百三十三話 袁紹への贈り物
昼間から劉協に連れられてパレードのように許昌城を回った典黙は城内のたくさんの少女の心を惹きつけた
かつて霍去病は十八歳に冠軍侯になったように典黙も未だ二十歳。
曹操陣営での四年間は典黙の名は既に天下に轟いた、そして才色兼備の典黙は自然と少女たちの憧れになっていた。
夜になって、もちろん曹操が手配した酒宴が開かれた。
乾杯の掛け声と笑い声が飛び交う中で宴会は深夜まで続いた。
酔っ払いたちが会場を離れたあと曹操は典黙を引っ張って丞相府の芝生に座って雑談を始めた
「今日、陛下が出迎えた事は丞相の仕業でしょ?」
典黙は星空を見上げてダルそうに言った
「劉表とは自分の庭を見張るしか能がない番犬、北上して来たのは十中八九劉備の仕業!」
典黙の前ではいつもの威厳は皆無の曹操はただの年が離れた友人のようだった
「劉備が劉琦を動かせたのは恐らく天子からの手紙でもあるだろう、これを機に辱めるのも警告としては充分」
「それもそうですね…話変わりますが、劉備が荊州に戻って劉表たちに締めあげられるでしょうね〜」
曹操は怒られてシュンっとする劉備の顔を想像したら思わずプッと笑った、そしてすぐ真面目な顔をして
「一つ頭を悩ませる事があってな……」
典黙「袁紹でしょ?」
最後まで聞かずに答えを出した典黙を見て曹操の心は驚きと喜びと少しの安心感で埋まった
そして少し心配そうに話を続ける
「君には隠し事はできんな。知ってるか、公孫瓚は幽州で袁紹に追い詰められつつある、このままでは袁紹が半年前後で北国四州を統一するだろう。袁紹が公孫瓚と揉めてる間に後ろを叩くのが上策だと思ったが、ここ数年の連戦で将兵たちは疲弊している。しばらくは休むべきだろう。子盛が寄越した手紙によれば淮南の方も四万近くの捕虜を捕らえた、これらの捕虜を再編するのにも時間はかかる」
典黙「大変そうですね〜」
芝生に居る二人の間柄はまるで親友のようだった
曹操もこの感覚をとても気に入っていた、彼は典黙がとても好きで、典黙との雑談も好き。
まるでどんな悩みも典黙の前なら言えない事は無いようだった
丞相の威厳は典黙の前では必要が無い
「言い換えれば半年後は袁紹との決戦が始まるって事ですね〜」
典黙は夜風に頬を撫でられて深呼吸して平然と言った、まるで大戦ではなく小競り合いでもするかのようだった
「奉孝からは動かない方がいいと言われた、袁紹が北国統一と同じように我々の軍備を整えるのにも時間がかかる」
曹操は典黙をチラッと見て
「奉孝が言ってた。我に十勝、紹に十敗有る。だから最終的にこの戦いに勝つのは我とな」
典黙「奉孝の十勝十敗論はきっと後世にまで伝わるでしょう!」
曹操は頷いてからまた首を横に振った
「あぁ、しかし我には十一勝ある、最後の一勝は君だ!典子寂!アッハッハッハッハッ!」
鳥肌立つって、曹操の臭い言葉に典黙は背を向けようとしたが背後を取られるのが少し不安になるから警戒して仰向けのまま動かない。
「君はどう思う?」
「どう思うって、袁紹との戦いは避けては通れないでしょうね……ですので袁紹には贈り物を三つほど用意してありますよ」
典黙がそう言うとニヤリと狡猾そうな笑みを浮かべた
歴史上の官渡の戦いでは曹操が烏巣にある袁紹の兵糧倉庫を奇襲して勝利した事で三国時代を代表する戦役になった。
しかし歴史の軌跡は典黙の介入によって変わり烏巣に袁紹の兵糧倉庫があるかどうかは定かでは無い、それどころか戦場は再び官渡になるかどうかもわからない
不確定要素があるからこそ典黙は"贈り物"を三つ用意した
曹操「贈り物を三つも……か」
曹操は典黙の用意周到さに喜んだのでは無く、逆にため息をついた。
麒麟の才である典黙がここまで事前準備をしたという事はそれほど袁紹を警戒しているという事。
悲しい事に、曹操の配下には袁紹の力に怯えてる人も居る
曹操は典黙に贈り物の正体を聞かなかった、典黙が狡猾な笑みを浮かべてるなら袁紹には気の毒だ。
空が明るくなり始めた頃に、二人は雑談を終えた。
典黙は芝生から立ち上がって典府へ戻った。
典韋も麋貞も不在の今広い屋敷が少し寂しさを醸し出していた、思えばこの寂しさは初めてかもしれない。
人肌恋しくなった典黙は兄さんたちのように妓楼へ行ったのでは無い
出かける準備をした典黙は書院へ向かった
路地に入ると突き当たりにある書院の看板もいつの間にか"如黙書院"に変わっていた。
中へ入ると翡翠色の長漢服を着た蔡琰が書き上げた書物を机の引き出しに収納していた
「昭姫ちゃん!」
典黙の呼び声に蔡琰は顔を上げ、タマゴ肌の顔は少し赤みを帯び、美しい瞳からは喜びと驚きが読み取れる。
蔡琰は急いで立ち上がり
「子寂兄さん、お帰りなさい!」
「ただいま、昨日帰って来たよ。晒し者にされていたし、知らないのか?」
「知っています」
蔡琰は袖で口元を隠して少し笑った
「知ってるなら遊びに来れば良かったのに」
「典府へ行きましたけど使用人さんからは丞相府へ行ったと聞きまして、行ってみたら人が多くて入れませんでした」
「これ全部昭姫ちゃんが書いたもの?六千巻とは聞いたがそれ以上はあるぞ?」
典黙は書物を手に取り蔡琰に聞いた
「はい、子寂が帰ってくる前まで複写もしていました」
「複写って、一万近くはあるぞ……明日、見せたいものがある。あれさえあれば一日のうちに十万巻は複写できるぞ!」
そろそろ活字印刷を出してもいい頃だ、ずっと欧鉄を遊ばせるのももったいないし。
「本当に?」
蔡琰は嬉しそうに驚いた
「じゃ今行きましょう!!」
「今はダメだ」
典黙はダルそうに伸び運動をして
「昨日は徹夜したから今はすごく眠い」
「でしたら奥に空き部屋がありますのでそこでゆっくり休んでください」
「一人で寝付けられないよ、寝る前に何かお話をしてよ」
「へぇ〜才気煥発の麒麟軍師がお話無しでは眠れないのですか?」
蔡琰は笑って話したが典黙が横たわる隣で座り話を始めた。
蔡琰がしばらく張良の話をしていたら典黙が手を振りその話を途中で止めた
「味気ない味気ない、他の話にしてよ」
「味気ないですか?どんなのがいいのですか?」
「うん…内容が濃い物で、男女の情があって人を感動させる物がいいかな〜」
典黙の要求に蔡琰は首を傾げ
「例えば?」
「そうだな〜」
典黙は蔡琰の手に手を重ねると彼女は一瞬手を引き抜こうとしたがそうしなかった、ただ顔を赤くして典黙から目を逸らした
「うん、西門慶と潘金蓮の話をしよう!」
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