百八話 大局意識
五日後、典韋と許褚ははしゃぎながら軍営へ走って二千の騎兵を受け取った
虎符を検査する曹休が羨ましそうな顔で二人に聞く
「よう兄弟たち、今度はどんな作戦だ?俺も連れてってよ」
許褚「嫌だね」
「毎回毎回お前らが武勲を立てて俺らが見てるだけじゃないか」
隣に居る曹純も文句を口にした
曹休も曹純も前回の鹿鳴山で参戦ができなかった上、今回は作戦自体を知らなかった。
典韋が曹純の前に近寄り、ぷッと笑い
「弟の立てた作戦だからな、お前も母ちゃんにできる弟を強請ってみれば?」
典韋の屁理屈に曹純は返す言葉も無く、黙り込んだ。
許褚「今から強請ればもしかしたら間に合うかもな!アッハッハッ」
虎賁双雄はゲゲゲと変な笑い方をしながら二千の騎兵を率いて去って行った。
二人が離れたのを見た曹純は唾を吐き捨て
「いやっ、仲康も実の兄じゃないだろう」
虎賁双雄が二千の騎兵と一緒に捕虜の淮南軍から軍服を貰い受け着替えていると趙雲がバッタリそこに出くわした。
趙雲「兄者たち何処へ行くのですか?」
典韋「あっ、子龍に言うの忘れてた!着いて来な、道中で話す」
趙雲「しかし、丞相の命令無しに僕が出るのはさすがに…」
許褚「いいってそんな事、何かあったら俺が責任を取る。もう馬係やってんだ、最悪炊事係に落とされても変わらないよ」
引っ張られた趙雲は困っていた顔こそしていたが内心では喜んでいた。
趙雲も入れて皆で淮南軍の装束をしてから出発した。
一方、曹昂が馬車二台に石をいっぱい積んで帰って来て、散歩している曹操と郭嘉にバッタリ会った。
「子脩、ここ数日会ってなかったね、子寂から事を任されただろ?なんでこんなに石をいっぱい持ち帰ったんだ?」
曹操は好奇心で石を一つ拾い上げて眺めていた。
「丞相、奉孝先生」
曹昂は拱手をして挨拶をして馬車を指さして続けた
「先生の言い伝い通りに火石を買いに周辺の県を回りました」
「火石?」
郭嘉も火石を一つ手に取り不思議そうにしていた
「こんなに火石を集めて何するんだろ…」
曹操「何に使うか、聞いてないのか?」
「いえ、先生はいつものように使い道を話しませんでした、ただ召陵で使うと言っただけです」
曹昂が首を横に振り説明した。
「召陵を火攻めにでもかけるのか?」
曹操も郭嘉に問いかけた
火攻めは現実的ではないな、確かにこの季節は乾燥しているが城内は野外のように燃え移る事が難しい。
まして火石は火油と違って火花を散らすことしかできない。
郭嘉「僕らの見たことが無い兵器でも開発するのでしょうか…子寂灯のように」
「ふむ、かもしれんな…子寂のカラクリ仕掛けも見上げたものだ、墨家のそれよりも優れている」
曹操も深く頷いた。
「奉孝ですら読めないのであれば最後まで待とう!」
曹操は手を振り
「さぁ行きたまえ、先生の補助を優先せよ」
「はい!」
曹操たちと別れた曹昂は二両の馬車を連れて去って行った。
曹操と郭嘉が散歩を終えると議政庁へ戻ると典黙が既にそこにいた。
曹操は衛兵にお茶を淹れさせると皆と着席した
曹操「何かあったのか?」
典黙「伯平と文遠に陥陣営と魯陽に向かわせたので丞相に報告しておこうと思い来ました」
典黙は温かいお茶を啜り答えた。
本来、戦時中なら百名以上の兵を動かくのに虎符必要で、たとえ典黙の軍師祭酒の役職であっても動かせるのは五百名以下。
しかし曹操の持つ二本の剣、倚天剣と青釭剣なら虎符の代わりに兵を動かすこともできる。
倚天剣は曹操が常に持ち歩いている、青釭剣は典黙に預けている事から誰がどう見ても曹操が絶対的な信頼を典黙に預けているとわかる。
「劉備が心配か?」
曹操は眉間に皺を寄せ聞いた
「我々の背後を狙うのではないかと警戒しているのか?」
典黙「劉備は間抜けではありません、我々が袁術と対峙している隙を狙って背後から許昌を狙って天子の奪還を企むかもしれません」
曹操「陛下も劉備の背中を押すためかその皇叔の身分を公認し民間で広めている…その恩恵に報いるために"救い出そう"とか考えてもおかしくないか…」
典黙「"救い出す"…ね、丞相は自分で言って本当にそう信じますか?劉備が董卓たちと違うと?あの御方は何処に行っても許昌よりいい居場所は無いでしょ…」
曹操「……」
典黙は再びお茶を啜り
「それに伯平と文遠は戦場で呂布とは戦えないでしょ!元々陥陣営は袁術の戦力を警戒して切り札として取っておいたが、もうすぐ袁術の勢力も総崩れするだろう…ならここよりも子孝と文和たちの居る魯陽に送りました。そこは八千の新兵しか居ませんからね」
郭嘉「待って子寂、今サラッと袁術が総崩れするって言った?そこまで自信があるのか?」
曹操「我も聞き間違いかと思った、正直今でも兵力では淮南軍の方が上だ。総崩れなどとても予想できん」
総崩れ、その言葉が何を意味するかは言うまでもない。
鹿鳴山で確かに大勝ちしたが八万大軍を有する袁術にとってはまだ致命的な打撃ではない、現時点でも曹操軍よりは二万も多い。
「もうすぐですよ、袁術が召陵に戻りさえすれば奉孝もすぐわかるようになるでしょ!アッハッハッ」
典黙は心地よく笑い答えを教えるつもりは無かった。
曹操「つまりキミの援軍は本当に既に召陵に居るのか!」
典黙「ええ、召陵に袁術が戻れば詰みです!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます