百九十六話 作戦会議
三日後、張繍は二千の騎兵を連れて黄忠の情報通り兵糧の運搬道へ向かった
趙雲は少し心配そうに城壁から張繍たちの方角を眺めたが典黙は何も心配せずに将軍府でぐっすり寝ていた。
翌朝、明るくなる前に張繍が騎兵を連れて十数台の荷車と共に凱旋した。
「祐維、上手く行ったようですね!」
趙雲は真っ先に駆け付け、兵糧の荷車に手を乗せて話した
「あぁ、楽勝!黄忠の情報通りだった!大した量では無いが敵軍の士気を下げるのに充分だ」
趙雲はニコッと笑って頷いた
「軍師殿は起きてるか?報告する事がある」
「分からない、会いに行こう!」
趙雲は副官たちに兵糧の検査をさせてから張繍と共に将軍府へ向かった
将軍府へ着くと、典黙は既に起きて剣術の鍛錬をしていた。
「祐維将軍、おかえり!順調?」
典黙は青釭剣を鞘に戻して聞いた
「はい!二万石の兵糧を獲得しました!」
張繍は拱手して答えた
「検査もしたか?」
「子寂に言われた通り火油や毒の検査を副官に任せた」
趙雲も拱手して答えた
「軍師殿、一つ報告しておきたい事があります」
「うん、話して」
典黙は近くにある石椅子に座り、二人にも座らせた
「兵糧を奪う際に運搬兵たちが逃げた後黄忠は戦いの振りをして俺に近付いた。劉備の元から一刻も早く離れたいと言い、一緒に着いて来ようとしていました。俺は決められないと断わりました」
座った張繍はとても疲れたのか、典黙の淹れたお茶を一口に飲み干した。
典黙は常に防衛の要を把握しているため、仮に黄忠が叶県城に来ても内通者としての働きはできないが黄忠が劉備軍に居た方が都合が良かった。
「子寂、未だ黄忠を信頼できないのか?」
「分からない…」
趙雲の質問に典黙は首を横に振った
典黙は未だに降伏する黄忠の真偽を見極めなかったが劉備軍に残しておけば勝手に情報が入って来る、そしてその情報の真偽を見極めるのは典黙にとっては簡単な事だった
「黄忠を帰したなら連絡手段を確立したか?」
典黙は張繍の方へ見て、後者は頷いた
「はい、緊急事態が起きれば向こうから連絡すると。それ以外は十日ごとに兵糧の運搬があるから、本陣東にある山羊丘で密会できると言われました」
うーん、話を聞く限り本当っぽいね…
「なるほどわかった、祐維将軍は戻って休んでください」
「はい!」
張繍と趙雲が去った後笮融が訪ねてきた、彼も兵糧の獲得を聞いて野次馬根性で来た。
そして二人が離れたのを見ると典黙の横に座った、関係性を維持する大切を知っていたから。
「寧国侯」
「はい!」
「黄忠は本当に投降するつもりなのかな…?」
典黙はお茶を揺らして少し考え込んだ
「うーん、丞相の威光と先生の才能もそうだけど、劉備は数回我々に敗れています。余っ程の間抜けでなければ選択を間違えないでしょうか。私は黄忠が正しい選択をしたと思いますね」
「なるほどね…」
笮融の分析を聞いて、典黙は少し気が軽くなった
「つまり黄忠は信じられないね!」
私の分析を消去法で消した?
笮融は後ろに仰け反った、相手が別人であれば彼は透かさず言葉で殺していただろうが、相手は典黙ならそうもいかない。
劉備軍の本陣、中央軍帳内に鶴氅衣を羽織る諸葛亮は劉備の隣に座っていた。
その前には関羽、張飛、黄忠、李厳が順番に立っている。
関羽と張飛の目つきは友好的なものでは無かった。
軍事行動の情報を漏洩した後に二万石の兵糧も失くした、これらに意味が無ければ許されることは無いだろう
明日で五日の期限となる、諸葛亮が叶県城を手に入れられたなら彼が才覚のある人であると証明できる。
そうなれば関羽と張飛も今までの無礼も詫びるだろう。
しかし失敗すれば、諸葛亮は机上の空論を並べただけの腐儒と見なされて隆中に追い返されてしまう。
尚且つ損失の弁償として関羽と張飛は彼の農作物を全て取り上げるだろう。
「軍師、作戦を聞かせてもらおう」
関羽が先に口を開いた
諸葛亮は劉備に目をやり、後者は頷いたのを見て羽扇を机に置いた
「関羽前へ」
関羽は一歩進み拱手もせずに返事もしなかった
「明日の夜、五千の騎兵を率い叶県城南の虎澗林で待機し、南門が開かれた時に城内へ入り城関を占拠せよ!」
「分かった」
関羽は諸葛亮をチラッと見て冷たく答えた
「張飛前へ」
張飛も一歩出てから壁のように立っているだけで何も言わなかった
「明日は三千の騎兵を率い斧山で待ち伏せを仕掛けよう、正午頃には典黙の敗残兵がそこに着く!」
「本当かよ…」
張飛はそう呟いて列に戻った
「李厳前へ」
「はい!」
「明日は八千の歩兵で叶県城北側にある澤地に隠れ、関羽の騎兵が城へ入ったのを確認してから同じく南門を確保しに行くように!」
「承りました!」
李厳へ命令を出してから諸葛亮は作戦を詳しく説明しなかった、代わりに劉備を見て話しかけた
「主公は三万の主力軍を率い、関羽将軍と李厳将軍が城門を確保したと同時に城内へ攻めましょう!」
劉備は急いで立ち上がって軍帳の中央へ歩き拱手した
「承りました!」
「叶県城の城門を誰が破るんですか?まさか典黙が自ら城門を開けてくれる訳ないだろう?」
関羽の質問に諸葛亮は焦らず、右手で羽扇を持ち左手はその上を軽く振り払った
「陳到将軍、三千の兵を率い叶県城の南門を強攻してください。明け方には城門が開くでしょう!」
諸葛亮の話を聞いて皆愕然とした。
三千人で攻城戦?明け方には城門が開く?朝まで持つかどうかすら分からないのに…
無条件で諸葛亮を信頼した劉備も目を見開き、驚きを隠せないで居た
「軍師よ、三千人で城門を開けるだ?やって見せてくれよ」
張飛は明らかに信じていなかった
諸葛亮は慌てず、張飛を真っ直ぐ見て答える
「いつもなら無理だが明日はできる!各自与えられた事に専念するように!」
「各部命令通りに動け!」
関羽と張飛が不服そうにしていたが劉備は二人を抑えた
「…はい」
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