百六十八話 功労者、郭図

しばらくしてから袁紹はついに立ち上がって背後の地図に振り向いて旗封山の場所を探し始めた。


それを見ると許攸はドキッとした。

何かがおかしい!許攸の直感がそう言った。

許攸は跪いてる郭図をチラッと見て、今なら邪魔されないと思って前へ出た

「主公、恐らく旗封山は敵の餌かと思います」


「ほう?」

袁紹が振り向き許攸を直視した

「子遠、考えを申せ」


「主公、我々も開戦以来曹操軍の倉庫を探すために偵察兵を出していましたが何の成果も得られませんでした!つまり敵は隠密な輸送道があるはず。なのに我が軍が二回負けて士気が低迷している時に敵は白昼堂々と運搬を始めた。これは我が軍の奇襲を誘って居るとしか思えません」

許攸の話で袁紹は深く頷いて賛成を表した


手柄欲しさに出て来た袁煕も理解した


千載一遇の好機だぞ!失ってはならない!怯え過ぎだ!

地べたに居る郭図は不満に思ったがこの状況では口を開く事もできない


袁紹は深くため息を吐き出して手を振り

「一先ず直れ」


出撃を乞う武将たちが立ち上がると郭図と袁尚もついでに立ち上がった。


「曹操は偽装降伏の後に兵糧で我らを釣ろうとしておる、その手に乗る訳には行かないな」


主公、許攸に騙されてる!ここは奇襲するべきだ!

郭図は意見も言えずにただ心の中で叫んだ


「子遠、これからどうすべきか、お前の意見が聞きたい」

やはり郭図の邪魔が無ければ私の話に耳を傾けてくれる!

許攸は拱手して話を続けた

「主公、我が軍は二敗したものの兵力が依然と曹操軍の三倍あります。私は二つの方針を提案をします。どちらも曹操軍を破ることが出来ます!」


「ほう?」

袁紹は目をキラッとさせた

「速く申せ」


「一つは前にも言ったように、ここに二十万の軍勢を残して曹操軍を牽制する間に許昌を十万の兵で奇襲する事。そしてもう一つは十万の兵を許昌では無く青州から徐州に攻め入る事です。徐州は中原で重要な位置にあり、我が軍はこれにより曹操軍を挟み撃ちできる状況を作れます!」


すごそうに聞こえるがその実は目先の事しか見えてない!匹夫の意見だ!速く黙れ!

郭図はどうしても旗封山を奇襲させたかったのかとても悔しそうにしている


袁紹は再び考え出した、許昌を奇襲する事自体に対しては失敗しない自信はあったが天子を迎え入れるのが面倒くさくて嫌だった


最終的に袁紹は決断を下した

「子遠の意見を取り入れる、後日十万の兵力で徐州を攻めよう!」


「主公ご英明、この方針で行けば曹操軍は破滅あるのみです!」

自分の意見がやっと通って許攸の気分は爽快痛快そのものだった。


「延津の兵を連れて本隊に合流するように沮授に伝令を出せ!もう曹賊に付け入る隙を与えるな!」

袁紹の命令で官渡の本陣も慌ただしくなった


この日の夜、袁紹軍本陣では一人の男が眠りにつくことができなかった。

郭図である、彼は夜空を見上げて、どうして自分のような優秀な人がここまで落ちたのか理解できなかった。

もし袁紹が許攸の方針で事を進めば結果は二つあるのみ

一つは勝ち、そうなれば自分より許攸の方が信頼され、自分のしてきた事の仕返しをして来るだろう。

もう一つは負け、でも負ければ自分はもちろん袁紹自身も危機に立たされる。


詰んだな......

そう思ってる時に一人の斥候が入って来た

「先生、お手紙です」


郭図は手紙を受け取り、自分の息子からの手紙を見ると近況報告かな?と思い開いた


竹簡を読み終わると郭図は狂人のように笑いだした

「我が子が居なければ許攸の悪事は暴けなかった!」


許攸、これでお前は終わったな!これほどの手柄をあげる私を主公は再び信頼するだろう!


考えれば考えるほど浮かれた、人生のドン底に突き落とされた後這い上がるこの気持ちの落差は郭図を興奮させた


中央軍帳に居る袁紹が手紙を読み終わると愕然とした。

ここ数日、彼の気持ちも激しく上下し理解が現実に追い付かなかった。

「おのれ許攸!お前も恩を仇で返すのか!」


「主公の仁義に対してこのような狼藉は許されないものです!私が息子に調べさせなければ許攸は全軍をここで屠っていたかもしれません」

郭図は全ての手柄が自分にあると言わんばかりだった


「許攸を呼べ!」

袁紹の目尻がピクピクしていて、顔中に殺気溢れていた


しばらくすると許攸が中央軍帳に入って来た

得意げ気な郭図と殺気立つ袁紹を見れば郭図が何かをしたとすぐにでもわかった。


しかし許攸は慌てなかった、彼は金銭に貪欲で賄賂を受け取っていたが袁紹はそれを知っていて黙認していたからだ


「主公、お呼びですか?」


「許攸、お前は敵に内通しているだろう!お前のせいで全軍と主公が危ない目に遭うぞ!」


「郭図!お前の媚びを見過ごして来た!私は内通者では無いぞ!このくらいの事は主公が調べればすぐにでもわかる事!」

心当たりの無い許攸は堂々と郭図へ叫んだ


しかし袁紹は相変わらず怒りの面持ちで居る

「許攸、お前に聞く。徐州の麋家、彼らから金銭を受け取ったのは事実か?」


なんだ、そんな事か......

それなら大した事じゃない!許攸は思いっきり安心した

「はい、数月前に糜竺から受け取りました」


「じゃ何故裏切ったと認めない!」

袁紹は机を叩いて叫んだ


「主公!確かに主公が北国四州を統一した後糜竺が訪ねて来ました。しかしその理由は主公が南下した後私に推薦して欲しいだけです」


「認めたな!」

郭図はニヤリと笑った後すぐ冷たい表情を見せ

「糜竺の妹である麋貞は曹操の麒麟軍師典黙の妾である!その賄賂を受け取りながら内通者では無いと誰が信じる!」


「なんだと!?」

許攸は雷に打たれたかのように目がクラクラして居た。

糜竺の妹が典黙の妾?

今の許攸の気持ちの浮き沈みも二人に劣るものでは無かった


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