百八十六話 曹操の誓い
袁譚は人を使う事に関しては袁紹よりマシだった、袁紹の優良遺伝子を色濃く引き継いて優柔不断と言っても沮授と田豊の提案を無視せず受け入れた。
審配と逢紀も才能あるが田豊と沮授の前では相手にはならない。
僅か一ヶ月で袁煕袁尚の反乱軍が鄴県から追い出された
しかし袁譚もまた圧倒的な勝利を掴めない、何故なら郭図が田豊と沮授の計画を包み隠さず袁煕袁尚に漏らしていたからだ
なので北国の内乱は数ヶ月続いてもずっと白熱のまま。
普通なら春の農耕時期になればどの諸侯も戦争を止め農業に勤しむ、特に官渡の戦いで百四十万石の兵糧を燃やされた北国にとってそれは急務のはず
なのに袁尚袁煕は諦めずに袁譚にまとわりつく
あろう事か許昌に居る曹操に救援を求めた。
袁煕は青州刺史、袁尚は冀州刺史、朝廷の重臣として丞相に出兵を求めるのを普通に思えた
曹操が救援の手紙を受け取った後文官武将を集めたのでは無く、喜ぶ子供のように典府へ走った。
「アッハッハッハッハッ...!この兄弟は面白い!」
「丞相なら既に結論を出したでしょう?」
春先の残寒で典黙は以前と大きな氅衣を羽織ってる、剣術を嗜んでいると言っても虚弱体質は未だ変わらないみたいだ
曹操は頷いてら火鉢を典黙の方へ近付けた
「陛下に討伐の勅令を出させるがまだ出兵はしない、袁家三兄弟がお互い消耗し切ったら...」
曹操の目に殺意が湧き、拳を握りしめた
「一撃で叩き潰す!」
天子の権力を使う面では曹操の右に出る者は居ないだろう、典黙自身もそれに及ばないと自覚していた。
勅令を出せば袁譚軍の士気を下げる事と共に袁尚袁煕の反乱軍の士気が上がる。
これなら三人の戦いは更に白熱するだろう。
「なら丞相はいつ頃出兵するつもりですか?」
典黙は火鉢に手をかざして暖を取りながら聞いた
「もう何ヶ月待とう!時が来れば我が直に大軍を率いて北国に入ろう!」
「ですね、損耗を最小限に抑えながら北国を簡単に取れるでしょう!ご英名な判断」
曹操は典黙をチラっと見て
「バレたか?エッへへ、アッハッハ...!」
典黙も喜ぶ曹操に笑わせられた、四十過ぎの曹操はいつも典黙の前では十代の少年のように振舞っていた。
きっと、それも世代間のズレを埋める理由だろうか。
典黙は温かいお茶を啜り、曹操を見た
「丞相、荊州の方は?新しい情報はありますか?」
曹操は軽くため息をついて、姿勢を正した。
「チッ、君の予想通りだ!諸葛亮が士族の間で蔡家が遺言を改ざんした噂を流した。多くの士族が劉琦を支持すると決めた。諜報員の報告によると黄忠、李厳は南陽へ向かった。それよりも厄介なのは...」
曹操は薪を一切れ火鉢に入れ続けた
「蔡瑁の役ただずめ!天子勅令で劉琮を荊州刺史につかせたのに、劉琦が江夏太守文聘を仲間にした!文聘は文武両道と聞く、それに江夏は荊州の財布だ、荊州の財産の半分がそこにある!」
「つまり劉琦は南陽と江夏、二つの郡を手に入れたという事ですね。確かにそれは厄介ですね」
確かに諸葛亮は一筋縄ではいかない、狙いも正確だ。
黄忠、李厳をを網羅しただけでなく文聘をも船に載せた
江夏は水路陸路共に利便で荊州では重要な立地である。
諸葛亮の補佐を得た劉琦が江夏を手にしたならそれらを有効活用できるはずだ。
「仕方のない事だ、我々にも休息が必要、その後は北国を収復する。劉備たちを泳がせておこう」
曹操は少し残念そうに言った
「まぁでも、天子名義で勅令を出した。速くその反乱を鎮静するようにな!蔡瑁も劉備たちの首を持ってくると約束した」
曹操の自信なさげの言葉に典黙は鼻で笑った
「当てにならない約束ですね?」
「君に隠し事は無駄だね」
「ええ、劉琦は荊州では支持者が多く、士族たちも劉表の恩を返すために、劉琦と敵対するわけもありません」
典黙の言うように、荊州は冀州との根本的な違いがある。
袁紹が生きていた頃は袁尚がその寵愛を受け、士族たちの中では人望があった。
対して劉琮も劉表の寵愛を受けたが劉琦の方が士族たちとの絆が強かった。
「あっ、そうだ!丞相、一つお願いがあります」
「我々の仲だ、なんでも言えよ」
曹操は何も考えずに答えた
「北国を収復する時、僕は行きませんよ?」
「元々連れて行くつもりも無かった」
「えぇ?なんで?」
曹操の返答に、典黙は少し興味津々だった
曹操は肩を揉みほぐしながら
「この戦いはもう難易度が低い、君の出番が無いだろう。それに君は怠惰だ、全く怠惰だ!多分自ら積極的動くのは寝床の上だけだろう?」
「丞相は権術だけでなく皮肉も上手ですね」
典黙は親指を立てて曹操の言葉にいいねを押した
曹操は典黙の言葉を気にせずにその理由を口に出した
「事あるごとに劉備が我の背後を狙った、今は諸葛亮を手に入れてるし更に警戒せねばならん!君が許昌に居た方が我も北国で安心できる」
「丞相、言って起きたい事があります...怒らないで聞いて欲しいです」
曹操はしばらく真剣に典黙を見てから、典黙の言おうとした事がわかったかのように先に口を開いた
「許昌を我が物にして独立など、君には到底無理だ。その心配は全くしてない」
曹操は少し話を止めて、独りでに分析を始めた
「先も言ったが、君は怠惰だ、官爵や天下に興味が全く無い、どうせその興味は女の子にでも全部注ぎ込んだろ。それに、我々の仲を信じてる、我は君を信じる、だから我をも信じろ」
典黙は目線を逸らし火鉢を眺めた
「君が何を考えてるかわかってる。良いか?先の話は一度しか言わないぞ、君もそれっきり言うな!それ以上言ったら我に対する不信だ!」
言い終わった後曹操は腰に差す倚天剣を地面に突き立て、倚天剣から振動音が響いた。
「この曹操、此処にて誓いを立てる!今後誰かがこのような事を口にすればこの倚天剣でソイツの首を跳ねよう!自分の子だろうと同じだ!」
典黙は立ち上がって拱手してお辞儀をした
「信頼して頂いて嬉しいです、僕はきっと丞相のために全ての困難を打ち破ります!」
疑い深い曹操にここまで言われて、典黙の内心は感動していた
「もう良い、我らの仲ではこの様な話は無粋だ。座れちょっと喋ろ」
「何についてです?蔡氏?結構美しいと聞きますよ?」
「蔡氏がどうした?天下の熟女未亡人は数しれず、いずれ我と君の物になるだろう!」
「いやっ、苦重すぎます...」
「大丈夫だ、あとで虎鞭をたくさんあげるから」
二人は互いの顔を見てニヤニヤし出して、まるで先までの重い話題が無かったかのようだった
少ししてから曹操は何かを思い出した様に眉間に皺を寄せた
「そう言えば子脩は最近兵法戦略を熱心に研究している、アイツ何か勘違いしてないと良いが、あとで注意してあげて」
「うん、任せてください」
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