百五十九話 徐庶の作戦

両剣山の地形は険しく待ち伏せに適していた、しかし山の抜け道も多く、張飛と関羽の挟み撃ちに遭っても曹仁と夏侯淵は意外と簡単に逃げられた。


「へっ、逃げ足の早い奴らだ。俺の丈八蛇矛が未だ披露できてないぜ!不快だ不快だ!」


「フン、曹営鼠輩、逃げずしてどうする」

関羽の吊り目から見下す眼光が漏れ出した


「雲長の言う通りだ!さぁ、軍師の命令だ、曹操軍の鎧と旗を回収しろ!モタモタしてたら俺の鞭が飛んで行くぜ!」


一勝して浮かれる張飛は荊州軍が劉琦の物である事をすっかり忘れていた。


統計のあと曹操軍を五百名殲滅したとわかった


そして同じ日の夜関羽と張飛は五百名の荊州軍と共に曹操軍の装備に着替えて曹仁と夏侯淵の旗を掲げて魯陽へ向かった


「将軍のお帰りだ、速く城門を開けろ!」


「暗号を!」


「お前の目は節穴か!曹仁将軍と夏侯淵将軍の旗が見えないのか!兵糧を守りきったんださっさと中へ入れろ!」


衛兵たちは松明で照らされている旗を見て仕方なく門を開く

「開門!」


関羽と張飛が互いに顔を見合わせニヤリとした


城門が轟音と共に開く時に荊州軍たちは皆懐から白い布を取り出して左腕に巻き付けた、敵と見分けを付ける印だ。


「行くぜ!」

張飛が真っ先飛び込み、丈八蛇矛を振り回し、六七名の曹操軍が血煙を上げて倒れた。


それと同時に背後の騎兵たちも波のように押し寄せた。


魯陽の守備軍が事情を理解する前に門外の荊州兵たちが全数城内へ入った。


騎兵自体の数は二百程度だが無防備の曹操軍は抵抗に手こずった


そして歩兵部隊は階段を駆け上がり関門を奪い曹操軍の大旗を切り倒した


六千の兵が守っていた城は指揮者不在のため、電光石火の奇襲により落とされた。

多くの曹操軍は何が起きたのか知らないまま戦死した。


僅か二時間で城内の守備軍が粛清された。

もちろん逃げ出した曹操軍も多く居たが夜のため関羽たちも深追いし無かった。


南陽と穎川の間に聳え立つこの重要な城がこうも簡単に手に入ると、劉琦と劉備は夢にも思わなかった。


曹仁と夏侯淵は逃げ出しが前回のように道中の関門で抵抗して時間稼ぎをする兵力も無くなっている。


劉備は徐庶の手を取り魯陽の城壁へ登って北の方を眺め、いつの間にか涙が流れていた


「先生!この劉備兵を上げて十数年、負けた戦は数知れず、今日のような勝利はありませんでした!先生は殆ど一兵卒も失わずに曹仁と夏侯淵が守るこの城を落とした!先生こそ千年不遇の大才!先生は私に勝利だけでなく信念も与えてくれた!きっと賊を滅ぼし、漢室の復興する未来はそう遠くない!」

劉備は深々と一礼をした。


徐庶もこれには感動し、急いで劉備を起こした

「主公!これからも全力で補佐します!」


「先生が居れば曹賊などおそるるに足りない」

劉備は更に徐庶の手を握り締めた、この時の徐庶は既に劉備の精神を支える信仰になっていた。


「アッハッハッハッハッ!軍師!この張飛も今日は痛快だった!曹操軍の動きが軍師の予測通りだった!唯一曹仁と夏侯淵を討ち取れなかった事が残念だ!」


「曹操は典黙を麒麟の才などと謳っていたが私から見れば軍師の前ではただ插標売首の鼠輩に過ぎない!」

隣に居る関羽も青龍偃月刀を握り二尺しか残ってない髭を撫で下ろした。


関羽と張飛の褒め言葉は徐庶を浮かれさせる事は無かった

友達のために人を殺めた徐庶は水鏡先生と出会ってからから心を養う修行に励み、心持ちの大切さを知った

張飛の暴力さも関羽の傲慢さも将に相応しくないと思っていた、しかし今は二人とはそれを言えるほど仲良く無い

「典黙の策はいつも相手の心まで攻める、彼は間違えなく麒麟の二つ名に相応しい。本当に彼と対峙する事があれば必ず勝てるとは思えません」


関羽と張飛は少しイラッとした、褒めたのに素直に受け取れよ…


「先生は私たちを鞭撻しています、何時いかなる時でも傲慢になり過ぎるなという事ですね」

劉備は大きく頷いた、今の劉備にとっては徐庶が何を言っても正しく思えた


「軍師殿、どのくらいで陛下を救い出す事ができる?」

劉琦も興奮していた、ここまで事が順調に進めば彼も速く劉協を助け出したかった。

劉協を手に入れれば自分も荊州の主に返り咲く事ができるからだ。


「曹仁と夏侯淵は三渓関門へ逃げたが兵力が少ない。一番いいのは強行突破!

上兵伐謀、其次伐交、其次伐兵、其下伐城。しかし今は時間との勝負です」


兵法では一番いいのは謀略で相手を打ち負かす、その次は同盟を作ったり崩したりすること、そしてこれらができなければ相手の兵力を削る。攻城は最も効率の悪い方法、それでも使わなければいけない時もある。


いつもなら強行突破を嫌がる劉琦も頷いた

「先生がそう言うなら、一晩休息して明朝に関門を攻めましょう」


曹仁と夏侯淵も夕方に三渓関門に着き、事態の重大さに気付き、魯陽から援軍を頼もうと伝令兵を出したが夜になっても返事が来ないと見て諦めて官渡へ救援を出した。


そして魯陽城から逃げた兵士も三渓関門に集まり、三渓関門に居る曹操軍は辛うじて二三千になった、それでも荊州軍の強攻に対しては数日と持たないだろう。


「おのれ!デカ耳劉備!この曹仁必ずお前の耳を切り落として酒のつまみに食って……妙才に食わせる!」


夏侯淵「おいっ……」

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