百八十五話 内乱の始まり
「はぁー」
曹操は白い息を吐き首を横に振った
「ガッカリさせてしまうかもしれん」
箸と酒壺を下ろした曹操は続けて言う
「南陽の諜報員が死士の報告を受け取ってない、代わりに諸葛亮が劉備に連れて行かれたと言っていた」
典黙は曹操が思うようにガッカリしていなく、多分これも運命だろうとあっさり受け入れた
唯一残念なのは天下統一がこのとこにより進捗が遅くなるだろう
典黙からすれば歴史が既に変わってしまった、しかし諸葛亮からすれば歴史がどう変わろうと関係のない事だ。
「元直のように頭が切れるかもしれん、もしかしたら元直よりも兵法に通じるかもしれん。しかし我からすればどうでもいい」
曹操は再び酒壺を持ち上げ典黙と乾杯した
「君さえ居れば誰だろうと怖くない!それに劉備には資金が無い、何も出来ないだろう!」
「諸葛亮の補佐を得た今なら、劉表の死は劉備に利益をもたらすかもしれません」
「どうして?」
「諸葛亮はきっと蔡家が劉表の遺言を変えた事で氏族たちを扇動するでしょう。劉表は庸主だがその部下たちの多くは忠誠な者、扇動を受ければ劉琦へなびくでしょう」
典黙の分析を聞いた曹操はキョトンとした目で典黙を見て、しばらくしてから
「諸葛亮がそのような手腕があるのか?」
典黙は反論しなかった、しかし諸葛亮は必ずそうすると確信した。
今の荊州に居る劉備が唯一すがれるのは劉琦、その劉琦が倒れないように支えるのは当然な選択。
劉備はよく曹操の事を"天子を人質にして朝廷を動かす卑怯者"と罵るが、その劉備も結局は劉琦を人質にして荊州を動かしている。
典黙から見れば劉琦と劉備の関係は劉協と曹操の関係に等しく見えた。
ただ方法が違うだけでやってる事は一緒。
冀州鄴県、袁尚と袁煕は曹操の期待通りに勅令を受けた時から主の座を簒奪する考えを持った
しかし二人からすればこれは簒奪ではなく、あくまでも自分のものを取り戻すだけ
そして勅令で浮かれたのは袁尚と袁煕だけではなかった、審配と逢紀も浮かれていた。
この二人はもとより袁尚の支持者で、士族のあるべき豪華な暮らしが好きだった。
しかしその風紀を嫌っていた袁譚は当然二人を良く思っていなかった。
袁譚が君主として権力を固めれば自分たちがどうなるか、二人もわかっていた
なので二人は無事鄴県に着いてから何かをすべきだと密謀していた、そして一番立ちはだかる壁は袁紹の遺言だと思った。
袁譚を引きずり下ろすためにもより多くの支持者を味方につけなければいけない。
二人は標的を郭図に絞って、考えを袁尚に伝えた。
「先生、陛下からの勅令では僕を父上の後継者と認めた。それに兄上は単純で君主には相応しくない!ご助力ください!将来は必ずこの恩を返します!」
袁尚は郭図が引き受けると思った、なぜなら郭図は延津にいた頃自分を支持すると言っていたから。
「公子、それでは私が不義の輩になってしまいます」
郭図は辛そうな顔を浮かべたが内心では喜んでいた。
袁紹が袁譚を後継者とし、田豊を牢から出した時から郭図は危機感を持っていた。
そして袁譚が田豊、沮授と親しくなるに連れその危機感がより大きなものになった
二人の仕返しを恐れた郭図は自然と袁尚を選ぶ事が正解だと思った
「先生、お願いします!ご助力を!」
袁尚はもちろん劉備のようなサッパリした跪きは無く、ただ拱手した
郭図は客間で歩き回り、しばらく頭を回転させた
「公子、今はやるべき事が二つあります!」
「何でしょうか?」
袁尚は嬉しそうに聞いた
「その一、長公子が朝廷の命令を無視して冀州の不法占拠を非難すること
その二、これが一番大事です!明日から軍営へ行き、この前敗退した時の急行軍を非難すること!あれのせいで多くの兵士が餓死し、その不満を長公子に向けさせましょう!」
指南を受けた袁尚は"なるほど!"という顔で郭図に拱手した
「この一手があれば必ず上手く行く!ありがとうございます!」
「公子、私が陰で支えますのでご安心を!しかし今夜私とお会いした事はどうか内密にお願いします」
郭図は慎重に話した
「何故です?」
「何故なら...」
郭図は両手を後ろに組み、長くため息をついた
「何故なら、私は公子のために再び長公子の元に戻ります!これなら長公子の計画を知ることができます!」
郭図はサラッと嘘をついた、彼の本当の目的は両方に賭ける事。
これならどっちが倒れても自分は安全圏に居られる
しかし袁尚はその本心を知らなく、ただ自分のために危険を冒せる郭図に感動した。
「先生は僕のために危険を顧みずに...ありがとうございます!」
「公子、この郭図は他に長所は無くただ忠義を重んじます!郭図、行きます!」
言い終わると、袁譚をあっさり裏切った郭図は出口から去って行った。
月の明かりで郭図の影が引き伸ばされ、その後ろ姿を大きく見せた!
「曹操は二桃殺三士をするつもりだ!」
牢から出たばかりの田豊が目を細め続けて言う
「公子、今この時二公子と三公子は既に動いてるかもしれません!その前に行動に出なければいけません!」
「どうやって?」
袁譚は驚愕した顔で聞いた
彼は今でも袁紹の遺言通り、弟たちを守る事を忘れずに居た。
「二人を刺史府に軟禁しましょう!で無ければ何が起きるのか想像もつきません!」
「それも速くせねばなりません!」
沮授の提案に田豊も補足した
本当に二弟と三弟を手に掛けるのか...?袁譚は内心で闘争を始めた
「主公、このような不義な行いをすれば人心を失いますぞ!」
田豊と沮授の反感を買う郭図の声が響き渡った
そこから郭図対田豊、沮授の舌戦が始まった。
郭図は道徳を武器に、田豊と沮授の骨肉の争いになる提案を否定した
田豊と沮授の主張は、今手を打たなければ鄴県は血で血を洗う過酷な戦いが始まる、先代の築き上げた成果が全て消えてしまう
そして袁紹の優良な遺伝子を色濃く引き継いたのか、袁譚も優柔不断になってしまった
最終的に舌戦に勝ったのは郭図だった、袁譚は袁煕袁尚をただ見張らせるだけで終わった。
たったの三日間、袁煕袁尚の扇動で急行軍に対する不満が軍営中に広まって、叛乱の前兆が現れた。
袁譚が抑えようにも時すでに遅し、袁煕袁尚の支持者が二三万にも達し、もはや平和的に鎮静は無理になった
鄴県、勅令が届いてから僅か十日が過ぎて官渡の戦いに続け、血戦となった!!
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