二百三十話 孫策と周瑜

歴史の変動に影響を受けなければ孫策は呉郡、会稽、丹陽、豫章、魯陵、廬江の六郡を手にしていたはず


しかし今は状況が変わり、廬江は曹操に、豫章は呂布に取られている。


しかし孫策の持っている四つの郡は整合されていた

桓帝が揚州の制度を改革した時、江東には未だ幡陽、建安、新都、臨海が残っていた


太守の任命時から今までこれらの郡の行政機能はそのまま残った

そして孫策が来てからそれらの郡は会稽、呉郡、丹陽に統合された


なので孫策は郡を四つしか持たないと言ってもその縄張りは小さくない、実質には郡を八つ持っていて、一州の地を持ったと言っても過言ではない。


建業が治所として設けられ、丹陽郡に位置する


建業の将軍府、銀色の甲冑を身にまとい、二十六七歳の俊朗な青年が帥椅に座っていた。

彼が江東の主、小覇王孫策である


そして首席の謀士として最前列に居るのは孫策と歳が近い、美玉のような顔に点朱のような唇をした青年、孫策の片腕である周瑜である


孫策が生きている間周瑜は未だ大都督ではなかった。

その時の彼は朝廷から授かった中郎将の軍職で孫策の軍政を分担していた、なので今の彼は参謀と軍師のような働きをしている


主簿である諸葛瑾から諸葛亮が建業に着いて孫策に会いたいという報告を受けた

「建業に来たのは何のつもりだ?劉備の代わりに配下になる相談か?それとも呂布のための説客か?」


周瑜はしばらくの沈黙を経て高らかに笑った

「今来たのは丁度いい」


「どうした公瑾、なぜ笑う?」


疑問に思う孫策を見て周瑜は拱手して再び口を開く

「主公、最初は僕も劉備たちが呂布の配下になると思ったが、よく考えてみればその可能性はありません。劉備は草履売りだったが胸に大志を抱き皇室の後裔と名乗り、人の下に付くのは有り得ません。それに彼はかつて漢曹不両立と豪語しています。僕の予想が正しければ彼は曹操の発展を警戒して方々の兵力を集め、それに対処しようとしています」


「なるほど、つまり此度は我々が呂布との停戦と同盟を企ているのか?」

周瑜が頷いたのを見ると孫策は嫌そうに話を続けた

「呂布はいつ裏切るかわからない、そんな奴と同盟を組むのは実に安心できない。それなのに公瑾は何故笑う?」


「主公、曹賊は北国を収めてから今や最大勢力を誇る諸侯。諸葛亮が来ようか来るまいか我々もずっと呂布と戦いを続けられません。このままでは曹操が漁夫の利を得るだけです。諸葛亮が来たなら停戦の理由としては申し分ない、それに我々は水戦が得意が陸戦は不得意。ならば呂布の兵力を矛先として使いましょう!」


孫策は周瑜の話を聞いてもすぐには意見を述べ無かった

兵力も城の数も呂布の数倍ある彼は呂布を滅ぼしてから曹操に専念した方がいいと思っていた


少ししてから孫策は口を開いた

「彼は大人しく我々の命令を聞き入れるとは思えないがな」


「諸葛亮が使者としてこちらへ向かうのであれば両軍の実力も理解しているはずです。連盟を提唱するならこちらが盟主である事を否定できません。それに呂布もここ数年の間に我々に歯が立たない事を理解しています。彼も我々に従う他ないです」


「ならば、公瑾の意見を尊重しよう」

孫策はやっと手を振り払い同意した


その後すぐ、諸葛亮が諸葛瑾の後に続いて入って来た


「お目にかかり光栄です呉侯。我が主劉玄徳の代わりに挨拶をしに参りました。百聞は一見にしかず、やはり呉侯は噂通り年少英主です」


「孔明が子瑜の賢弟なら身内だ、謙遜せずとも良い。掛けて良い」

孫策は軽く微笑んだが立ち上がる素振りすらも見せなかった

「此度ここへ来たのはどんな要件だ?」


「呉侯、我が主はご先代様とは反董卓連合で共に戦いました。今や曹操が第二の董卓となり天下を我がものにしようとしています。荊州は既に帰順する心を持っています、荊州を得ればすぐにでも長江を渡りこの地を欲するでしょう。なので注意を促すように私をこの地に派遣しました」


孫策も周瑜も思わず諸葛亮を注目した。

諸葛亮の話には付け入る隙が無い、先に両勢力の関係性をさり気なく友好である事を暗示してから曹操の危険性をハッキリ言った。

しかもその間に劉備の連盟したい気持ちを切り出さなかった


孫策は少し沈黙して目を細めた

「感謝する。劉皇叔は幾度に渡り曹操と矛を交えた、曹操軍の長所と短所をわかるはずだ。その対策を孔明から聞かせてもらえるか?」


「呉侯、私も叶県で典黙と一度しか戦っていません。残念ながらあの時の曹操軍は精鋭ではありませんのでハッキリとはお答えできません」

孫策の質問に諸葛亮は茫然とした顔で答えた

「しかし、私から一つ助言があるとすれば...」


少し話しにくそうにする諸葛亮を見て、孫策は何も言わずに顎をグイっと上げ、続けろと言わんばかりの目で彼を見た


「曹操軍の多くは歩兵と騎兵、青徐の水軍は脆弱だが、荊州を手にすればその水軍で東呉と張り合えないとも言えません。呉侯がご先代様の意志を受け、社稷を思い国賊を剪除するならこの万里の長江でかつてない南北大戦をしなければいけません。このまま呉侯と温侯の両雄が争えばいずれは曹賊が漁夫の利を獲てしまいます」


同盟を組むのにも駆け引きをするのか!

周瑜は諸葛亮を真っ直ぐに見て腹立たしく思った


目的を隠したままなら確かに同盟では劣勢に立たないがそれと同時に信用される事もない


「主公が呂布と同盟を組むなら劉皇叔はこの同盟に入るのか?」

周瑜は内心の不快を押し殺して聞いた


「将軍、我が主はかつて漢曹不両立の誓いを立てました。曹賊の敵は盟友であります、必ず助力します!」

諸葛亮は卑屈にならない、胸を張ったまま話した


「同盟を組むなら盟主を誰にするんだ?呂布がこっちに来て俺の指示に従うのか?それとも俺が豫章へ行って彼の命令を聞くのか?」

孫策は遠回しの話を嫌うのでハッキリ聞いた


「呉侯、同盟とは配下に加わると違います。ここまで来るまでには温侯と相談しました、軍法は江東を基準にして、水戦なら呉侯の命令を、陸戦なら温侯の命令を尊重します」

焦燥な孫策を前にしても諸葛亮は依然と態度を変えずに居た


二人の話から察すれば呉は呂布の兵力で曹操軍を消耗する気で居るのがわかる。

しかしこのような態度で同盟を組んでもいずれは破綻する


なので諸葛亮は終始卑屈にならないように毅然たる態度で同盟を公平な物にする必要がある

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