百三話 袁術の策士

呂布が敗れた後、臨穎城は数日間平和を取り戻した。

暇で仕方ない曹操はじっとしてられない典韋らを連れて釣りに行った。


一時間くらい何も釣れなかった典韋はついに立ち上がり暴れだした。

「ウガー!魚なんか居ねぇじゃねぇか!」


「ふんっ」

曹昂は鼻で笑て、典韋の目の前で曹操と郭嘉が釣り上げた二十匹くらいの魚を池に戻した。


また一時間が過ぎ、我慢できなくなった典韋が釣竿で池の水を掻き回し始めた。


曹操「うるさい!お前を池に投げ込んでやろうか」


「丞相、こんなのつまらない」

典韋が釣竿を池に放り込み、曹操の前に行き、ヘラヘラしていた。

「俺らも袁術軍の前で暴言を吐いて呂布を引きずり出そうぜ!三人掛かりでもう一度アイツをぶっ飛ばしてやろうぜ!」


曹操「ふざけるな、一騎打ちは士気を下げさせる事で攻城戦を有利に進めるためにあるもの。今はまだその時じゃない、大人しく待っていろ」


曹操は教育者のような口振りで更に諭す

「お前たちを連れて来たのは忍耐力を磨くためでもある、仲康を見ろ、一言も発しておらんぞ、お前よりは忍耐力がある…」


許褚「ZZZ」


典韋「ふっ、忍耐力ね」


「この馬夫!池に入るべきなのはお主だ!」

曹操は石ころを拾い上げて許褚目掛けて放り投げた。


許褚「子盛、丞相へちょっかい出すなよ、俺まで巻き添いを食らったじゃないか…」

典韋も何かを言い返すって時に一名の伝令兵が竹簡を持って走って来た。


伝令兵「丞相!斥候より報告、叶県周囲に袁術軍を確認、その数約五千前後、橋の大旗から、隊を率いる恐らく橋蕤かと思われます!」


曹操は釣竿を下ろし竹簡を手に取り、典韋らもその周りに集まった。


曹操「袁術は側翼から穎川に侵攻し着実に郡を占領してから挟み撃ちの態勢を作ろうとしているのか?」


兵力で優位に立っていれば兵力を割いて周辺から県や郡を一つずつ占領して行くのは常套手段。

それに意外性は感じられなかった


「丞相、俺に行かせてくれ!三千の兵があれば充分!」

典韋が上目遣いで曹操に言った。


「俺も行きたい!もうじっとしてられないです!」

許褚も名乗り出した。


曹操は虎賁双雄の懇願にはすぐに答えず、典黙や郭嘉を見た。


郭嘉と典黙の二人は顔を見合わせて頷いて、典黙が口を開く

「まさか今になってもまだ袁術に策士が居るとはな…」


袁術が帝を名乗った時に閻象が馬に乗って曲阿に向かうのを曹仁から聞いた事がある。

今の淮南軍に陳宮も居無い、それでもこのような策を張り巡らせてくる事を典黙は不思議に思った。


「丞相、袁術は叶県を囲むことで我が軍の援軍を待ち伏せする算段を企んでおりましょう」

郭嘉がわかりやすくその策を説明した。


「伏兵か?では見捨てるしかないのか…」

曹操は少し残念そうに言った。


「それはなりません!叶県を見捨てれば他の郡、県は万が一囲まれれば援軍を期待できないと思いあっさり投降してしまいます。そうすれば我々は側翼を失いつつ、いずれ完全に包囲されます」

郭嘉は言い終わると酒瓢箪を持ち上げ中身をゴクゴクと呑んだ。


「ならば二万の兵を率いて伏兵諸共叩こう!」

許褚は待ちきれない勢いを見せてそう言った。


「袁術は我々の援軍を誘い出そうとしている、その数も知らないうちに互いに増援を出し続ければ決戦になってしまう。それは袁術の思うつぼにハマる事になるぞ」

曹操は目を伏せて少し頭を悩まされた。

「袁術の策士をなめていたな…」


曹操の分析を聞いた典韋も許褚も曹昂も驚いた、ただの伏兵だと思っていたのにまさかここまで対策に困ると思わなかった。


「一体誰がこのような策を提案したのでしょう...」

典黙は顎を摩り、その策の提案者に思い当たる所がなかった。

名の知れる策士がもう居ないはずなのに、まさか歴史の表に出ていない策士でも居るのかと少し不安を感じていた。


「そんなの誰でも良いじゃないか、破る方法あるのか?」

許褚は典黙の釣竿を奪い取って聞いた。


典黙「そんなに焦るな仲康兄、待ち伏せだとわかればその伏兵の場所と兵力を推測すれば逆に利用もできるでしょう」


叶県が包囲されたのを聞いた時から典黙は既に対策を考えついた、ただその策を出した人に興味を持った。


「ハッハッハ!それならいい!やる事が出てきたぜ!」

典韋は手を擦りながら喜んでいた。


郭嘉「それなら近くにある鹿鳴山が伏兵に向いてますね、小さい山ですので伏せられる兵も八千を超えないでしょう」

やはり穎川出身の郭嘉はこの一帯の地理に詳しい。


郭嘉の話が終わると曹操の釣竿は当たり、それを引き上げると二斤ほどの魚を釣り上げた。


「袁術は我を魚に見立てて釣ろうとしたが、我も同じ気持ちだ。果たしてどっちが魚になるのか!」


「子寂、奉孝、誰が行くべきだと思う?」

曹操が魚を籠に放り投げてから二人に聞いた。


「呂布が一騎打ちで負けたからその雪辱に待ち伏せに参加する事間違えありません。子盛、仲康、子龍の三人が揃って行くべきかと思います」

郭嘉が先にそう言うと子寂も頷いて同意した。


曹操「子龍を呼んで一万の兵を率い午後から出発だ」


「はい!」

虎賁双雄が嬉しそうに走り出した。

二人にしてみれば釣りと比べれば出陣がご褒美に感じられた。


虎賁双雄が去った後曹操は笑って典黙に聞いた

「子寂、君の援軍はいつ来るんだ?このままではその援軍の出る幕も無くなるかもな。ハッハッハ!」


曹操は気持ち良くなっていた

この戦が終われば袁術軍は更に打撃を受け、攻城戦を無理に仕掛けることも無くなるだろ


「奉孝は援軍の正体に気づいたか?」

曹操は郭嘉に質問を投げると郭嘉は首を横に振り

「最初は呂布の離反だと思ってましたが一騎打ちの際に討ち取っても良いと聞いたのでその線も消えました。文和の予想は袁術の元を去った孫策でしたが彼は未だその力もない。わかりませんね…」


曹操「子寂、少し手がかりを提示しても良いだろう」


典黙「成るもまた蕭何、敗るるもまた蕭何。この度袁術が帝を名乗ったのがそれに当たりますね」


曹操と郭嘉は互いに顔を見合わせた。

確かに彭城攻略の時も典黙が障害であるはずの大雨を逆に利用して水攻めをしていた


「ふむ…やはり謎解きは苦手だ。奉孝あとは頼むぞ」

曹操は顎髭を擦りながら諦めた風に話した。

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