百四十一話 二重基準の曹操

虎賁双雄の働きは見事だった、曹操は嬉しそうにしていた

「二人ともよくやった!武勲をあげただけでなくついでに子寂の嫁も探し当てた、名声を悪くしていないのは正解だ!これからも領地と共に百姓の心も手に入れ無ければいけない、民の心を傷つけば如何に強力な軍を有しても上手く統治できないからだ」


今の曹操も少し名声を気にし始めてきた、正直"天子を人質に取る"と言う汚名を彼も嫌に感じて居た


そして曹操は馬車を見て虎賁双雄に聞いた

「馬車には何が入ってる?」


虎賁双雄は互いに顔を見合わせて

許褚「丞相、名声を壊す事になるかもしれません……」


曹操「何?今度は何をやらかした?」


「袁術の未亡人呉氏と呂布の奥さん…」

典韋は少し気まずそうに言った


曹操大喜び!


鼻の下を伸ばす曹操を見て皆愕然とした、まるで先まで名声がどうとか言っていたのは別人のようだった。


失態に気づいた曹操はゴホンッと咳払いをして背中で両手を組み

「二人は初犯で武勲もたくさんある事に免じて今回の罪は不問とする、次同じような事をしたらあれだぞ!馬車の二人はまだ重要な情報を持っているに違いない、我が邸に連れて行け、我が直々に拷問する!」


典黙「大変な作業になりそうですね」


曹操は典黙の皮肉を一睨みして馬車に近づいて帳を開くとそこには二人の美しい婦人が居た


しかし曹操は二人とも知らない、貂蝉が居なかった事に少しガッカリした

「子盛、呂布の奥さんって言ったではないか、貂蝉は何処だ?」


「貂蝉?誰ですか?呂布の奥さんは厳氏って言うらしいですよ。淮南で呂布を追っ払ってからこの婦人を捕らえましたよ」


「そうか…まぁ、よくやった。しかしこの事は他言無用だ、ここに居る人に知られてはならないぞ」


「任せてください!」


「では諸君、中へ入ろう!既に酒宴の用意は整えてある、好きなだけ飲み食いせよ!」

曹操は手を叩いて全員と一緒に城内へ入った


張遼と高順は互いに顔を見合わせてから馬車を見て少し複雑な気持ちになっていた


厳婦人は呂布の正妻、今ではこのような境地に至ったのは二人も少し後ろめたい気持ちになっていた。


二人は厳婦人の状況を哀れんだが何もできない、今は曹操の部下、増しては二人とも立場は降将。

下手に口出しをしては自分の身も危ない。


宴会では虎賁双雄は酔っ払って南征する時の事を自慢げに語っていた

二人の話によれば呂布は既に昔の威名には程遠い。


それでも二人は嘘を着いたりはしなかった、呂布との対戦は二人がかりである事を事実通りに語り。

一対一ではどうなのかと聞かれれば二人ともへへへっと笑って誤魔化した。


腐っても呂布は呂布、その武力は歳と共に減ったとは言っても天下無敵を誇り続けている、七探蛇盤槍を編み出し、関羽の髭を刈り取った趙雲ですらも未だ埋まらない実力の差を感じていた


関羽もわざわざ呂布の死を待ってから天下の武人を插標売首と罵った


宴会はいつも通りに深夜まで続いて、虎賁双雄はお互い支え合って妓楼攻略に向かった。


曹操もやると言えばやる男、厳婦人と呉婦人を"拷問"しに向かった


少ししてから丞相府にて、美しい呉婦人が曹操の部屋へ届けられた。

薄暗い油灯が呉婦人の白い肌を照らしだしていた


曹操「婦人は今宵我と同衾しても?」


呉氏は少し怯えた顔で曹操を見て軽く頷いた


曹操が嬉しそうに一歩前へ出たその時に扉を叩く耳障りな音が響いた


曹操が扉を開くとそこに居たのは曹洪だった


「丞相!先程呉婦人を連れて来た後に駅館に刺客が現れ、厳婦人を連れ去りました!」


「何!!!」

曹操のこめかみに血管が浮き出て激怒した


自分がいただく前に奪われた!?


「何をぼさっとしている!城門を全て閉ざし一家一戸探せ!草の根を分けても探し出せ!」


「はい!」


徐晃が校尉になってから拱衛営を率いる曹洪が警備隊の管理も任せられた

拱衛営は城壁を守るのが責務で警備隊は城内の治安を守るのが責務。

曹洪が警備隊を管理した直後にこの状況になるのも誰も予想できなかった。


幸いな事に時間は既に深夜、城門も全部閉ざされていて、刺客は必ず城内に居る

このまましらみ潰しに探せば逃げられる事も無い。


そして曹洪の報告によると刺客は厳婦人を連れ去った時に刀傷を受けている、逃げられる事は更に難しくなる。


「江南大小喬〜河北甄宓も〜渡川の後〜最後は孫尚香〜」

自宅に戻った典黙は自作した歌を口ずさんで上機嫌だった。


兄さんもやるね、一発で二人も決めた。後で袁紹を倒せば甄家もおとなしく甄宓を献上するんじゃないか?めでたしめでたし!


「ヘヘヘッ…ってあれ?戸締りちゃんとしてないじゃん、使用人たちの給料から罰金だな…」


典黙が庭の門を締めに行こうとした時に庭の角に二人がしゃがんで居るのを薄ら見えた


シャキーン!

「誰!」


典黙は無意識に青釭剣を抜いて構えた。

典黙は王越の元で剣術を一年学んだ事により剣の型だけは既に完璧にできていた。

普通の刺客なら問題ないと思っても典黙は迂闊に近く事なく防御の構えでゆっくり後ろへ下がって行った


もちろん典黙の頭はキレる、このまま外へ飛び出して叫べば警備隊はすぐに駆けつけるだろう


典黙の意を理解したか右腕を抑えたままの黒ずくめの人が声をかけながら近づいてきた

「お願い!待って、人を呼ばないで!金ならある!お金をあげるから!」


そして黒ずくめの人が典黙の顔を確認してから

「お、お前は!なんでお前がここに?」


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