二百三話 練兵の材、陳叔至
意外な質問に張遼は少し驚いて、彼は十数年前の記憶を振り返った
「末将は雁門の出身です。故郷は昔、よく南下する鮮卑によって略奪されていました。白馬将軍と呼ばれた公孫瓚が居る幽州と比べれば状況はとても酷かったです。末将の両親も鮮卑の略奪によって殺されました、なので小さい頃から大漢のために胡虜を駆逐すると誓い、この一身の武もそのために手に入れたものです」
張遼は哀愁漂う目で答えた
逍遥津の戦いで輝く張遼にもこんなに悲惨な過去が秘められたのは、典黙も彼の身の上話を聞くまで知らなかった
「丞相のために天下を安定させたら我々も当時の冠軍侯のように大漢の威名を轟かせよう!胡人が略奪するどころか漢人を見るだけで身震いするほどにな!」
典黙は立ち上がって張遼の肩を叩いて話した
「はい!末将もその日が速く来れるよう尽力します!」
典黙は頷いて再び陳到の前に座った
「叔至将軍は何故軍に入ったのですか?」
陳到は酒壺を下ろし、真っ直ぐ典黙を見て、少しため息をついてから残念そうにしていた
「乱世に生まれ、自分に少しばかりの武があると自負し、三尺の青鋒を手にして乱世を終わらせるために武勲を建てるためです」
「素朴な理由ね」
典黙も少し笑って頷いた
「しかし豚に真珠だったね」
陳到は自嘲の笑みを浮かべ何も言わない
「もしあの時、城内に居るのが僕で外に居るのが丞相だったら、丞相はどうしたと思う?」
「何も考えず、城内へ助けに入っただろう。徐州に居た頃一度同じような状況を見たからな。曹操にとってあなたの存在は徐州よりも重要」
言い終わった陳到は少し憧れの表情をした
部下として自分を重宝する主に出会える事は幸運な事
しかし劉備は陳到を捨て駒にしただけでなく、普段も関羽と張飛を贔屓していた。
「僕だけではない、他の武将でも丞相なら助けようとしたはずだ」
歴史上の曹操も部下の事をとても大事にしていた、宛城で自分の欲望のせいで典韋が戦死した時も後悔の涙を流した
「丞相の部下に対する思いを信じられないのか?それとも誰かが叔至のために命をかけられるのが信じられないのか?」
陳到の疑いの目を見て、典黙は笑って聞いた
「どっちもかな…」
陳到は再び酒を口にした
仮に曹操が本当に典黙の言うように自分をも大事にするなら、そんな主にならこの命をかけても良いかも…
「僕が曹軍ではどんな立場が分かるか?」
典黙は陳到の気持ちが微妙に変化したのを捉えて、少しお臀を前に動かした
「実質二番目の権力者、曹操はあなたの言う事なら何でも聞くだろう」
「何でもまではいかないけどね」
典黙はニコッと笑った
「叔至将軍は劉備軍ではどんな立場?」
「典軍校尉だ…」
「なるほど、典軍校尉ね。知名度や武力なら関羽張飛や黄忠たちには及ばないでしょ、しかしそれでも今日、僕はここへ来た」
典黙は立ち上がって両腕を広げ、自分の胸を叩いた
「二番目の権力者、曹軍の首席謀士がここへ来た。それは全て君叔至のためだ、誠意を表すのに充分かと思う!」
典黙の言う事は陳到の心に響いた、典黙が自ら会いに来たのは恐れ多くも嬉しい事だった、特に自分が劉備に見捨てられた後にこのような対応をされれば彼の心も自然と曹操軍に傾いた
「乱世を終わらせるために武勲を建てたいと言ったが、その点に関しては僕らも同じ気持ち。そして僕らは仲間を見捨てたりしない、安心して背中を預けてくれ」
「しかし曹操は…」
「天子を人質に朝廷を牛耳ってると言いたいのか?よく考えてみろ、天子が長安にいた頃はどんな暮らしをしていたか、天下の百姓たちはどんな暮らしをしていたか!」
ここで典黙は急に声を高らかにした
「皆それぞれ自分の中に正義を持っている、その正義感について言い争うつもりは無い!ただ一つ問う、ここ数年で中原の百姓たちはどんな暮らしになった、天子陛下の暮らしはどうなった?劉備は漢賊不両立と言いながらどれだけの戦を始め、どれだけの人を無駄死にさせたのか君も知っているはずだ!」
陳到には返す言葉もない、曹操に統治されてからの中原は確かに数年前に比べれば良くなった、それは火を見るよりも明らかな事実だった
「言って置くが誰も戦争などしたくない、百姓しかり、僕らしかり、丞相もしたくない!劉備は返政天子の一言でどれだけの荊州兵を穎川で死なせた?丞相が天子を人質にして天下を動かすと言うなら劉備もまた劉琦を人質にして荊州を動かしていると言える!」
陳到は典黙をチラッと見た
なんで曹操の事を少し悪く言っただけで逆鱗に触れたような反応なんだよ…
しかし陳到は確かに反論できないのでただ黙っていた
典黙は陳到の心が揺れたのを感知して、大義名分で言い争う必要ないと思った
「叔至、力を貸してくれ!僕には君が必要で、丞相にも君が必要だ。先も言ったが僕らは仲間を見捨てたりしない!」
陳到の心は完全に動かされた。
何故なら目の前の少年は天下に名を轟かせた麒麟軍師でありながら謙虚にも自ら直々に自分に会うために小汚い牢へ足を運んだ。
典黙の行いにより、劉備に見捨てられた陳到の傷ついた心が慰められた。
今まで戦がある度自分も前へ出て戦った、劉備の知育の恩は返しきれた……
「戦場で劉備に直面したくなければその意を尊重しよう!」
陳到が色々考えてる時に典黙がトドメの一言を言い放った。
当然この言葉は鋭い刃のように陳到と劉備の最後の絆を断ち切った
「末将はこれから犬馬の労を尽くします!」
陳到は立ち上がって拱手しようとしたが両手に付けられた鎖が邪魔でできなかったので代わりに跪いた
「うん!」
肯定的な答えを聞くと典黙はとても上機嫌になって張遼の方へ振り向いた
「文遠、大漢の威名を轟かせるために戦ってくれる仲間がまた増えたね!」
典黙の話で牢屋内に高らかな笑い声が響いた
"仲間を見捨てない"この一言の口約束が後々本当に張遼によって守られた事は、この頃の陳到が未だ知る由もなかった
陳到を配下に加える事ができれば劉備の逃げ足は鈍るはず
夷陵の戦いで劉備は火攻めに遭い、僅か数百人の生き残りと共に陸遜に包囲された。
そんな時陳到が白耳兵を率いて陸遜の包囲網を突破しなければ劉備は生きて白帝城へ戻る事もできなかった。
そして陳到のような精鋭部隊を作り出せる人材は典黙だけでなく、各諸侯も喉から手が出るほど欲しい者だった
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