百八十九話 三度目の覚悟
諸葛亮の内心は劉備の意見を賛成していなかった、彼は本来慎重な人で全てを一つに賭けるのは性に合わない。
典黙が居ない本来の歴史上でも彼は隆中対で荊州、西川を手に入れる事を薦めた
彼から見ればこの方法はより確実で成功する可能性が高い
しかし目の前の劉備は歴史と違った。
新野の小城しか持ってないなら生き延びる事だけを考えるだろうけど
今の劉備には五万の大軍があって、再び自信に満ち溢れた。
劉備の性格上、自信がない時は人の意見を謙虚に受け入れるが、自信がある時は人の言う事を聞き入れない
三国演義でも漢中王と名乗った時には諸葛亮の意見を聞き入れずに孫呉を攻めた。
関羽の仇討ちという理由もあるがおそらくその時の劉備は自分に自信があったからこそ諸葛亮の意見を聞き入れなかった
将軍府につくと劉琦は丁度帰る文聘と黄忠を見送りしていた
「皇叔、良い報せがあります」
劉備が口を開く前に劉琦が嬉しそうに言った
「どんな報せです?」
悪い企みを秘めた劉備はとりあえず話を聞く事にした。
「簡単に長沙を取る方法があります!」
「長沙?韓玄は蔡瑁の派閥で三万の兵力があるのではありませんか?」
「皇叔、韓玄の校尉魏延は漢昇将軍を慕っており二人の間柄も良く、漢昇将軍が手紙で魏延を説得して内通者として協力してもらえます!」
本来喜ぶべき事だが劉備は笑えなかった
「皇叔、何か心配事がありますか?」
劉備の表情を見て何かを察した劉琦が聞いた
「公子の言う通りにすれば確かに長沙を簡単に奪還できるでしょう、しかし未だ襄陽、南郡、武陵、零陵、桂陽が残ってる。その中にも協力者が居るとは思えません」
「そうですね...」
劉琦も首を横に振った
「協力者が居なければそのあとの戦いは悲惨な物になります。同じ荊州軍同士が荊州で争うのは悲しい事です、百姓たちも被害を被ります」
感傷的な劉備を見ると劉琦も少し心を動かされた
「皇叔は仁義なお方ですから百姓たちの事を考えるのも仕方ありません、しかし蔡瑁は僕を生かそうとしません、これも仕方のない事です」
劉備は深く息を吸い本題に入ろうとした
「色々考えた結果、荊州の百姓が戦乱に巻き込まれずに荊州を手にできる方法が一つあります」
「どんな方法ですか?教えてください!」
劉琦は期待した顔で劉備を見た、しかし劉琦の期待は劉備への物ではなく諸葛亮への物だった
ここ数日劉琦は諸葛亮の言動や典黙への評価から見て、諸葛亮は才能ある人だと分かった。
もし劉備の言う方法が諸葛亮の出した物なら期待できると思った。
劉備も劉琦を見つめ
「もうすぐ曹操が北上して袁家三子を殲滅するでしょう、許昌が空になった時に我々が五万の大軍で電光石火の如く許昌に入り、天子を救い出す。陛下が助かれば必ず公子のために蔡瑁たちの陰謀を打ち破り、荊州の刺史を公子に返還するでしょう!これなら百姓たちは戦乱に巻き込まれない上、天子への忠も尽くせます!景昇兄もあの世で喜ぶでしょう!」
許昌へ行って天子を奪還すると聞いた劉琦は数歩後退りした。
三回目、もう三回目になる...正直行きたくない...
劉琦は物凄く嫌そうな顔で頭を掻いた
「公子、曹操は天子の名義で我々を逆賊に仕立てた、仮に荊州を奪還できても我々は逆賊のままです。その汚名を一生背負って生きても良いのですか?」
別にいいけど...
劉琦は許昌へ行くよりは汚名を背負った方が未だ受け入れやすいと考えた。
説得に動じない劉琦を見ると劉備は少し茫然とした。
以前の説得で既に大義正義から血脈までを口実に使い切った、今の劉備に説得する材料はこれ以上無かった。
「公子は前回の失敗を気にしているようですが、英雄たるもの失敗を恐れず、何度も挑戦すべきです」
外から心地良い声が響き、羽扇を扇ぐ諸葛亮が声と共に入って来た
「軍師殿!」
劉琦はとても謙虚に諸葛亮の元へ椅子を運んだ
諸葛亮は座る前に話を続けた
「公子、荊州は元々水軍七万、陸軍十万あり、二回の敗戦に文太守が抜けたと言っても未だ十二万の兵力があります。それに対して、曹操が
北上すれば許昌に残る兵力は五万を超さないでしょう。どうちらの方が勝算が高いのか、公子も分かるでしょう」
諸葛亮は大義名分ではなく、荊州を取るか許昌から天子を助け出すかの二択を示し、その兵力の差を分かりやすく分析した。
劉琦も当然十二万と五万の差を直感的に理解した
「ならば皇叔と軍師殿の意見通り、曹操が離れた頃を見計らい許昌へ行きましょう!」
劉琦は決意を固めた
「この度は軍師殿の知恵を頼りにします!」
「全力を尽くします!」
「感謝します、公子!」
諸葛亮が居なければ劉琦を説得する事ができなかったと理解していたか、劉備は劉琦に向かって礼を言いながら感謝の目を諸葛亮に向けた。
諸葛亮は少しため息をついて頷いた
消耗を最小限に抑えるためにも、劉琦は長沙の攻略を後送りにした。
仮に天子を無事に助け出せれば長沙を攻める必要も無くなる。
許昌方面、半年の準備期間を経て、十一万の北国捕虜は調練を受け、元々の曹操軍に編入された。
「袁尚から救援の手紙を受けたのも既に五回目だ、これ以上待ったら袁譚が本当に袁煕と袁尚を滅ぼしてしまうだろう」
そうならない様にも曹操は遂に動き出した
招集された大軍を前に、曹操は倚天剣を片手に持ち、点将台に登った。
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