥さが辺りを充満した
「言え!この周辺に他の部落はあるか?」
最終的に数名の匈奴老人が幼い匈奴の子供を庇うように二十二騎に囲まれた
彼らの目からは恐怖の感情しか読み取れない
恐怖で顔を真っ青にした彼らは匈奴語で何かを言ったが二十二騎兵は明らかに理解できない
「どうしよう、何言ってんのかさっぱり分からない…」
李典が少し困った風に周りに助けを求めた
そこで張遼は馬から飛び降りて青天鉤鎌槍を横に薙ぎ払い、囲まれた匈奴人たちは喉元から血煙を上げて倒れ込んだ
「おい!軍師殿の話を忘れたか!どうしようなんて聞くな!」
張遼は両目を真っ赤にして息を荒らげ、両親が目の前で殺された光景を思い出した
趙雲は張遼の肩を叩いた後命令を出した
「狼煙を上げろ、探索を続けるぞ!」
「はい!」
この部落では匈奴人が全滅させられたが残った幾千の馬や羊は討伐軍の兵糧に充てられる
狼煙は討伐軍をここへ誘導するための目印である。
「行くぞ!」
狼煙が立ち昇り、趙雲が新しい命令を出すと二十二騎は再び奥の方へ探索を続けた
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