百四十六話 急襲、白馬城
鄴県から南へ二百里離れた所に昌黎県があり、冀州の領地で一番黄河に近い城である
そこから黄河を越えれば曹操の領地、白馬城が目の前にある
袁紹軍が黄河で曹操軍と水戦を避けるには先ず白馬城を手に入れ、そこを拠点にする必要がある。
命令を受けた顔良と文醜は既に昌黎に到着していた。
黄河沿いに上将鎧を身に付けた文醜は激しく流れる黄河を眺め
「兄弟、騎兵を載せた船は未だ着いていない、俺が一足先に河を渡り白馬城を落としてからそこで合流しましょう!時間の節約にもなるし」
右頬に十字傷がある顔良は頷いて
「それもいいかもしれない、白馬城を見張る偵察の報告によれば二ヶ月前に千人程度の兵が城内に入った以外に増援を見ていない。元々の三千守備兵と併せても四千前後だ。先に行って恫喝による開城が出来ればそれで良い、できなくても俺が合流してから攻城しよう」
二人の意見が統一してから二万の歩兵先鋒軍のうち一万が黄河を渡り始めた
顔良は馬から水嚢を取り出し文醜へ投げ渡した
「兄弟、前祝いだ」
「おう!やってやるぜ!乾杯!」
水嚢の中身は強い酒、二人が水嚢で乾杯してからガブガブと二三口呑んだ
文醜は水嚢を隣の兵に投げてから颯爽と船に乗り河を渡り始めた
顔良「兄弟!!」
「どうした?」
船に乗った文醜が振り向いて聞いた
顔良は少し何かを考えてから南の方へ見て
「いやっ、なんでもない。気を付けろよ!」
文醜「ハッハッハッハー!小さい城だ、心配すんな!城の中で待ってるぜ!」
文醜の船が船団に入っていくのを見届けた顔良の表情は少し不自然だった
騎兵を載せた船が未だ着かない事を知っていても顔良は黄河の上流を気にしていた
「将軍、どうしました?」
顔良の様子が少し異常である事に副将の馬延が少し気になった
「いやっ、なんでもない」
そう言いながらも顔良は少し不安そうに首を横に振った
「何故か今日は嫌な予感がしてな…」
馬延は少し笑って
「将軍と文醜将軍は常に刀剣乱舞の戦場を駆け巡り、幾度も修羅場を潜り抜けてきました。それに比べれば白馬城四千の敵程度では取るに足りません。もしかしたら我々が渡った時にはそのまま城内に入り休息する事ができるかもしれません」
顔良はため息をついて
「騎兵の船を急がせよう!」
「はい!」
一万の歩兵を運ぶ船団は小さかったため、雲梯などの攻城機材を積んでい無かった
しかしそれも大した問題では無い、河北の名将で四支柱二番目の文醜が居れば曹操軍に抵抗できる度胸も無いだろう
袁紹軍の皆がそう思って、河を渡った後三十里の山道を抜けて白馬城の近くに着いた
通常ならそこで本陣を築いて休息してから攻城戦に入るが、文醜から見れば白馬城の方が休息場としてより相応しい
「城壁の鼠輩共、よく聞け!俺は河北の上将文醜!大将軍袁本初の命令により白馬城を受け取りに来た!さっさと城門を空けろ、お前らの命だけは保証してやろう!」
「必勝!必勝!必勝!」
文醜の挑発に袁紹軍の鬨声が呼応するように響き渡った。
城門の上、二ヶ月前から既に白馬城で待っていた典韋、許褚、趙雲の三人はこれらを見てホッとしていた。
許褚「やっと来たか…」
趙雲「子寂が来ると言っていたから疑わなかったが、本当にここへ来るなのが驚きですね」
典韋「でもよ、一人だけじゃん?もう一人はどうしたんだろ」
趙雲「子寂の予想が外れるとは思えません、顔良もこの後に来るでしょう」
許褚「とりあえず子寂の言う通りにコイツをサクッと殺っちまおうぜ」
典韋「俺が行こ!」
許褚「文醜は俺が殺るって先話し合っただろ」
典韋「うるせぇな顔良をくれてやっからよ、それで我慢しろ」
許褚「嘘じゃないだろうな、お前最近笮融とばっかつるんで影響受けたじゃないのか?」
典韋「デタラメ言うな、そんな訳ねぇだろ」
いつも通り、虎賁双雄の口喧嘩を聞いていた趙雲が仲裁に入る
「子盛、この人もなかなかの武芸を持っている、短期決戦目指すなら一筋縄ではいけない」
典韋「子龍、コイツを知ってんのか?」
趙雲が人を褒めるのは珍しい、典韋は少し興味を持った
「あれは七年前ですね、僕が山を降りて公孫将軍の配下に加わり、この人は十の手合いで公孫将軍を打ち負かした。公孫将軍配下の武将四人に囲まれてもそれらを逐一斬り捨てた。僕も将軍を守ろうと五十手合い戦ったが、その時公孫将軍が無事脱出したのを見て僕も戦場を抜け出した」
「コイツ、お前と五十手も戦ったのか?」
典韋と許褚は驚いた
趙雲は少し恥ずかしそうに
「あれは最初の実戦で百鳥朝鳳槍も未だ使いこなせなかったので」
二人がホッとしたのを見た趙雲は油断しないように注意を促す
「七年経った今、文醜がどのくらい実力を伸ばしたのかは分からない。」
趙雲の心配も過剰な物ではなかった、彼自身もまた戦場で腕を磨き上げ、呂布を目標に七探蛇盤槍を編み出したから
趙雲と五十手以内では五分五分と聞いた虎賁双雄ももちろん舐めた気持ちを収めた
そして城門外の挑発が増々うるさくなって来た
「おい!聞いてんのか!あと一時間だ!一時間後は攻城するぞ!」
白馬城の守備兵は皆雑兵、典韋たちが居なければ既に城門を開けて投降していた。
許褚「三人一斉にかかろうぜ、時間の節約だ」
確かに三人一斉にかかれば呂布にすら余裕で勝てる、文醜一人なら確実に秒殺
趙雲「ダメだ、子寂が言うには一騎打ちじゃなければいけない。そうでなければ顔良はきっと有無を言わさずに攻城戦を仕掛ける。今の城内は陥陣営と三千の屯田兵しかない、一瞬で負けてしまう」
許褚「そうか、確かに一騎打ちじゃないとダメだな」
趙雲「子盛、任せた。あの手を使おう!」
典韋「おう!」
趙雲の目から作戦を読み取った典韋は城門の方へ向かった。
典韋「陥陣営も準備できてるか?文醜を討ち取ったらすぐに追撃だ」
「おう!」
許褚が典韋の肩をポンと叩いて彼を送り出した
そして城門が開き、絶影に跨った典韋が一人ゆっくりと出て来た。
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