百三十八話 単福と水鏡先生
荊州の襄陽
穎川から帰って来た劉琦の一味は皆処罰された
劉表は劉琦を不遜不敬と勝手に兵を動かした事で問い詰めた、そして蔡瑁たちの煽動が決め手となり、劉琦は南陽へ送られて呼ばれない限り帰って来る事は許されなかった。
これは何を意味するのかは劉琦の一味もわかっていた。
劉琦が劉表の近くに居なければ異母の弟劉琮が増す増す劉表に好かれて、やがては跡継ぎになるだろう
黄忠も蕩寇将軍の官職を剥奪され、校尉に落とされた、もちろん李厳の官職も同じく一階級落とされた。
李厳は官職にこだわる人、この結果にはとても不満を持っていた
そして劉備は事件の発端なので、蔡瑁たちの言い分は朝廷に差し出す事を提案した
この提案もとても理にかなっていた、曹軍が勅令を受け袁術を討伐する時にその背後を襲うのは反逆罪と同じだから
しかし劉表は迷っていた。
そして劉表が迷っているのを見た劉備は急いで劉協の血書を取り出して、天子を救うために動いたと言い訳を並べた
なら報告ぐらいはできるだろうと蔡瑁たちが詰め寄ったが、何せ血書が本当に存在するのでこれ以上は何も言えなかった
よく考えた末に劉表は劉備を一時的に襄陽に残し、食客とした
この結果に蔡瑁はとても不満に思っていた。
劉備も劉琦も企みを心に秘め、劉備は勢力を作るために、劉琦は跡継ぎになるために動いた。
二人の目的は違えと共通の利益が彼らを繋げた、そしてその繋がりが確実に劉琮の脅威となる
弟の蔡瑁と違って蔡氏はこの結果には満足していた。
劉備に兵は無く、食客として襄陽に居ればもはやまな板に乗せられた肉塊、それを切り刻むのはいつでもできると蔡瑁を悟らせた
蔡瑁も姉の分析を聞いて変な笑いを上げて喜んだ
この時の劉備は確かに人生の谷底に陥た、襄陽から一歩も出れない上に蔡家からの刺客を用心しなければいけない。
しかし劉備もただ死を待つのでは無く、張飛と関羽の護衛下で在野の氏族や名士を訪ねた。
そして謙虚に振る舞う劉備は一つ運命を変える情報を手に入れた!
それは、劉表を訪ねたとある侠客が重要視されずに帰らされた事
劉備は当然この機会を逃さないようにその侠客を訪ねるために旅館へ向かった
その部屋の扉を叩く前に中から話し声が聞こえて来た
「劉景昇は外に強敵、家に内乱が有る、文官武将の心も統一されず、将帥不仲、有能な部下の話に耳を貸さない、悪を憎むが戦う度胸も無い。荊州はいずれ主が変わるでしょう、このまま襄陽に残れば我々も危険な目に会うかもしれませんね」
「なるほど、つまり劉表は名ばかりか.......」
先の人に比べれば後者の方は声色から察すると老者のようだった
「はい、なので無理に引き留められる前に夜中にここを離れようと思います」
「どこへ行くというのだ?」
「....まだわかりません、烏程侯の子孫伯符が江東で乱を収めていると聞いております。袁術が帝と名乗った時彼は数千の兵で討伐に参加したと聞いて、もしかしたら豪傑かもしれませんね!」
「孫伯符...確かにいいかもしれない、無駄足では無い事を祈る。でなければその才覚は本当に無駄になってしまう」
誰だ?一度しか会っていない劉表から荊州の行く末をここまで分析できるのは只者じゃない!
もしこの話している人が本当に胸に才能を持ち、天下を俯瞰する人材なら!
そう思うと劉備は嬉しくて堪らなかった
劉備は最初こそ軍師の重要さをなめていた、戦場では屈強な兵士さえあれば策略など要らないと
関羽と張飛と同じように思っていた。
そしてもう一つの理由は自分への過大評価。
盧植と兵法を勉強した事で、自分でも"兵法に通じる"と思い込んでしまった
そしてその思い上がりを解いたのは典黙、特に穎川の戦いを経て、軍師が必要だと教訓を得た
劉備は扉を叩くと部屋から扉に近付く足音が聞こえた
扉を開けたのは三十歳前後の男性、見るからに普通の人とは違う雰囲気を漂わせていた
その隣に居る白髪の老者も同じく賢者の風貌をしていた
「私は劉備、ここへは単福先生に会いに来ました。突然で申し訳ありません」
二人は互いに顔を見合せ一礼をした
単福「劉皇叔でしたか、恐れ入ります」
老者「この老骨は名はなく、別号を水鏡」
「単福先生、水鏡先生、失礼ながら先程外からお二人は深夜にここを離れると聞きました。もし宜しければ少しだけお茶を一杯共にできませんか?」
劉備は腰を低くして、皇叔には見えない程の謙虚さを見せた
二人は少し迷ってから劉備を中へ通した
三人が着座してから劉備が口を開く
「先程立ち聞きしたのは不本意ですが単福先生の分析には恐れ入りました。先生はここを離れると言うのなら景昇公の損失は大きいでしょう」
単福は軽く手を振り
「劉表の人なりは皇叔もご存知ではっきり言ってないだけでしょ。私も皇叔が置かれてる状況を存じ上げております、蔡瑁の迫害から逃れる方法を一つ提案しましょう!」
初対面の自分の状況を解決できるのは嬉しい、劉備は内心の驚きを隠せない
「ご教授ください」
単福「城内に入った日から皇叔をお見かけしました、皇叔の的盧馬の目の下に涙溝があり、主の妨げになります。その的盧馬を蔡瑁に贈れば彼に厄災が訪れるでしょう!」
劉備の目は一瞬輝いたがすぐにはその輝きも消えた、彼の受けた教育はその行いを許さなかったのだ
劉備は真剣な顔で断った
「先生の方法は確かに良いかもしれませんが、この劉備はそのような事をしません」
単福「ハッハッハ...劉玄徳は仁義を重んじると噂に聞き及びました、噂通りで良かったです」
噂では劉表は人を見る目があり、剛毅果断と聞いた単福はその噂を信じて劉表に会いに来たが落胆した、なので劉備と会って少し試そうとしていた。
そして劉備の出した答えに単福は少しホッとした
劉備も試された事に気づいて
「試したという事は先生も私に興味があるという事ですね。お願いがあります、どうかお引き受けください!」
単福「皇叔、話してみてください」
劉備は隣に居る穏やかな水鏡先生を一目見てから少し考えて立ち上がった、そして単福の前で両膝を地につけた
「先生、この劉備は黄巾の乱から旗を揚げ今まで十数年戦って来ましたが未だ何の戦果も無く、失敗の連続を味わって来ました。このままでは月日が流れるだけで歳月を無駄にするだけに終わります!どうかお力添えをください!」
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