百七話 心の攻め方
「橋蕤はなかなかに骨があるヤツだなぁ、登用は無理がある。陳蘭は…山賊の出だからその態度に揺れ動く物を感じたが袁術からの恩恵を受けたと聞いたから袁術の情報を売らせるのも、間者としての働きも期待出来ないだろう…二人とも生かす価値は無いのか…」
臨穎城内で曹操は後ろで手を組みゆっくり歩きながら呟いていた。
昨日の戦で呂布を追い払った上に三千あまりの捕虜と叶県攻めの橋蕤とその副将の陳蘭を生け捕りにしたものの、有益な情報を得られなかった。
「それはどうでしょう…」
典黙は牢獄の壁に背中を寄りかかり口を開いた
「子寂なら何か手があるのか?」
曹操は気にしない素振りを見せるが興味があった。
典黙「丞相が揺れ動く態度が見えると言った陳蘭からなら情報くらいは聞き出せるかもしれませんね、一応橋蕤の副将ですし」
曹操「陳蘭は山賊出身だが自ら進んで主を売るような笮融とは違うだろう」
「ヘックショ!!」
笮融「きっと先生が私に会いたがって噂をしただろうな!待っててくださいね!必ず任務を遂行しますから!」
召陵では和尚の格好をしている笮融は大きくくしゃみをした。
典黙「使い方次第ですね」
曹操「行ってくれるな?」
典黙「へへっ既に手配をしてあります、兄さんたちが来るまで待ちましょう」
少し時間が過ぎ、典黙が虎賁双雄を連れて牢へ入った。
長い通路を渡り、何軒かの空室を通り過ぎた後橋蕤と陳蘭が囚われている牢へ着いた。
二人はボサボサの頭で両手を鎖で縛られていて、無表情で地べたに座ていた。
許褚「供述次第で二人のうち一人だけを生かすって丞相が言ってたな、どっちから話を聞く?」
典黙「うん…主将の橋蕤から聞こう」
典黙と許褚が橋蕤を連れていくのを見て、無表情だった陳蘭の顔に一抹の不安が過ぎった。
曹操の予想通り、連れていかれた橋蕤はやはり何も話さなかった。
典黙も気にもしないで酒と鶏の丸焼きを用意させた。
典黙「たらふく食べて逝ってらしゃい」
橋蕤も肝が据わってる男、死を前にしても動じずに酒をがぶ飲みして鶏肉にがっついた。
橋蕤の食事が終わると二名の衛兵が彼を処刑場に連れて行った。
典韋に見張られてる陳蘭の部屋へ戻ると陳蘭の余裕も無くなり、変わりに緊張で焦燥していた。
「あぁ〜疲れたなぁ〜橋蕤が物分り良くてよかったわ!陳蘭にはもう用がないから最後の食事を出してあげて〜」
典黙は凝った首を揉みながら文句を零しながら言った。
典黙と虎賁双雄が出口へ向かうと陳蘭が遂に口を開いた
「待ってくれ!橋蕤が降伏するなら俺も降伏する!飯分くらいの働きはするよ!」
「丞相の命令だから僕らも仕方ないだろ〜残念だったね〜」
典黙が肩をすくめて関係ない事を示した。
「なんで橋蕤で俺じゃないんだ!」
激怒した陳蘭は鎖をガラガラと鳴らし叫んだ
「アイツは俺より袁術に付くのが早いだけだ、武芸なら俺の方が上だ!」
典黙はニヤリと笑い、振り向いて牢へ戻って陳蘭の前でしゃがんだ。
典黙「陳将軍、腕が立つ事は知ってますが橋将軍は丞相へ忠誠を誓ったんだ、そこが大事ですね」
「俺も投降する!忠誠を誓う!」
陳蘭は前へじたばたしながら言った
「もう遅いね〜貰える情報次第でその価値を決めるからな〜橋蕤は既に袁術の野営の守備や見張りを教えてくれた。陳将軍は何を教えてくれるんだ?」
陳蘭は目を見開いて顔を歪めていた。
絶対に投降しないと橋蕤から散々言われたのにその張本人が真っ先に投降した
「俺らが大敗したから守備の布陣を変えたはずだ!それならその情報に価値は無いはずだ!」
少しは頭がキレるみたいだね、典黙は陳蘭をチラッと見て更にダメ押しをした
「それはそうと僕らも仕事を完遂しなくてはならないからね、少なくとも橋蕤からは誠意が見えた」
「なら、なら……!」
陳蘭は間者になると言い出すところだったがここ数年袁術から良くしてもらっていたからさすがにそこまではできなかった。
立ち上がる典黙を見て陳蘭は怒りでプルプル震えた。
橋蕤のせいだ!最初から投降すれば何も起きなかったのに!
焦る陳蘭が急に閃いて叫び出す
「待ってくれ!情報ならまだ有る!」
典黙はため息をついて再びしゃがみ
「めんどくさいな〜言ってみてよ」
陳蘭が情報を話終えると典黙が少し疑ったふうに聞いた
「本当に?」
陳蘭「俺の言った通りの時間でその場所に行けば必ずだ!もし嘘ならそん時俺を斬ればいいだろ!」
典黙「もし本当なら丞相に言って陳将軍の武勲にしてあげよう」
陳蘭「あぁ、ありがとうございます!」
典黙が虎賁双雄を連れて外へ行くとそこで待っていた曹操が思わず拍手していた。
「毎回キミの心攻めには度肝を抜かされるよ、陳蘭のヤツ漏らしそうになっていたぞ!ガッハッハッ!して、どんな情報を得たんだ?」
典黙が情報を曹操に話すと曹操は眉間に皺を寄せ髭を捻り
「ふむ…あまり大した情報じゃないが袁術への嫌がらせとして役立つかもな」
典黙「丞相、それはどうでしょ」
曹操「そのニヤケ顔を拝めたという事はまた何か良からぬ事を企んでるな!」
典黙「普通なら確かに大した情報じゃないが今の袁術にとっては致命的な打撃になるでしょ」
曹操は思わず息を大きく吸い驚愕した
「そこまでの事か?」
典黙「丞相、上手く行けば袁術は必ず召陵へ戻ることになるでしょ」
典黙が手首を鳴らし目を細めて言った。
「そして召陵に戻りさえすれば僕の援軍とご対面!」
やはり子寂の言う援軍は人では無いか、一体天の時か地の利なのか、後で見せてもらおう!
隣に居る虎賁双雄がまるで飢えた狼のように曹操をじっと見ていた。
曹操「わかっておる、お主達に行ってもらう予定だ。どうせ行くなって言っても聞かないんだろう」
「えっへっへっへ、ありがとうございます丞相!」
典韋と許褚は顔を見合わせて間抜けな笑顔を見せた。
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