百四十四話 三大将、北上
この日の夜、典黙はデレデレしながら西の客間で厳婦人親子と共に夕食をした
「あぁ、そうだ、明日から許昌から送り出せるよ」
親子の目が輝いた
「明日、兄さんが陥陣営を率い許昌を出る、その中に紛れ込んでいれば城外に行った後何処にでも行けるでしょ」
言い終わると典黙は持ち込んだ包みを指差して
「この装備は結構重いので、大変かもしれないが…」
厳婦人「大丈夫です、私は武芸の嗜みはありませんが畑仕事をしたことがあります。鎧くらいは平気です!」
厳婦人は喜んでいたが呂玲綺は何を考えているのか、ただ黙々とご飯を掻き込んでいた
食事が終わると典黙が離れた後、厳婦人は諭すように呂玲綺に話しかけた
「玲綺、明日から旅立つのですよ、彼に何か話す事あるのでは無いか?」
「何を話せばいいのか…わからないよ…」
呂玲綺は落ち込んだ風だった
「玲綺、私は君を彼に許嫁したにも関わらず彼はこの二ヶ月の間私たちを客人としてもてなした。彼は責任感のあるいい男よ」
厳婦人は呂玲綺の髪を撫で
「それに君たちの事は父上にも知られたでしょ?ただ諸葛適当が典黙である事を知らないだけ。今夜夫婦の儀をしても良いではないか?」
母として厳婦人はもちろん娘を正式に嫁がせたかったが今の状況は許してくれない
それなら二人が肌を重なった事により、呂玲綺が困っていたら典黙も救いの手を差し伸べるだろう。
典黙はちゃらんぽらんに見えて情に厚い、今回の件がその証拠になる。
厳婦人は呂玲綺を化粧台に座らせ、桃木の櫛で上から下へ呂玲綺の髪を梳かしたと同時に夫婦の儀について詳しく説明していた
いつも高姿勢な呂玲綺も厳婦人の話を聞けば耳まで顔が真っ赤になった
夜、風呂上がりの典黙が部屋へ戻ると部屋の灯りは未だ着いていないが、窓から零れ込む月明かりで自分の寝床に一人が横たわっているのが見えた。
典黙は少しも不思議に思わなかった。
遅い、遅かったぞ!この日を待つために二ヶ月も羊の皮を被っていた!
月明かりしかない部屋は少し薄暗く、典黙の顔を照らすまでにはいたらなかったが彼の顔は恐らくニヤニヤしていた
典黙が寝床に腰を下ろすと呂玲綺は布団を頭の上まで掛けた。
少し待つと布団から呂玲綺は両目を出して典黙を見た
「玲綺、武芸の鍛錬じゃないから緊張しないで!」
典黙の荒い息交じりの耳打ちを聞いた呂玲綺は首筋から下が全部痺れた感覚に襲われた
呂玲綺は典黙の言われた通りに緊張を解したあとは典黙が空かさず寝床に入り
「徐州でのは初夜とは言わない、本当の初夜を教えてあげる」
翌日典黙は呂玲綺の髪に起こされた
「そろそろ出発だ」
典黙は呂玲綺の髪から漂ういい匂いを嗅ぎながら言った
少し名残り惜しいが仕方がない
「次はいつ会えるの?」
呂玲綺は物心付いて以来家族以外にこの言葉を話したことは無かった。
この時代では一度離れれば再会する事はとても難しい。
たくさんの男女は二度と再会することなく一生を終える。
「来年の春、花が咲く頃に!その時が再会する時だ!」
典黙は呂玲綺の頬を手の甲で撫でたあと寝床から降りた。
準備が整ったあと、厳婦人親子も鎧を身に付けて典韋、典黙と共に外へ向かった。
許昌北門、八百陥陣営の中に交じっている厳婦人と呂玲綺を見ていると典黙の内心は感傷的になっていた。
呂玲綺も同じように典黙を見ていた
そして城外へ出ると呂玲綺は再び声の出ない唇語で「待ってる」と言って厳婦人と共に隊列から離れた。
典黙は遠くなるその後ろ姿が消えるまで見守っていた。
徐州の洞窟でも離れた時、呂玲綺は同じように唇語で同じ事を言っていた。
洞窟で離れてから既に二年の月日が経った。
この感覚が典黙を心苦しくした、典黙は空を仰向け内心で離別を感嘆した
「子寂、この度僕らはどのくらいで戻って来れる?」
気を紛らわすためか、趙雲が典黙に声をかけた
典黙「早ければ一ヶ月、遅くても三ヶ月かな」
典韋「そんなかかるの?じゃ来月に行けばいいんじゃねぇ?」
典黙「どういう理屈だよ…兄さん、今の袁紹は幽州を管理する事と捕虜の処遇で忙しいから、こっちに注意力を向けていない。袁紹に気付かれないように動くには今が一番いい」
許褚「子寂、子盛は弟離れができてないだけだよ。昨日の夜も"せっかく帰って来たのにまた離れるのか"とかグチグチ言ってたぜ。へっへっへっハッハッハ…」
「兄さん、次兄、三兄。僕は許昌に居るので安全です。兄さんたちこそ千軍万馬を相手にするのでくれぐれもお気を付けて!」
典黙は三人の兄と逐一抱擁して別れを告げた
三人も陥陣営と共に北へ向かい、やがて地平線で後ろ姿も消えた
「この贈り物は袁紹へどのくらいの痛手を与えるのだ?」
城門外で見送りをした典黙は突然後ろから声をかけられてピクっとビックリしていた。
「丞相!」
典黙は一礼をした
「丞相は少しご機嫌ななめに見えますが、どうしました?」
曹操は何も言わずに手招きをして着いて来るように示した
二人は散歩しながら城壁の守備を見廻りながら世間話のように語り合った
「奉孝の統計によると袁紹の兵力は四十五万、武将だけでも千名以上。そこに加え霹靂車、戦車、井闌車も無数にある。対して我が軍は総力十二万、その内新兵も数多く居る、それらが怯え無ければ良いが、そうもいかない……」
正直言って典黙も余裕で勝つ自信が無かった
過去に戦った呂布も袁術も策無しの蛮人、しかし袁紹には沮授と田豊が居る。
この二人の実力も郭嘉と賈詡に引けを取らない
仮に歴史上の袁紹がこの二人の策を聞き入れれば曹操は恐らく負けていただろう
袁紹が歴史通りに間抜けで二人の話に聞く耳を持たないなら良いが……
典黙はため息をついて
「丞相、ご心配なく。二つ目の贈り物は必ず袁紹軍の士気を避ける事に成功します!しかし決戦の結果は未だ読めません…」
典黙が真剣に話すのを見た曹操は逆に少し安心した
「二つ目か…三つ目の贈り物はいつできるんだ?」
「既に手配してあります、麋家の力を借りる事になるますので手紙を出しました」
「麋家?」
曹操は眉間に皺を寄せた
「彼らすらも活用できるのか?兵力は要るか?」
「いえ、兵力では無く財力が必要になりますので彼らが一番ふさわしいです」
典黙が袁紹への贈り物全て整えたのを知った曹操はそれ以上何も聞かなかった
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