百四十七話 勝敗の行く末

「名乗れ、無名の鼠輩は斬らん」

せめて武勲を挙げた時に相手の名前や役職を報告することによって褒賞が貰えるように、文醜は向かって来た典韋に名前を聞いた


「陳留の典韋だ」


典韋の双戟を見てから文醜はニヤリと笑い

「お前が呂布と引き分けた典韋か?よし、どのくらいの物か試させてもらおう!ガハッハッハッ!」


勝負欲により文醜はただ単に興奮した。

曹操軍の主力武将である典韋が何故ここにいるのかも、文醜は少しも気に留めなかった。


文醜は顔良と同じく、呂布と戦えなかった事をずっとは残念に思っていた。

今日はあの呂布と引き分けた典韋と戦える事で満足感を得られると期待した


文醜は馬の腹を足で強く挟み、典韋に向かって来た、同時にその宿鉄金槍を龍のように典韋の顔目掛けて突き出した。


典韋は落ち着いたまま左の戟で弾いたと同時に右の戟で攻撃した。

文醜も空かさず槍の柄で襲って来る戟を防いだ。


なるほど確かに子龍の言う通りだ、やるなぁ


たったー手合いで典韋は文醜の力量、速度、槍法をある程度把握した


まぁ、それでも子龍には程遠いが短期決戦は簡単じゃない。

仕方ない、子龍の言う通りあの手で行くか……


力を抜いて戦ってる典韋はすぐ劣勢になった。


宿鉄金槍が典韋の胸元を掠ったあと、典韋は馬を引き返し白馬城の方へ走り出した。


「ガハッハッハッ!噂など全く当てにならないな!こんなものか?首を差し出せ!」


背後の袁紹軍が応援する中、文醜は少しも疑いをせず、そう遠くない典韋へ走って詰め寄った


絶影に乗った典韋までの距離はあと数歩!

文醜は次の一撃で典韋を仕留めるつもりで既に準備万端!


すると典韋は双戟を鞍と足の間に差し込み、両手には鳳翼金戟を持って後ろへ振り向いた!


シュッシュッ!


文醜は意気揚々と追いかける時に真っ直ぐ飛んでくる投戟を目にした瞬間、反応もできずに胸元から冷たい感触が伝わって来た。

その後文醜は無念の顔をして馬から転げ落ちた


「勝った!勝ったぞ!」

城壁に居る曹操軍が勝鬨を上げた


予定通り、文醜の戦死をきっかけに趙雲と許褚も陥陣営を率いて城門から突撃した。


「文醜将軍が討死!」

「に、逃げろ!」

誰かが一声を上げたあと、袁紹軍の一万歩兵がやっと状況を理解して逃げようとした。

混乱した軍が乱れ、転倒して仲間により踏み殺された兵も少からずいた。


白馬城の守備隊もこれに乗じて追い討ちを仕掛けた、間抜けでない限り皆直感的にやるべき事がわかっていたからだ


陥陣営は重装備の騎兵で機動力が普通の騎兵より劣っていても歩兵よりは速い

十数里追い討ちした後に趙雲の命令で引き返した、でなければ黄河沿いまで追い詰めては死を覚悟した抵抗に遭う事になる。


黄河の北側、騎兵を載せた船がやっと到着した


河を渡ろうとした顔良が南から帰ってくる船を見ると内心嫌な予感がした


「何事だ!」

顔良はその内の一名に掴みかかり聞いた


「死んだ!文醜将軍が敵将典韋の手で討死ました!」

問い詰められた兵士は真っ青な顔をして酷く怯えていた


顔良の心がぎゅっと締め付けられ、悲しみが脳内を駆け巡った

「ありえない!兄弟に勝てる奴が居るはずない!何が起きたんだ!典韋はなんで白馬城に居る!他に援軍はあるか言え!」


激高した顔良はその兵士の胸倉を掴み持ち上げた。

持ち上げられた兵士は足をバタバタさせて

「いません、他に援軍の姿を見ていません!なんで典韋が白馬城に居たのかもわかりませんが、文醜将軍と戦って六手合いで逃げるふりをしました。文醜将軍が追いかけると突然小戟を投げ付けられて……」


顔良は真っ赤な顔でその兵士を横に放り出して

「全軍河を渡れ!目的地は白馬城だ!」


「はい!」


顔良の号令により、一万の騎兵と先程逃げ延びた五六千の歩兵が再び河を渡り始めた。


船を降りると整列するも待たずに顔良が騎兵一万を連れて白馬城へ向かった。


今の彼には典韋を打ち取る、ただ一つの思いしかなかった。


白馬城へ向かう道中、そこら辺に転がる袁紹軍の死体を見れば顔良は更に怒りを強くした。

今の顔良は既に城内無差別虐殺の事を考え始めた


「典韋!俺は冀州上将顔良、さっさと出て来い!」


「復讐!復讐!復讐!」

手には玄鉄破金刀、鳴夜白鬣馬に跨った顔良は真っ赤な目で城壁にいる曹操軍を睨んでいた


城門が再び開いた、しかし今回出てきたのは三人だった


真ん中に典韋、左右には許褚と趙雲。

秋の西日は低く、三人の影を長く伸ばしていた


西日の眩しさに顔良は目を細めて左手を額に当てて、ゆっくり近づく三人を注目した。


双方の距離が三十歩程離れたところで典韋たちが足を止めた。


動物の勘は鋭く、鳴夜白鬣馬は低い鳴き声を出しながら数歩後退りした。


「お前が典韋か!」

顔良が典韋の双戟を見て怒鳴った


しかし典韋たちはまるで聞こえなかったかのように更に近づいた


まるで目の前には何も無いような三人が放つ雰囲気は、この河北一で四支柱首席の名将である顔良をも怯ませた。


正直背後の軍に出撃命令を出したい!

しかし武将である気骨がそれを許さなかった、そして何よりも自らの手で文醜の仇を取りたい気持ちも勝っていた。


遂に双方の距離が十歩程近づき、顔良が逃げられない事を確認した典韋が口を開いた

「顔良とか言ったか?待たせて悪りぃな、文醜に会いてぇだろ?大丈夫だ、すぐ終わる…」


秋風が地面のホコリを巻き上げ、合図でも得たかのように三人が一斉に顔良へ飛びかかった!


絶影、爪黄飛電、玉獅子が電光石火の如く顔良の前まで詰め寄った!


顔良も勇気を振り絞って三人に立ち向かった


双戟と大刀がぶつかり、力自慢の顔良も玄鉄破金刀から伝わる典韋の怪力に驚いた

両手が痺れて言うことを聞かない内に火雲刀と竜胆亮銀槍が顔目掛けて飛んで来た!


顔良は辛うじて上半身を伏せて躱すと既に背中を掠った竜胆亮銀槍が再び目の前に現れた


どうなっている!?などと考える暇もなく竜胆亮銀槍は既に顔良の上半身を蜂の巣にしていた


それと同時に視界がぐるぐると回り始めて、自分の身体を初めて客観的に見た顔良の目には、血柱が上がってる首から火雲刀が薙払われたのが映った。


顔良が倒れた後、既に準備万端の陥陣営が再び出撃した。

重装備の彼らが既に十里にも及ぶ追撃を一度したにも関わらず全く鋭気が減らなかった。

百戦精鋭のフレコミを裏ずけたのはその実力だった


将とは兵士の肝っ玉、冀州上将の一位と二位が同じ日に同じ場所で同じ軍に惨殺された。

この出来事は士気への打撃は壊滅的だった


袁紹軍の騎兵も歩兵もただ単に顔良の死体をボーと見ているだけで逃げる事すらも忘れたかのようだった。


「殺れ!」

典韋の一喝により、陥陣営が鋼の刃のように袁紹軍に突き刺さった。


怒号と喚き声がいり混じる中、白馬城への強襲は始まる前に終わった!

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