百六十七話 肉袒負荊
袁紹軍官渡本陣、中央軍帳にて自らを茨で括りつけた袁尚と郭図が真ん中に正座している
もちろんこの謝罪方法を思い付いたのは郭図である
曹操軍がわざと袁尚を逃がしたがそこから逃げ出した袁尚は酷く怯えていた
一回の戦闘で六万の精鋭を五千まで減らした事は軍規によれば斬首に当たる
言い訳を思いつかない彼が頼れるのは郭図しか居なかった
そして意見の合わなかった監督官沮授は事実を報告しようとしたが二人の命乞いみたいな謝罪を仕方なく受け入れて延津本陣に残った
この状況なら郭図はいくらでも言い訳ができる
一番奥に座る袁紹は複雑な顔をしている
目の前に正座しているのが袁尚で無ければすぐにでも処刑されただろう。
軍帳の中は恐ろしいほど静かだった、全員が袁紹の発言を待つように彼を見ていた
袁紹はどうしても袁尚を庇いたいが何を言えば良いのか分からなかった
前回は袁譚の敗北は彼自身が統率で兵権を実際に握っていた
しかし今回の袁尚は引率、軍令では五百名以上の出動は監督官の許可が必要である、それなのに袁尚は勝手に全軍を出動させ全滅た
袁譚の失敗は判断を誤った結果とすれば袁尚は軍令無視だった
この罪を無理やり押えば部下に示しがつかなくなる
歴史上の関羽も一度軍令を無視して曹操を勝手に逃がした、にも関わらず最終的に処罰されなかった
この結果に不満を持った他の人は西川に入ってもそれを批判していた
しかし袁尚の身体に刺さる棘を見て、袁紹は守りたいと矛盾していた
「郭図!尚は未だ若く経験も無いから高順を信じた、お前が居ながら何故止めなかった!」
いつの時代でも責任を取らされる人は居る
袁紹は全責任を郭図に負って貰うつもりだった
「主公!公子の責任ではありません、私にも責任がありません!」
「どういう意味だ?我の責任だとでも言うのか?」
激怒する袁紹の背中を袁煕が摩っていた
微妙な立場の次男は長男と三男が折れた所を見て自分に勝機が訪れたと思った
「主公!この事に深い理由があります!」
「言ってみろ!で無ければここでお前を処刑する!」
袁紹は殺意満々の真っ赤な目で郭図を睨んだ
ここで郭図に責任を取らせて斬首すれば袁尚の罪を追求する者も出て来ない
「主公!高順は時間通りに要塞の門を開けました、しかし公子が大軍と中へ入ると待ち伏せに遭いました!私も最初は高順の偽装降伏だと思ったけど、その時張郃が公子から離れ、曹操軍も彼を追いませんでした!張郃は、内通者でした!」
命の危機に晒されると郭図の脳内にある考えはただ一つ"人に罪を被せる"
「儁義が内通者......そんなバカな......」
袁紹は信じられない顔で首を横に振り
「有り得ない!儁義は長年我に仕えてきた、そんなはずないだろう!」
「私もこの目で見無ければ信じられません!しかし張郃はそうしました!きっと我が軍の不利を見て裏切ったのです!私も心苦しく思います!」
郭図も迫真な演技を繰り広げた
「儁義は生死不明だ、あなた一人の言葉だけでは信憑性に欠ける」
許攸の品性も才能も謀略も田豊や沮授には届かないが、手柄を立てられる策を数回提案しても郭図に邪魔された。
彼は私怨がてらにここで郭図を反論した
「父上、子遠先生!公則先生の言うように当時の僕も曹操軍の要塞に入りました、開戦の直後に張郃は姿を消した。公則先生の助けが無ければ生きて帰ることもできませんでした」
他の人が言っても信じなかっただろうが袁尚がそう言えば袁紹も納得した
許攸もこれ以上反論ができなかった、これ以上言えば郭図だけでなく袁尚まで敵対してしまうから
助かったと確信した郭図は地に顔を埋めたがその口角はニヤリと上がっていた
「おのれ張郃!我の恩を受けながら敵に通じるとは許さん!曹賊を捉えたあと彼奴も共に処刑する!」
袁紹は机を蹴り飛ばし、怒りのあまりに咳した
袁煕が再び背中を摩ろうとしても突き飛ばされた。
次男の待遇は長男と三男に比べようがない
許攸は袁紹をチラッと見て何が起きたのかすぐ察した
袁紹が本当に張郃の裏切りを信じたのなら直接その家族を捉えたはず、つまりここで張郃の裏切りを口にする事で袁尚を助けた。
もし全てが終わって、事件の真相が暴かれたら郭図はもう逃げられないだろう。
「報告!」
こんな時に一人の伝令兵が走って来た
「主公、旗封山の近くで曹操軍の兵糧運搬を発見しました!その跡を辿ると兵糧倉庫と思わしき要塞を見つけました!」
この情報で本来ピリピリしていた軍帳内はヒソヒソ話が聴こえるようになった。
この機を逃すまいと袁煕が急いで跪き
「父上、兵糧は三軍の命脈であり、これを焼けば曹操軍は敗北したも同然!五千の騎兵で行かせてください!もし失敗したら罰を受けます」
「主公、俺も二公子と共に行きます!兵糧を焼き尽くし将兵たちの無念を祓います!」
河北四支柱の最後の一人高覧が名乗り出した。
彼は袁煕の支持者では無いが顔良文醜の仇を取るつもりでいた
「俺も!もし失敗したら旗封山で自害します!」
「俺も行きます!」
「必ず成功させます!」
同時に名乗り出したのは高干、蔣奇、張南等の武将だった
袁紹は帥椅に戻り、考え始めた
考えるなら私たちを立たせてよ庸主!
長らく跪いた郭図の内心は不満が溜まっていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます